今明かされる! 警備警察のごく一部

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 今明かされる! 警備警察の、ごく一部。一部であって、決して全てではありません。

 もともと警備警察好きな人間であるところの管理人、刑事や交通、まして生安などは守備範囲外。警務や通信というところまでいくともう……であります。もっとも、ではその警備警察ならば「全て」を押さえているのか?と問われると、口ごもらざるを得ない訳なのですが、まあそこは大目に見て頂くとしまして。

 そういう訳で、ここで御紹介するのは警備警察関係なのですね。この項では、この愛すべき(!!)警備警察の任務、組織、偉業(?)について御紹介致しましょう。さぁ、ここを読んであなたも警備警察フリークに!

2.あきらめろ 盾の向こうに 機動隊
2.1.原発を守れ
2.2.ニッポン警備警察特殊部隊
3.誇り高き 汝の名は公安警察
3.1.SPは目立ってナンボ
4.スパイ・キャッチャー
4.1.国際テロ撲滅!
おまけ・福岡県警警備警察のあゆみ

1.警備警察基礎講座

 さて、まずは基本の「警備とは何ぞや」です。警備警察のお仕事基本編。

 警備は、フタを開けてみるとそれはそれは色んな事をやってます。機動隊使って、デモ隊追いかけ回したり災害出動したり、かと思えば爆弾事件で出張って来たり、スパイ狩りもしてますね。盗聴器仕掛けて怒られる事もあったりして。で、こんな事をどうして「警備が」やってるんでしょうか。例えば、刑事課のデカさんではいけないのか? 同じ暴行事件でも、例えば酔った勢いで目の前のさらりーまんをポカッとやったら刑事さんが来るのに、国体を見に来た皇太子殿下に殴りかかったら公安につかまるのはどうしてなんでしょう。

 警備警察の本来的な定義とは、

「騒擾・災害・その他緊急の事態が発生した場合、公共の安全と秩序を維持し、個人の生命・身体・財産の保護に当たるもの」
「憲法を頂点とする法治国の秩序が、正当な手続きによらず、暴力で破壊される事のないようにすること」

で、あるそうです。究極的には、簡潔に「公安の維持」となりますか。ですから、集団事件やテロといった、言わば社会を大きくゆさぶるような暴力犯罪を予防し、鎮圧し、取り締まるのが警備警察の仕事であると。

 ここで「うそだぁ」と冷笑する人もいらっしゃるでしょうけど、まだ続きがあります。文句はもう少し先でどうぞ。で、この有事に際して公安を維持し、国民を守るためには

「緊急時においては組織的に事態鎮圧に当たる必要があるため、平時から専門の部隊を常設し訓練しておかなければならない。」

んだ、そうです。この常設部隊がつまり機動隊なんですね。で、先にも述べたように警備警察が対象とする犯罪とは、集団事件やテロリズムなんかです。社会を大きく揺さぶるような暴力犯罪です。こういった犯罪は一般的に、

「犯人が確信犯であり、長期的見通しに立って準備を行い、検挙を逃れるために巧妙かつ組織的に犯罪が敢行されるのが常である。よってこの種の犯罪の予防と検挙には、日頃から犯罪についての情報蒐集が不可欠である。」

と。そういう訳で、警備警察は機動隊を持つ他、不断の情報収集活動を行っているのであります。厳密には、同じ警備活動でも前者は警備実施活動、後者は警備情報活動というんですけどね。あるいは一般になじみがある呼び方では、前者が警備、後者が公安、というやつかな。

 まぁ要約しますに、警備警察の相手とする犯罪はただの犯罪ではなく、社会を揺さぶり法秩序を暴力で破壊せんとする犯罪である。こうした犯罪はえてして集団的、あるいは計画的に準備敢行されるものであるからして、これが取締に当たる側にも専門の組織を作りそれなりの工夫をこらす必要がある。その専門の組織というのが、警備警察である。そして警備警察は、公安を維持し且つ有事にあって有効に働き得るよう、各種の部隊を設置運用し、又不断に情報収集を行っている。まる。

2.あきらめろ 盾の向こうに 機動隊

 狭い意味での警備の話です。警察の部門でいうなら、該当するのは警察庁警備局警備課、警視庁警備部警備第一課、各道府県警警備部警備課ないし警備第一課あたり。が、主な中身は機動隊の話になるでしょう。いやぁ、このページはこの話をしたいがために作ったようなもんです。しかし。そのねたに突入する前にまずは警備の基本を押えておきましょう。

 警備の仕事とは、細かく分ければ幾つかありますが、おおまかに言うと

  1. 緊急事態対策計画の策定と実施
  2. 治安警備、災害警備実施
  3. 警備実施に関連する犯罪の捜査
  4. (以下省略)

で、あります。早い話が「警備実施」なのですね。有事に際し主に機動隊を使って警察活動を行なう部署なのであります。その警備実施とは、何か。

「警備実施は、警備犯罪、災害または雑踏事故が発生し、または発生するおそれがある場合において、部隊の運用を伴う警察活動により、個人の生命、身体及び財産を保護し、ならびに公共の安全と秩序を維持する事をその目的とする。」

警備実施要則 第2条

 難しく言えばこうです。警備実施要則ですから、警備実施はこの規則にのっとって行なわれる訳でして。警備の聖典みたいなもの……と言ったら、言い過ぎかな? ま、つまり分かりやすくリストに分類すると、警備実施活動とは、

  1. 警備犯罪に対応→治安警備
  2. 災害に対応→災害警備
  3. 雑踏事故に対応→雑踏警備

 の3つに分けられるんであります。この他に機動隊が任務とするところに「捜査共助」てのもありますが、警備実施活動でないのでパスします。ちなみにこの捜査共助の好例が1995年、平成7年の3月のかのオウム事件捜査になります。また99年以降最近の暴走族対策には機動隊が動員されることも多いようですが、これも捜査共助です。加えて、以前は「集団警邏」て任務もあったんですが……最近はどうなのかな? ここではこれも外しますけど。

 個々の警備実施活動の内容を、もう少し深く見ていきましょうかね。まずは災害警備から。機動隊を見るもっとも身近(?)な事件といえば、最近ではこれくらいでしょう。つまり、災害が起きた時現地に出動して、組織力をいかして被災者の救助に当たるというやつです。デモ対策がめっきり減った今では、事実上これが機動隊の第1の任務になった感すらある。そのせいか、この頃では大抵の機動隊がレスキュー専門の部隊を置いているようです。また、広域緊急援助隊という、全国規模の災害救助専門部隊を作ったりもしてます。

 災害時の人命救助はまず消防、という私の勝手な認識(笑)とは裏腹に、これら機動隊レスキューチームが出動する事例は多いらしく、テレビでもしょっちゅう目にします。例えば、大勢の方が亡くなった平成11年8月の神奈川県・玄倉川における河川水難事故では、県警の1機と2機が出動して大活躍でした。機動隊はいつからレスキュー隊になったんだろう、と思っちゃうくらいです。(いや、別にけなしているつもりはありませんので。あしからず……)

 機動隊の活動を語る上でもはや外せないくらいに大きなウエイトを占めている災害警備ですが、しかしこれを取り上げるのは本項の目的ではないにつき、ここでは敢えて(爆)外します。代わりに……と言っては何ですが、警察の災害対策活動については、「にっぽんの危機」の災害対策コーナーにて簡単に取り上げてありますので、そちらをご参照下さい。

 あと、これは余談ですが……。警察も今では大体Web Page持っていて、そこを見ると機動隊の役割が簡単に説明してあったりするんですが、そこに書かれている文句は、どこの警察でもよく似ています。

「機動隊の役割;災害や祭りの時などに出動し、組織的に救助活動や事故防止を行います。」

 大体こんなもの。災害警備は、なるほど重要は重要ですが、機動隊にソフトイメージを植え付けてその本質を隠蔽するのにも最適なんですね。ん、これは下衆の勘繰りか?

 次。雑踏警備です。ちょっと見よく分からないかもしれないけど、要はお祭りやパレードの時の混乱防止、と考えて下さればよろしいかと。狭い所に人が詰めかけたり、あるいは急激な人波で怪我する人が出たりしないように、観客をさばくのが仕事内容です。同じ祭りでの出動でも、スリ対策は警備じゃない。

 普通機動隊といへばあのごっつい出動服が連想されますけど、雑踏警備の時は違います。一般の人が大挙してやってくるお楽しみムードに水を差しちゃいけないと、この時は一般のお巡りさんと同じ格好です。

 3種ある警備実施の中で一番実施回数が多いのが、多分これでしょう。祭なんて、日本全国あちこちで、しかも毎年あるものですからね。また、観客さばきが基本、服装は普通の制服、ということで、一番警備らしくない警備実施、といってもいいかもしれません。

 ただし。最近では、祭の主催者や地方自治体が警備会社に委託して自主的に警備を行うことが多くなり、観客をさばくという本来の意味での雑踏警備は以前に較べめっきり少なくなりつつあるようです。機動隊が出動したとしても、それは雑踏警備に名を借りただけ、実際はすりやけんかの予防のための集団警邏、あるいは交通部局への捜査共助活動、特に暴走族対策、であることが多くなっています。

 最近、平成13年7月に兵庫県明石市で花火大会に伴い発生した雑踏事故のせいで、再び雑踏警備をクローズアップして見る向きもあるようですが……しかし私の感覚では、あれは例外です。本来の意味での雑踏警備を機動隊が行う例は、減っていくことはあっても増えることはないのではないでしょうか。

 さてさて、ようやくやって参りました。治安警備の項であります。警察関係者がなんと言おうと、過去において機動隊、いや警備警察そのものがこのために設置運営されて来たという事実は、動かし難いものがあります。(もっとも、最近では一番出番が少なくなってる任務なんですけどね)

 その治安警備とは具体的にはいかなるものか、でありますが、一言で言うと「警備犯罪の鎮圧」です。警備犯罪というとわかりにくいですけど、一般に想定されているのは多衆集合して違法・暴力行為をなす、その暴力行為を鎮圧し治安を維持するというもの。この「集団的違法・暴力行為」に発展する恐れアリという理由で、デモや集会なんかに機動隊が出張るのであります。

 デモ行進や集会は、憲法で保証された表現の自由の一環を成すものであります。という事で治安警備活動は歴史的に、特に左翼からの厳しい批判にさらされて来ました。目的はともかく基本的にデモ・集会の規制は好ましくなく、まして一部の暴力行為を理由に全てのデモに警備の規制を付けるなど何事であるか……と。加えて過激派の安保闘争がらみでデモ・集会参加者への職務質問や所持品検査が執拗にして厳格を極めた事もあり、特に1960・70年代には両者は真っ向から激突する事になります。

 まぁ警察の方からすると権利をふりかざして安寧を乱す不逞の輩、となるんでしょう。それに経過はどうあれ、結果は警備警察側の圧勝だったりする。やはり理論も力のあるやつには通用しなかった、とか!?(爆)

 又このデモや集会といったものは国民の意思表示の一環、つまり多分に政治性を帯びたものであります。とすると政治的意見の違いを理由に意図的組織的に集団不法行為に至る場合も少なくない、として、鎮圧に当たっての事前情報蒐集が非常に重要視されるようになりました。これは余談ですが、この情報蒐集活動がつまり公安の役どころである訳です。

 さて、災害騒擾その他の「警備事案」に部隊として組織的に、一致協力して当たるようにとの目的で設置されているのが、機動隊です。前にも言いましたね。ではこの機動隊とは、どういう組織なのでしょうか。装備なんか、右な人からは手緩いと言われ左な人からは治安軍並だと言われるんですが、実際のとこどうなんでしょ?

 これについては、いちいち述べ始めると相当な長さになります。よって機動隊のみを取り上げたページを別に作成致しました。(筆者の趣味上の問題により)治安警備部隊としての機動隊、という観点から、機動隊のルーツ、装備、編成、その歩み等々、一読すればあなたも立派に機動隊ヲタク!となれるように書いておきました。是非御覧下さい(笑)。リンクはこちらです。

2.1 原発を守れ

 狭義の警備実施とは違うけど、広い意味で警備の仕事として捉えられている仕事。そういうものもいくつかあります。

 警備実施というものはどういうものであったか。今一度その定義をここに掲げてみます。警備実施とは。

「警備実施は、警備犯罪、災害または雑踏事故が発生し、または発生するおそれがある場合において、部隊の運用を伴う警察活動により、個人の生命、身体及び財産を保護し、ならびに公共の安全と秩序を維持する事をその目的とする。」

と、こういうものでした。で、この定義に当てはまる警備実施として治安・災害・雑踏の3つの警備実施を挙げました。定義冒頭の「警備犯罪、災害または雑踏事故」に対処するものとして「治安・災害・雑踏警備実施」がある訳です。

 さてここで、警備の対処するものの内災害と雑踏事故は、どういうものかが比較的はっきりしていて、分かりやすいものです。ところで警備犯罪とは、実のところ実態がそれほどはっきりしたものではありません。前項では「集団犯罪」であると一言にさくりと断言してしまいましたが、広い意味の警備犯罪は、決して集団犯罪だけではありません。

 例えばテロリストが原発を襲おうとした時、これは少人数であっても警備警察の取締対象になります。又例えば自衛隊の人間がクーデターを画策したとすると、これも少人数でも警備警察の取締対象になります。これらは、たとえ少人数であっても、警備警察によって取り締まられる立派な警備犯罪なのです。

 ではそもそもその警備犯罪とは何ぞやという事になるんですけれども、これにはかっちりとした定義はどうやらないようです。前記警備警察の定義の中に「公共の安全と秩序を維持」とありますから、どうやら「公安を害する犯罪」が警備犯罪であると、そういう事になるようですね。

 ちなみにこの「公安を害する犯罪」というものが具体的にどんなものと考えられているかと言いますと、こういう風になります。元ねたはかなり古いものなんですけど、とりあえず列挙しますれば

  • 内乱・外患・国交に関する犯罪
  • 天皇及び皇族に関する犯罪
  • 外国の君主・大統領又は使節に対する犯罪
  • 騒擾罪
  • 違法争議行為その他労働組合運動に関連して発生した犯罪
  • 学生運動・農民運動その他大衆運動に関連して発生した犯罪
  • 列車妨害・公務所に対する放火又は破壊等の犯罪
  • 政治目的による暗殺その他これに類する暴力犯罪
  • 武器又は爆発物に関する特異又は重大な犯罪
  • 公安条例違反その他集会又は示威行進に関連する犯罪
  • その他集団的暴力犯罪
  • 破壊活動防止法違反
  • 防衛秘密保護法等秘密保護に関する法令違反

こんな感じ。確かに集団犯罪関係が多いですけれども、そうではないものも沢山ありますね。最近ではこれに、核物質に関する罪や国際テロリズムが加わっているといったところでしょうか。

 さてと。ぐちゃぐちゃ書いてきてようやく本題に繋がって参りました。そう、集団犯罪ではないけれども警備犯罪である犯罪というのも沢山あって、警備はそれの取締も一部やっておりますよと。で、その一部というのが核物質防護でありますよと。勿論、核物質防護以外にも警備犯罪取締というのは上記のようにいろいろあるんですけれども、それは警備の管轄ではないので、管轄のところで随時お話していく事にします。ここは、核物質の話。

 原発や核物質を取り扱うのは本来経済産業省や文部科学省ですから、警察の出る幕ではないはず。それがなんで警察がからんで来るのかと言えば、仮に核物質が奪われたりしたら治安上大変な事になるから。当たり前ですね。

 具体的な核物質防護の内容は、原子炉等規制法に記してあります。それによると警備警察は、施設外における核物質防護、つまり核物質の輸送段階において、その防護の任に当たる事になっています。防護活動の内容については、「にっぽんの危機」の核防護項に移しましたので、そちらをご覧ください。

 通常核防護と言うと、輸送中の核物質防護だけに限らず、それ以外の場合における核物質防護、核関連施設防護、さらには核テロリストの鎮圧・検挙までもが含まれるように思われるかもしれません。が、日本の警備警察による核物質防護は違います。あくまで、輸送中の核物質の防護に限定される。

 ですから、例えば原発の警備は第一義的には警察の責務とはされておらず、又核ジャック犯人の捜査・検挙は、核物質防護とは又別の問題として峻別されています。原発内に警察官が常駐して常に警戒している訳ではなく、核ジャック犯人に対する実力行使はもちろん通常の警察力行使の範囲内にとどめられ、核テロリストは凶悪だからその鎮圧に際しては特別強い権限を与えよう!なんて言う事はありません。ここら辺はさすが法律、きっちり抑えが効いておりますと。これを生温いと見るか正当だと見るかは、意見の分かれるところでしょう。

 ちなみに、警官がいないんなら誰が原発警備をやってるんだ?となりますが、その答えは「警備員」です。何といっても、原発は電力会社が自前で土地を買って自前で作った私有の施設であるにつき、そこに警察がみだりに立ち入る事はできません。で、そこの警備についても直接の責任は事業者が負い、事業者が警備会社と契約して警備員を派遣してもらい、警備している訳です。

 もちろん、だからといって警察も黙っている訳ではなく、施設周辺に警備拠点を作るなり、重点的に警らするなり、また何か事件が起こりそうだとなれば機動隊などを派遣するなりして警備に当たります。しかしその警備も、敷地の外で行われるのが原則で、敷地内に警察が入って警備するのは例外、普通ならせいぜい門のところぎりぎりまで。

 平成13年9月、アメリカで航空機を用いた同時多発テロ事件が発生し、それを受けて同盟国たる我が国でもテロ事件が発生するおそれありとして警戒が強められる事になりました。原子力関係では、管区機動隊を動員し商業用原発を中心とする核関連施設の警備が強化されました。しかるにこの警備は、あくまで、核関連施設周辺で警戒を強めるものであり、敷地内に部隊が常駐して警備に当たるものではありませんでした。

 また平成14年6月、韓国と日本でFIFA W杯大会が開催されましたが、管区機動隊がこの警備に動員されたため、手薄となる原発警備のテコ入れをする必要が生じました。そこで12道県警にて機動隊の銃器対策部隊を中心とした「原子力関連施設警戒隊」を編成し、16ヶ所の商業用原発の警備に投入しました。しかるにこの警備は、あくまで、原発周辺で警戒を強めるものであり、敷地内に部隊が常駐して警備に当たるものではありませんでした。

 これを手ぬるいとする見方もあるいでしょう。原発を襲おうと考えるようなテロリストの連中は、凶暴で目的のためには手段を選ばず、しかも往々にして強力に武装してその扱いにも習熟してるものである、そんな凶悪な連中を阻止するのが、よりにもよって丸腰の警備員だとは、そんなんじゃ警察が駆けつける前に原発は占拠されてしまって大事になるではないか……という意見も、有る事でしょう。警備警察もこの点については、不満を持っている様子。まあ分かります。

 勿論、警備警察としては核テロ・原発乗っ取り犯の捜査検挙も行うんですけれども、それ以前に事件の「鎮圧」が出来なけりゃあ検挙も何もあったもんじゃありませんね。で、一旦施設内に立て籠もられてしまうと、これを制圧するのはさぞかし困難である事、想像に難くありません。まして相手が強力に武装しているとなると、一体どうやって制圧するんだろうか……と、心配になります。まあ、仮定の話では、ありますけれども。

 核関連施設という機微な施設の警備を警備警察に任せず、事業者の自己責任による警備を第一義とする、その合理的理由がどこにあるのか今一つ察しかねますが。ともかく現行法では、このようになっております。

2.2 ニッポン警備警察特殊部隊

 ここでは、特殊部隊の話をちょっと致しましょう。特殊部隊が必要となるような事件にして警備事件でもある事件、というのは、実は結構多いようです。ということで、警備警察には特殊部隊。切っても切れません。

 ここは警備警察を云々する場である、という訳で、以下取り扱うのは警備犯罪に立ち向かう警察特殊部隊の話です。現在進行中の警備犯罪を実力でもって鎮圧するという事で、警備の項に繰り入れてみました。

 特殊部隊……と言うと何となく、軍隊みたいな格好してサブマシンガンや狙撃銃装備してる人質救出用の精鋭突入部隊が思い浮かびますが、特殊部隊はなにもこれに限られる訳ではありません。特殊部隊の定義は

「特殊な分野における専門的能力を保持した精鋭部隊」

という訳で、例えば狙撃隊や爆発物処理隊なんかも立派な特殊部隊です。いやそもそも機動隊からしてRiot Policeと呼称される、暴徒鎮圧特殊部隊であるとも考えられます。が、まぁそういった中でも特に人質救出部隊はで出色の存在と見られている訳なんですが。

 警備犯罪に立ち向かう特殊部隊、中でも出色の人質救出部隊、これを分かりやすく別の言葉で言うとしたら「対テロ特殊部隊」という事になるでしょうか。人質を取ってテロリストが籠城する、その時に出動する部隊という訳です。

 テロリズムの定義とは、色々ありますが、二三挙げてみると

「事前に謀られ、政治的に動機付けられた暴力のうち、非戦闘員を標的として、民族・宗教的グループ又は秘密工作員によって行われるもので、通常それを見る人々に影響を与える意図のもとに行われる」
「恐怖又は不安の拡散により、政治的と称される目的の達成を狙って計画された組織グループによる暴力的犯罪活動をいう」

などなど。まあ、早い話が政治がらみの凶悪な暴力犯罪であると。

 1997年4月23日、テロリストに占拠されたペルー日本大使公邸に、ペルー軍特殊部隊が突入。隊員2名と人質1名が死亡したものの、テロリスト14名は全員射殺、人質は死亡した1名を除く全員を救出した。1972年を生きた人々にとって「あさま山荘」事件が衝撃的であったのと同様、1997年を生きた人々にとってこの事件は衝撃的でした。衝撃的で、鮮烈。この後、国内では一時自前の人質救出部隊保有の是非が熱く論じられました。

 ビルジャックにしろハイジャックにしろ、テロリストはしばしば要求貫徹のための鍵として、又己を治安機関から守る盾として、人質を取ります。そういった場合テロリストは往々にして強力に武装しており、またその犯行も計画的なものです。目的のためには手段を選ばず、特殊部隊の突入も当然予想し、なんらかの対応策を練っている事でしょう。一筋縄で行く相手ではありません。

 そのテロリストを制圧して人質を救出するとなると、高度な技術と特殊な装備が必要となるであろう事、想像に難くありません。強敵相手に一歩も引かず銃を撃ちまくりながら突入していく……という(多分に誤れる)派手さと華々しさの伴うイメージとも併せて、こうした技術と装備が人質救出部隊をして出色の存在となさしめている訳です。

 世界を見回してみると、このための部隊は軍隊/警察を問わず数多く設けられています。有名どころでは、ドイツ国境警備隊ののGSG-9、フランス国家憲兵隊のGIGN、イギリス陸軍のSAS、アメリカ連邦軍のデルタフォース、アメリカ連邦捜査局のHRT。などなど。数え上げていけばきりがありません。

 こういった各国の特殊部隊には、それぞれ御国柄が表れた特徴があり、精鋭部隊の名に恥じぬ実績も挙げております。それらを一々取り上げて紹介して行くのも又楽しいんですが、しかしそれはここの趣旨ではありません。ここで取り上げるのは、あくまで日本の警備警察特殊部隊であります。いやどうしても知りたいという方は、我が館の趣味リンクスを辿って見られる事をお勧め致します。きっとその先に良きページがある事でしょう。

 さて、こういった対テロ特殊部隊が共通して持っているのは、高度な技術・特殊な装備だけではありません。これらに加え、テロリストに容赦しない決意、というものもまた持ち合わせています。すなわち、人質救出部隊に要求されるのは何よりもまず、人質の生命の保護。そのために必要なのは犯人=テロリストの速やかなる排除。従って人質の生命の安全のためにテロリストには情け無用という訳です。

 これを端的に言い表して曰く、「良いテロリストとは、死んだテロリストのこと」。うーん、簡潔にして完璧。

 対テロリズム人質救出作戦では、何よりもまず人質の生命の安全が優先されます。そこでのテロリストは、速やかに排除されるべき存在でしかありません。隊員の一瞬のちゅうちょが、テロリストの反撃と作戦の失敗、ひいては人質の生命の危機に繋がります。故に対テロ特殊部隊は、優秀で、冷徹で、高度に訓練され装備された選び抜かれたエリート部隊でなくてはならないのです。

 それ故に……と言うべきでしょうか。警察特殊部隊は、 "理想的" 対テロ特殊部隊にはなり得ません。警察機関の任務としての人質救出作戦の場合、人質の無事救出と共に犯人の逮捕が重要な課題となります。警察機関は、人質の生命を尊重する一方犯人の生命も出来うる限り尊重するよう求められています。強力に武装した凶悪なテロリストを、排除するだけでなく逮捕する。この任務の困難さはまさに目をみはらんばかりです。多くの国において人質救出部隊が軍隊に編成されているのは、こういった理由からです。

 しかし幾つかの先進国を含め、人質救出部隊を警察に編成している国は少なくありません。テロリズムは現象としては犯罪であり、そして犯罪に対応するのは警察だからです。これは日本にも当てはまります。テロリズムは警備犯罪、という事でこれに対応する人質救出部隊としてSATが、警備の下に設置運用されています。これを良しと見るか悪しと見るかは、人それぞれでありましょう。

 警備警察には、SATの他にも警備犯罪に立ち向かう特殊部隊が幾つか編成されています。それらの部隊を取り上げたページをこちらに作っておきましたので、興味のある方はどうぞ。

3.誇り高き 汝の名は公安警察

 こうあん、のお話。中国では「公安」と言えば一般警察の事を指しますが、日本では「公安」といえば○×△□なところを指します、なーんてね。色々言われてるけど、右か左な人以外はあまりお世話になることもないところでしょう。もっとも、秘密たっぷりな部門である事は確かですけどね。

 上でも書きましたけどそもそも私は警備な人間でして、公安にはあまり燃えないんですけれども。でも警備実施と警備情報は警備警察の両輪、という訳で目を通してみるのでありました。

 公安公安、とよく言われますが、公式には公安はあくまで広義の警備警察の一部に過ぎません。警察庁の公安×課はいずれも「警備局」の下にありますし、又警視庁を除く全国の道府県警察本部においても、公安×課あるいは公安課はやはり「警備部」の下にあります。公安部局が1つしかなくて公安の名を冠さない時は、警備第二課と呼ばれるのが例です(もちろん、中には例外もありますが)。警視庁だけは例外的に警備部と並んで公安部があり、公安関連各課・隊を束ねていますが、その公安部も元の名前は「警備第二部」でした。

 警備に比べて秘密は多いし、なんとなくグロさがあるんでいかにもな感じで言われますけど、でも警備公安警察という名称はあまり正確ではない。少なくとも私はそう考えています。

 さてこの公安の任務でありますが、列挙してみるとおおむね次のようになります。

  1. 警備情報活動
  2. 警備犯罪の捜査
  3. 警備資料の管理
  4. (以下省略)

 このように、情報をどうこうする仕事が多いのが特徴です。警備犯罪というのは「公安を害する犯罪である」と、警備のところで述べましたね。で、この警備犯罪というものには色んな種類があるという事も述べました。ここでいう警備犯罪も同じもので、そこから「警備実施に関連する犯罪」を除いたやつです。具体的なところでは爆弾事件なんかがこれに該当しますか。

 公安の主たる任務であるところの警備情報活動、この意義や目的について端的に述べた一文を、次に掲げます。

「もしも治安維持の責務もつ警察が、暴動や騒擾事件が眼前に現出するまで、それについて何ら知るところがないならば、警察はそれを鎮圧する上において最初から遅れをとり、いたずらに事態を拡大させ、ついには暴力的計画の遂行者に敗れ、警察の責務を果たすことができなくなる。したがって、警察は、その本来の使命達成のために、平素から、公安維持に関連する社会の一切の事象とその動向についての情報を集め、将来発生する事態の予見、それに対する合理的な対策を持つ必要がある。こうした対策の基礎資料となるのが警備情報である。すなわち、警備情報は警備警察の基礎であり、また触覚的役割を果たすものとであるといえよう。」

立花書房 『警備警察全書』より引用

 これについては賛成、反対、意見は色々ある事でしょう。とまれ公安は、かような論理でもって設立以来不断に情報収集活動を行なって来たのでありました。

 こうして得られた情報を元に警備犯罪の捜査や治安警備実施が行なわれる訳ですから、公安の「国を守っている」というエリート意識には相当なものがあると聞きます。ふむ……。ま、ここまでは分からなくもありません。

 よく問題になるのはこれから先であります。すなわち、公安が情報を欲しがる相手=「暴力的計画の遂行者」は通常秘密裏に計画を立てるもの。よって、こんな連中についての情報を集めるにはおおっぴらに話を聞いて回っても相手を警戒させるばかりで大して効果なし。従って情報を収集する側も、相手に気取られぬよう秘密裏に情報を収集する必要あり。ここなんですね。

 気持ちとしては大いに分かるんですけど、なにせ「秘密裏に」「公安維持に関連する社会の一切の事象とその動向」について情報収集……とあるもんですから、違法すれすれ、いえ場合によっては、違法行為すらも行なわれているのでありました。こういった公安の具体的な話については、こちらにページ作ってみました。

 さて、情報収集活動の途上で行われる違法な活動が喜ばしからぬ事は勿論ですが、そもそも情報収集活動自体が違法であるとする見方も一部には存在します。憲法に規定された人権、中でも自由権を侵害するものであるという見方です。

 大雑把に言うと、情報収集活動の対象は「公安維持に関連する社会の一切の動向」であるからして、その対象の範囲は実に広い。言ってみれば政府の政策に異を唱えるあらゆる動きが含まれ、市民運動もその多くが対象となるだろう。すなわち、どんな犯罪にもテロ行為にも関わっていない事が初めから明らかな一般市民が、政府の政策に反対している事だけを理由に写真を撮られ、調査され、監視されるおそれがある。こういった調査・監視は思想・良心の自由を定めた憲法の規定に反するおそれがあり、又そうした調査の存在は国民がその言論・集会・結社の自由を行使するに当たって少なからず圧力として働くものであり、違法の疑いが強い。こんな感じ。

 なるほど、これは確かに首肯し得るものです。無論公安の方は「そんな事やってませんよ」と言いますが、市民団体の中には「公安から違法な監視を受けている!」と訴えるところもあります。しかしてその実態は……どうなんでしょうねぇ。

 ともかく以上見てきたように、公安は何かと秘密が多い上に活動も怪しげとあって、評判は良くありません。さもありなん(苦笑)。しかし一部にて言われている「公安を廃止して警察の情報活動をやめさせよう」という意見には、私は賛成しかねます。

 確かに、以前と比べて現代では日本国家転覆を狙う組織は随分と少なくなりました。しかし、なくなった訳では決してありません。極左過激派は依然存在し続けており、又オウム真理教のような新たな組織の発生という事態もあります。政府に批判的というだけでその相手を監視するようなのはお断りですが、しかしこういった過激な組織の監視と取締りについては、公安に頑張ってもらわねばなりません。

 古い話ですけど昭和44年11月、首相官邸襲撃を企画しその訓練のために山中に集結した極左過激派が、丁度集まったところに警察の手入れを受けて凶器準備集合罪の現行犯で検挙されたという、通称大菩薩峠事件なる事件がありました。警察側が事前に過激派の動きを察知して先手を打ったこのケースは、まさに警備情報活動の賜物・公安の真骨頂と言えるものでありましょう。こういった離れ技は、刑事や他の部門にはちょっと真似できないんじゃないかと。

 私が公安に存在意義を認めるのは、彼らがまさにこういった実績とノウハウを持っている故であります。そして、少しながら趣味の対象でもあるから!(自爆)

 と、こういったところで、公安の話はおしまいです。

3.1 SPは目立ってナンボ

 集団犯罪じゃないけれども警備犯罪である犯罪というのも沢山ある、と、先に核物質防護のところで書きました。警備犯罪である以上それは警備警察による取締対象になる訳で、要人の身辺警護も警備警察の任務の一つであります。要人警護の事、と書くと実にあっさり済みますが、要はVIPの身を守る最終防衛線、我が身を盾に何とやらな世界なのです。

 先の核物質防護は警備の任務でしたが、この要人警護は公安の任務です。直接に実力を行使する仕事ですから、警備の仕事……のように思われますが、公安の任務とされています。思うにそもそも警備は集団犯罪への対応を主たる任務と想定した部門であって単発の警備犯罪への対応は二の次。それに伝統的に日本での要人警護は右翼と深い関係にあります(これまで日本において、要人の身辺を害して来たのはほとんど右翼!)が、右翼の犯罪を担当するのは公安。という訳で、要人警護は公安の任務とされたんでしょう。

 警察の実際の部門いうと、大本警察庁では右翼担当の公安第二課が受け持ち、地方の警察でも、公安部局が複数あるところでは大体公安第二課が右翼担当であるのに合わせて受け持っているようです。

 ただし。公安部局が1つしかない警察では、右翼担当がどこかに関わらず、警備実施部門(大体は警備課、ないし警備第一課)に警護を受け持たせるのが普通のようです。右翼と関係深いとはいっても、直接に人員や部隊を動かして警備を行なうところから、警備実施に即した形で受け持たせる事にしたというところでしょうか。なお、警備公安部門が大所帯な警視庁もこの例外に含まれ、公安部門でなく、警備部門たる警備部に警衛課・警護課を置き、要人警護を担当しています。

 彼らが警護対象とする要人は、我が国の要人に限りません。国賓来日の際には、やはりここ、警護の方がお守り申し上げるという仕組みであります。だから英会話なんかもこなせなくちゃいけない。勿論要人に気を悪くさせない細かな気配りも必須という、実はガタイだけでは勤まらない激務部門であったりもします。

 現在、要人警護に実際に当たっているのはSP(Security Police)と呼ばれる、選抜された警察官です。政府要人や国賓の周囲をがっちり固めてる男女御一行様が、それです。目付きコワい、体がっちり、のいかにもな人々。いやいや目立つ事、「身辺警護してます」と一目で分かるようになっています。

 このSP、初お目見得は1975年ですから、出来てまだ30年たっていません。実はそれより前の身辺警護は、 "目立たない" 事を第一とした警護体制でありました。警護といっても陰にひたっ、と付いてそこから目を光らせる、と。間違っても表に出る職業ではありませんでした。

 ところが1975年の佐藤栄作元首相国民葬において、参列した時の首相三木武夫が、警護員が付いていたにもかかわらず右翼に殴られるという事件がありました。身辺警護員が目立たなかったために大胆な犯行に及んだものと考えられ、そこで警護員を目立たせる「目立つ警護」の導入が検討されました。

 日本には「目立つ警護」の伝統はありません。そこで参考とされたのが、アメリカのSecret Serviceによる大統領警護です。彼らの手による「攻めの警護」=警護員を目立たせそれでもって犯罪を抑止するという手法に、日本の従来の目立たない警護の要素を加えて生まれたのが、SPです。

 このSPの本場(?)といえば、やはり国賓の来訪も多く国際イベントの開催回数も群を抜いている東京の警視庁と大阪府警であります。しかし以外にしっかりしたSP隊を持っているダークホース(失礼!)が、三重県警です。県内に伊勢神宮を抱えて皇族の来県も多いためか、早くからSPの整備を進めていたんだそうです。

 ところで同じ警護でも皇族の警護になると、「警衛」といって通常の警護とは異なり、主力は皇宮警察の護衛官が行ないます。わざわざ専門の護衛組織作ってあまつさえ名称まで「警衛」と変えちゃうなんて、やっぱり相手がRoyalな天皇家だから格が違うんですかね(笑)。もっとも、実際は数が限られてる皇宮警察の護衛官だけで警護が全うできるはずもなく、必然的に警察の方からも人を出すのでありました。

4.スパイ・キャッチャー

 スパイキャッチャーと書くとおどろおどろしげですが。外事の話です。外事、外の事、つまりは外国人を取り扱う部門であります。

 この部門は、ここ一二年随分と伸び盛りな模様。警察庁の場合、もともとは警備局の下に外事課があるだけだったというのに、平成16年4月1日の機構改革で警備局外事情報部として半ば独立、同部には外事課と国際テロリズム対策課が置かれました。いわゆる「対日有害活動」がそれだけ盛んだという事なんでしょうか。

 もっとも、道府県警察本部の段階まで降ろして見ると、全国的に隆盛というものでもありません。警視庁は公安部に外事第一課から第三課まで抱えていますが、よその警察だと大体は警備部外事課どまり。ないところもあります。ところによって規模の差が結構ありますね。

 外事の仕事は

  • 外国人に係る警備情報
  • 外国人犯罪(警備犯罪)の捜査

となっています。ここで外国人と警備がどう関わるのかと言えば、それがスパイになる訳です。わざわざ日本までデモりに来る外国人は……1人もいないとは申しませんが、しかしやはり日本に来る外国人が犯す警備犯罪のメインといえばスパイ行為でしょう。ちなみに、いくら外国人犯罪といっても不法就労や売春は警備犯罪じゃないにつき、それまで取り締まる訳じゃない。

 ただし。少々余談になりますが、外国人密航組織(蛇頭とか)そのものの捜査は、外事もやっているようです。警備犯罪とどう関係あるかは不明ですが、しかしそうした組織の手引きを受けて日本に不法入国して来る外国人は万単位で存在すると言いますし、また彼ら不法入国外国人による犯罪も問題となりつつあります。外国人関係を扱う外事としては、他に任せたままにしておく訳にも行かなくなって来たのでしょう。例えば警視庁の場合、かつて公安部に外事特別捜査隊という隊がありましたが、ここは外国人犯罪組織の捜査も手がけていました。その腕を買われ、平成14年4月の警視庁機構改革では公安部から新設の組織犯罪対策部に移り、組織犯罪対策特別捜査隊となっています。

 ところで、同じスパイでも相手が日本人だと、それは "本家" 公安の仕事になります。外事なんで、相手はあくまで外国人スパイなのです。

 スパイがらみでよく話題に昇るのが、秘密保護法制の話でしょう。現在のところ日本には、防衛機密・在日米軍関係機密を保護する他に機密保護法というのはありません。せいぜいが、国家・地方公務員に守秘義務を課しているくらいです。これらに抵触しない形でなら、機密を探知すること自体は罪ではないのです。例えば一般人が大蔵省から当省の情報を盗んだとしても、その行為自体は罪ではないのです。そこで自民党の、主に国防族の皆様が「日本には秘密保護法制がないし、刑法にも機密探知罪がない。日本はスパイ天国だ。これじゃいかん!」と言っては法制化を試み、それを社民党に代表される野党が「いやいや、そんな国家機密保護に名を借りた国民監視法制は許せん。そもそも機密保護なんて、情報公開の流れに逆行するアナクロだ!」と反対・阻止する。まぁどっちにも一理あって、なかなか決め手に欠く訳ですが。

 秘密保護法がなくてなんでスパイが取り締まれる? と、これには実は裏技(?)があって、大体外国のスパイなんてのは密入国して来る、乃至は偽造旅券でもって身分その他を偽って入国して来るもんです。そこで、秘密探知罪はないから代わりにこちら、出入国管理法や外国人登録法への違反を罰するのでした。北朝鮮のスパイが、これでよく挙げられてます。

 外国人一般についてはこれで対症療法的ながら何とかなるんですが、相手が外交官となるとこの手は使えません。すなわち、在外公館の正規職員(主に駐在武官)がスパイ行為を行っている、というやつです。これだと、旅券は真正だし、「犯罪」ではないし、加えて相手には天下御免の外交官特権があります。強制捜査も刑事訴追もできません。この場合は、当該外交官の国外退去処分、あるいは徹底して監視を付け任意にお帰り頂く事で我慢するしかありません。外交官特権は偉大なのです。

 この手の諜報活動は今はなき旧ソ連・及びロシアが時々使う手で、折角事件化しても当の外交官はさっさとお国に帰ってしまわれると、時の外事さんは切歯扼腕する事しきり……であるらしい。記憶に新しいところでは、平成12年9月に発覚した、ロシア大使館駐在武官が現役海上自衛官にスパイさせていた事件、これの発覚2日後に当の武官が素早く帰国してしまった、というのがあります。ただこの事件の場合、挙げたのは外事ではなく公安でしたが…いずれにしてもご苦労様でした。

4.1 国際テロ撲滅!

 さて、外事が取り締まる警備犯罪として、スパイ行為と並び国際テロリズムが挙げられます。国際テロリズムとは、「複数の国の市民又は領土を巻き込んだテロリズム」の事です。日本の外事は中でも犯行の主体に着目し、日本人を対象とした外国人によるテロ行為、又は外国に本拠を置く日本人によるテロ行為を、その取締対象としています。

 外事に国際テロ対策の部門ができたのはそう古い話ではなく、70年代のことです。時に日本赤軍が海外で大暴れしており、それへの対策として設立されたのが始まりです。今では日本赤軍も鳴かず飛ばずといった状態ですが、国際テロそのものは相変わらず存在しており、よってその方面における外事の活動も決して終わってはいません。また、鳴かず飛ばずになったからと言って外事が日本赤軍をほったらかしにしている訳でももちろんありません。後述しますが、海外逃亡した赤軍幹部逮捕に外事警察関係者はけっこう血道をあげてらっしゃるようです。

 この国際テロ関連では、最近までしばらくの間、一般人にとっては縁遠い時期が続いていました。日本や日本人がテロリストの標的とされる可能性がある、と言われても、実感が湧かなかったからです。が。平成13年9月にアメリカで同時多発テロが発生し、こうした認識は一発で吹き飛んでしまいました。アメリカの同盟国であるという点から考えれば、日本においてもテロ行為がなされる可能性が極めて高いことくらい、簡単に推測できるからです。

 もっとも、それ以前からも、例えば1997年11月のエジプト・ルクソールにおける観光客殺傷事件、1996年12月〜97年4月にかけてのペルー・リマにおけるペルー日本大使公邸人質事件など、日本人が海外でテロ事件に巻き込まれたり、あるいは海外の日本関連機関がテロの標的とされたりした例はたくさんあったと言えばそうなのですが……とりあえずそれは置いておくとしまして。

 このように、脅威が「再確認」された国際テロの取締りを、外事は行っています。が、こう書くと何ですけど、実際に外事が行っている国際テロリズム対策というのは、そこまで派手なものではありません。国内に浸透したテロリストを検挙するための特殊部隊を持っている、訳ではないし、テロリスト逮捕のために外国に殴り込みかける、なんて事もありません。まあ、実際国内浸透したテロリストを見つけたなら、逮捕状取って検挙しに行くくらいはするでしょうけど。でもそれは多分公安との合同になるだろうし、また実際にテロリストが人質立てこもり事件などを起こしてしまうと、対処するのは警備の仕事になります。外事はそこまでからんで来ない。

 今現在外事がやっているのは、基本的には国際テロ活動に関する情報収集です。また海外で日本赤軍の手配犯が逮捕された際にも、外事が引渡しの請求と交渉を行うようですね。

 外事部門は、平素より国際テロに関する情報を収集する他、国外において日本人が巻き込まれるテロ事件が発生した場合、係員を現地に派遣します。警察庁警備局には専門家のチームがあり、現地治安機関と連携して情報収集・捜査支援に当たります。この専門家チームは「国際テロリズム緊急展開班」(Terrorism Response Team - Tactical Wing for Overseas / TRT-2)と呼ばれています。同班には人質交渉や鑑識の専門家も含まれ、現地で捜査活動を展開できるだけの能力を有しているそうです。さすがに、Tacticalと名乗るだけの事はある。

 といっても、上で触れた通り、武器もて鎮圧しに行く訳ではありません。日本の警察の行動範囲は、原則日本国内に限られます。外国で活動するとなると、その国の主権に配慮して行動しなければならなず、主権侵害に当たるような実力行使はできません。当地の警察を差し置いてばんばん銃を撃ちまくってテロリスト狩りなんてもっての他。いきおい、外事の活動内容は現地捜査機関への協力だとか、情報収集だとかに限られてしまいます(それはそれで重要なのですけれども)。……がっかりしましたか?(苦笑)

 ちなみにこのTRT、発足したのは平成10年・1998年4月の事(※97年中に設置したという記述もあり)。96年12月に発生し97年4月ようやく解決した、ペルー日本大使公邸人質事件を教訓に設置されました。活動実績としては、次のようなものがあるとされます。

  • 平成13年・2001年9月、アメリカ同時多発テロに出動。現地治安当局と情報交換を行うと共に、邦人保護活動を支援。
  • 平成14年・2002年10月、インドネシアのバリ島における爆弾テロ事件に出動。現地で情報収集を行った他、チームに加わった科学警察研究所の鑑識専門家が現地で遺体の身元確認作業を指導・援助した。

 さて。国際テロに対応する活動というのは上記の通り、少々おとなしめなものですが……一方の海外逃亡日本人犯罪者の引渡し請求交渉というのは、銃を撃ちまくるような派手さこそないものの、これはこれで独特かつアクロバティックな活動といえるようですね。とりわけ、先だって平成12年3月にレバノンでの刑期を終えた日本赤軍構成員を日本にしょっぴいて来た時。この時、警察庁や警視庁は外事課員を当地に派遣して様々な交渉や工作に携わっていたようです。

 まず、刑期を終えた4名の赤軍構成員ですが、彼らはレバノン当局から国外追放処分を受けます。そこで彼らは隣国ヨルダンに出国しますが、しかしヨルダン当局は入国を拒否。彼らの行き場がなくなります。そこで出て来たのが、日本の外事警察関係者でした。ヨルダンには、いつの間にか捜査員が待機しており、また、いつの間にか移送用の航空機まで待機していました。(笑)

 日本への直接引渡しという形式はとらず、レバノンから隣国ヨルダンへ国外追放→ヨルダン当局の入国拒否→行き場がなくなったところで現地捜査員が身柄引き取り、という面倒な形式を踏んだのは、レバノンのメンツを守るためだそうです。現地では、パレスチナ解放闘争に手を貸した日本赤軍の関係者を英雄視する向きもあるため、犯罪者として日本に引き渡す事は難しく、そこで出たのが「国外追放」。どこなりと好きな場所へ行けと放り出し、隣国はと言えば、うちには来るなと言う。犯罪者として送還こそしないものの、実質的に行き場なしという状態にする訳です。

 しかも、こういう形式を取るに当たっては「ここでこうして」「あそこでああして」などと事前にレバノン・ヨルダン側と手続きを詰めるようなまねはせず、ほぼすべてが関係者間の「あうんの呼吸」でなされた結果であるようです。いつの間にかヨルダンに待機していた日本の捜査員も、移送用航空機も、「あうんの呼吸」の結果らしい。しかもその移送用の航空機、無関係な第三国たるロシアのアエロフロートから調達したというところがまた意味深です。そしてすべてが片付いてから警察庁は、ヨルダン当局による入国拒否があってから身柄確保に乗り出しましたと建前を発表し、事件にけりをつけました。

 国家間の裏取り引きやら秘密合意やら、なかなかそそられます。「諜」「謀」という字がぴったり来るような活動で、何といいますか、事実は小説よりも奇なりとでも言いますかね。

 そんなこんなで、以上、外事の仕事に関する話でした。

 

 さてさて、最後までおつき合い頂きまして、まずは御礼申し上げます。どうもありがとうございました。警備警察の話は、これにておしまいです。ところで、読んでみておもしろかったですか? 面白かったとか、ためになったなどという事であれば、それこそ書いた甲斐があったというものです。そしてできれば、面白がりついでに是非警備警察フリークになって頂きたいものですね。機動隊のおっかける際のあのスリリングな味わいを一緒に……などというのは冗談ですが。(笑)

 で、これはおまけみたいなものですが。福岡県警警備警察のあゆみなんてものを作ってみました。興味のある方は、暇つぶしにでも御覧になってみて下さい。福岡県警の警備警察部門は、こういう道を歩んで来ています。皆さん御当地の警備警察は、どんな道を歩んで来ましたか?

 
 
主要参考資料;
『警備警察全書 改訂十三版』 編;警備警察研究会 刊;立花書房 1968
『警視庁機動隊』 著;大杉宙 三一新書 1969
『警備公安警察の研究』 著;広中俊雄 刊;岩波書店 1973
『現代の人権双書5 治安と人権』 著;吉川経夫、小田中聡樹 刊;法律文化社 1974
『戦後警察史』 編;警察庁警察史編さん委員会 刊;警察協会 1977
『講座日本の警察4 防犯保安警察・警備警察』 編;河上和雄、國松孝次、香城敏麿、田宮裕 刊;立花書房 1993
『日本の公安警察』 著;青木理 講談社現代新書 2000
『警察白書』 編;警察庁

Special Thanks to:CHEETAHさん、森 万象さん、Julietさん、ふくしょうほんぶ1さん、OYANNさん、イニシャルT・Yさん、まさやんさん、にうさん、その他お名前を出せない大勢の皆さん


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