保険料等徴収担当社会保険庁事務官

 

 皆さん、国民年金の保険料納めてますかー? 20才以上の成人には、国民年金への加入義務があります。月々13,000〜16,000円程度の保険料を40年間納めて、その暁には老後に年金がもらえますよ、というのがその趣旨です。ただし、途中で保険料を滞納したりすると、その分もらえる年金が減額されちゃう。多少遅れるのは仕方ないけど(苦笑)、さぼったりせず、きちんと納めましょうね。

 年金というやつは、制度加入者から一定の保険料を徴収して元手とし、将来加入者が高齢となった時に、生活の資となるようお金を提供する仕組み。老後の備えとしてまことにありがたい。代表的なのは国民年金です。他にも、会社勤めの人には厚生年金、公務員なら国家公務員共済/地方公務員共済、また私立学校の教職員や船員にも独自の年金があり、結構、いろいろ細かいところなのですが。それはそれとしまして。

 さて。国民年金は積立て制ではなく、その年の保険料収入でもって支給をまかなう方式になっています。そのため、少子高齢化が進んで年金受給者が増える一方保険料負担者が減ると、どうしても年金支給額を減らさなければならなくなります。今や、年金だけで老後の生活を組み立てるのは全く不可能、足りない分は自分でなんとかしなければなりません。

 ちなみに私の場合、今のままで行けば将来の年金受給額は月当たり8万円強になる予定。これだけで生活するには少々……な額です。もっとも、少ないといっても、保険料相当額を毎月貯めていたとして40年480ヵ月ではおよそ624万円。これを月8万ずつ使うとすると、大体8年間でなくなってしまいますから、生涯に渡って支給してくれる年金の方がまだマシといえばマシ。とはいえ、「話が違うよ」感がないではない。

 年金に頼れない、という点は、一部に年金制度に対する不信を生じさせています。さらには、この先年金は立ち行かなくなるという「年金制度崩壊論」まで飛び出し(*)、問題の根は深いものです。

 その結果、納めるべき国民年金保険料を納めない不納入者が増え続けています。

 保険料収入は年金制度のまさに生命線、不納入を放置していては、少子高齢化とかいう前に年金が立ち行かなくなってしまう。そのため、国民年金法はじめ各種の年金に関する法律には、正当な理由なく保険料を支払わず滞納する者に対し、強制徴収できるよう定めてあります。

 また、公的年金と並び社会保険の雄たる公的医療保険も同様で、正当な理由なく保険料を滞納する者に対する保険料の強制徴収規定があります。強制徴収とは要するに、滞納者の元に出向いてガサかけて財産を差し押える事ですから、そのこわもてぶりは治安ヲタとして実に興味をそそられるところ(笑)。という訳で、以下、社会保険の保険料取り立ての仕組みついて、概観してみる事にしましょう。わけても本項で取り上げるのは、国が所管する社会保険について。

 まず前提として、社会保険の仕組みについて。冒頭で触れた国民年金は公的年金に含まれ、公的年金は公的医療保険とあわせて社会保険を構成する。社会保険は、被保険者別に種類が分かれており、とりあえず一覧にすると以下の通り。(被保険者の扶養家族だとかは考えてません。あと、細かい例外もはしょってます……)

被保険者公的年金医療保険
事業所に勤める20歳以上。一般の勤め人。 厚生年金
(厚生年金保険法、国)
健康保険
(健康保険法、国・健康保険組合)
国家公務員 共済年金
(国家公務員共済組合法、国家公務員共済組合)
共済保健給付
(左に同じ)
地方公務員・公立学校教職員・警察官 共済年金
(地方公務員等共済組合法、地方/都/市町村/指定都市職員共済組合・公立学校共済組合・警察共済組合)
共済保健給付
(左に同じ)
私立学校教職員 共済年金
(私立学校教職員共済法、日本私立学校振興・共済事業団)
共済保健給付
(左に同じ)
船員 老齢については国民年金あるいは厚生年金、障害・遺族については船員保険年金
(船員保険法、国)
船員保険療養給付
(船員保険法、国)
上記に含まれない20歳以上 国民年金
(国民年金法、国)
国民健康保険
(国民健康保険法、市町村・特別区・健康保険組合)
※カッコ内は根拠法規及び保険者

 誤解を恐れず大括りにまとめるならば、まず一般的社会保険として、民間の勤め人向けに厚生年金と健康保険があり、自営業者・学生あるいは私のような無職野郎といったその他大勢向けに国民年金と国民健康保険がある。一般の社会保険とは別に分野別社会保険として存在するのが、公務員共済・私学共済・船員保険である。一般社会保険と分野別社会保険の違いは、前者が公的年金と医療保険とが個別の法に基づく切り離された制度となっているのに対し、後者では両者とも同一の法・制度のもとで運営されている点である。

 これら各種社会保険の内、国が保険者となって保険料を徴収しているのは、

  • 厚生年金
  • 国民年金
  • 船員保険
  • 健康保険の一部 (※政府管掌健康保険)

以上4種類。

 これらの保険料を正当な理由なく支払わない場合、社会保険庁長官は、強制的に徴収する事ができます。また、保険料を延滞して延滞金が発生した場合、また詐欺的な手段で不法に年金・医療サービスを受給した相手に相当額の返還を命じた場合にも、滞納が発生すればこれを処分する事ができます。法律上、執行するのは社会保険庁長官ですが、実際には権限委任を受けた全国の社会保険事務所が実施します。

 徴収に当たっては国税徴収の例による事とされており、つまりは国税庁がやる国税滞納整理と同じ。まず納付督促状を滞納者に発送し、納付額と期限を通知します。期限は、督促状発布から10日以上経過した日を指定します。期限までに納付がなされない場合、強制徴収に至ります。徴収担当の職員が、身分と権限を明記した証標を持って滞納者のところへ出向き、滞納額と、延滞金があればそれも併せて相当額の財産の引き渡しを受けます。この時、滞納者が協力せず、ゴネて財産を引き渡そうとしない場合、職員は自ら滞納者の居宅やその財産がありそうな場所を捜索し、財産を差し押える事ができます。捜索に当たっては、立会人を同席させる必要がありますが、令状の類は必要ありません。

 これまで、社会保険庁による強制徴収がどの程度なされて来たのか、詳しい事は分かりません。国民年金について言えば、昭和63年(1988)に5件、強制徴収の例があるそうです。

 あいにくと……と言うべきか、国税庁がやっているような強制徴収の仕事は、社会保険庁側ではあまり得手とはしないもののようです。相手の資産状況をきちんと見極めた上で、下手打って行政訴訟にならないよう厳密に捜索と差し押えを行う、というのはなかなか難しいようですね。

 冒頭にも挙げた国民年金の保険料ですが、デフレ不況とあいまって……ということなのか、このところ徴収率は下がりっぱなし。2002年(平成14)年度の保険料納付率は62.8%まで落ちてしまいました(*)。不納入者の経済状況を調べてみると、高額所得者であるにも関わらず保険料を納入しようとしない例も多々ある。つまり、お金があるのに納めようとしない人がいる、という事です(*)。

 となれば、すわ強制徴収の出番!とも思いたくなるのですが、話はそう簡単ではない様子。国民年金保険料の未納・滞納問題が表面化しても、しばらくの間社保庁の態度は煮えきらず、未納対策といっても催告状送付、電話での納付督励、あるいは戸別訪問といったところまで。「強制徴収についても検討したいというふうには考えておりますが、現在のところやるというふうに決めているわけではございません」なんて状態が続きます(*)。

 しかし納付率が7割を下回り、4人に1人は納めていない、などという状態にまで陥ってしまうと、もうしのごの言っている場合ではない。平成16年以降社保庁は方針を転換し、大口・悪質滞納事例について強制徴収に踏み切りました。(*)

 ……もっとも、滞納者をすべて整理し尽くしたとしても、年金を取り巻く状況が劇的に改善する訳ではないし、将来の年金受給額が上向いてくれる訳でもない。私自身、正直言うと年金制度に不安を持っていたりするので、納入にそっぽ向く人間の気持ちも一抹ながら分かる気はするんですけど(苦笑)、でも義務は義務ですしね。所得があるんであれば、自分の将来のためにならない事はないし、年金に頼るんじゃなくて自助努力の一環として年金を見る、ちゅう事で。一つ協力してあげよーではありませんか。

 

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