地方税事務担当自治体職員

 

 先に、国税庁のマルサに対応する規定が地方税法にもあると書きました。で、直前の項では国税職員が持つ様々な強制権について書きました。これに対応する形の地方税職員の強制権というのも、勿論あります。具体的には、滞納処分や税務調査の権限ですが、これらは地方税法に独自の規定を設けるような事はせず、国税関係の法律の規定を準用する事、となっています。マルサの時と同様で、中身はおんなじなんですね。

 調査事務や徴収事務については、自治体にも一応専門の職員が置かれているようです。でも昔も今も、国税庁のような華々しい取締話は少ないですね。なんでかなあと思っていましたが、どうも原因はイロイロと奥が深い模様で。

 と言うのも各地方自治体の税務吏員は、人事異動で税務関係部署に配置された人が大半です。一応専門研修は受けるようですが、数年でまた別な部署に異動という事も多く、経験やノウハウの蓄積がなかなかうまく行かないらしいですね。かつ人員規模も、小さな市町村レベルになると部局の長も含めて総勢2、3人というとこもあるやう。ここまで来ると日常の業務がやっとで、滞納整理や税務調査にまではなかなか手が回らないでしょう。

 人手を増やそうにも、近頃の地方自治体はどこも金欠病に苦しんでいますから、そんな余裕はありません。もちろん、新たに専門職員を置くだけの余裕などありません。頻繁な人事異動は専門的経験やノウハウの蓄積にはマイナスなのですが、これも限られた人材を活用しつつ総合職を養成する大事な手なので、一概ににダメと言う訳にもいかず。しかし、これでは滞納整理や税務調査に手が回らず、仮に手を付けてもうまく処理できません。残念!

 ただ、どこの地方自治体でもこういう状態なのかと言うとそうでもなく、県や規模の大きな市レベルになると少しは対処のしようがあるようです。この辺りは役所の規模も大きいので、通常業務以外の滞納整理その他へ回すだけの人手があり、また専門職員を置いてノウハウ蓄積を行う事もできます。

 ちなみに我が県福岡の場合、調査事務については分からないんですけど、徴収事務については、国税庁ばりの財産差押えも含め、それなりにいそしんでいるようです。このところの福岡県内における県税滞納内訳としては、個人事業税・自動車税・不動産取得税といったものが特に滞納額が大きくて情況芳しくないんだそうです。そこで県では、特に自動車税の高額・悪質滞納者に的を絞り、現金財産の差し押さえを中心とした処分を行っているとの事でした。かくして徴収した額は98年度に300万円、99年度にはなんと3億6500万円に上るそうですから、大したものです。

 また我が町福岡市の場合、調査事務についてはやはり分かりませんが、徴収事務としては、滞納者に対しせっせと督促に務めています。督促と言っても単に督促はがきを送って済ませるのではなく、職員が平日だけでなく休日にも相手に会いに行き、督促や納税相談をしたりするそうですから、なかなか徹底しています。督促で納税がなされるならさほど面倒な手続きもいらず、まあ結構な事です。と同時にこれは、強制力の行使によって自治体と地域の関係が悪化する事を避けるという狙いもまた持ち合わせています。

 県や市町村は「地方」自治体ですから、その運営に当たって地域との関係は重要です。上記福岡市の例はまさにそうなのですが、「地域との摩擦をなるだけ起こさない」ために地方自治体があれこれと工夫をこらす事は、割と結構求められる事のようです。人手やノウハウの問題もさる事ながら、地域との関係上あまり強制力を行使する訳には行かないというのも、自治体による税務調査や滞納整理の実施につきまとう問題の一つであります。さらに、町の人なら大体誰でも顔見知りというような小さな自治体の場合、強権発動の結果職員やその家族が周辺住民から有形無形の嫌がらせを受けたりしないか…というのも懸念材料の一つとなっているようです。

 ちなみに国税庁は東京霞ヶ関の本庁から地方の国税局--税務署と、全国隅々に網を張っています。人員規模は全体で5万人、その誰もが税務行政に携わり、経験とノウハウの蓄積豊富にして専門研修も充実しております。なんだかんだ言われる所もあるようですが、基本的に仕事に隙がないので、摘発されたからと言って手向かう輩はあまりいません。職員は国家公務員ですので転勤も結構あり、地域に根づかない一方で顔見知りのご近所さんから村八分にされる心配もないとか。なるほど。

 人手、専門性、経験・ノウハウの蓄積、そして自治体ならではの問題。地方自治体が自前できっちり地方税を取り立てられるようになるのは、そう簡単な事ではないようですね。とは言え、最近しきりと提唱される地方分権、これの実現には地方財政の健全化は必須であるにより、地方税の確実な徴収は今後益々要求されるところです。まあ色々大変かとは思いますが…がむばってもらいましょう。

 
 
主要参考資料;
『現代地方自治全集18 地方税−総論−』 著;浅野大三郎 刊;ぎょうせい 1977

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