保険料等徴収担当自治体職員

 

 最初の「国税職員」の項目以来、お金の徴収を巡る話が続いております。国税庁、自治体、社会保険事務所、国税に地方税、あるいは公的年金・医療保険の保険料などと、担当組織や徴収するお金の名目はあれこれ違うんですけれども。でも、国税徴収法を準用して財産を差し押えるというところが大体共通しているので、結構似たような話ばかりになっていますね。すいません。

 今回取り上げるのは、自治体における保険・年金に関する徴収金滞納整理の話です。すぐ前で紹介したのは社会保険庁でしたが、地方自治体でも同様の事務を行っているところがあります。

 介護保険法において、市町村は保険料の徴収を行っており、また国民健康保険法による保険料徴収も一部行っています。保険料など納付すべき金銭の滞納が発生した場合、市町村はそれを強制的に徴収する事ができます。またその他の各種年金・保険の徴収金についても、社会保険庁や徴収を担当する共済組合等の団体からの処分請求があれば、それに基づいて強制徴収を行う事があります。都道府県も、保険料の徴収は行っていませんが、処分請求に基づく強制徴収を行う事があります。

 どういう時にどういうお金の滞納処分・強制徴収ができるか、一覧形式で改めてまとめてみますと、以下の通り。

国民健康保険

…国民健康保険法に基づいて実施されている公的医療保険。保険者は市町村及び特別区、国民健康保険組合。被保険者は市町村又は特別区の区域内に住所を有する者。

 保険料その他の徴収金(例.延滞金、返還すべき不正利得etc)は、市町村が徴収する場合、地方自治法にもとづき、法律に定める歳入として、地方税の滞納処分の例により処分することができる。(国民健康保険法79条、79条の2)

 なお、市町村と並び国民健康保険の保険者となっている国民健康保険組合とは、同法に基づいて設立される法人であり、同組合も保険料その他の徴収金の滞納処分をする権限を持つ。取り扱いは別項にて

介護保険

…介護保険法に基づいて実施されている高齢者介護のための公的保険。保険者は市町村及び特別区。被保険者は市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(1号被保険者)及び同じく40歳以上65歳未満の医療保険加入者(2号被保険者)。保険料の徴収対象は1号被保険者。

 保険料その他の徴収金(例.延滞金、返還すべき不正利得etc)は、地方自治法にもとづき、法律に定める歳入として、地方税の滞納処分の例により処分することができる。(介護保険法144条)

 

※国民健康保険・介護保険の徴収金滞納整理に関し、「地方自治法にもとづいて、法律に定める歳入として、地方税の滞納処分の例により処分する」とは、具体的には地方自治法231条の3の規定を指す。

第二百三十一条の三 分担金、使用料、加入金、手数料及び過料その他の普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない。
2 普通地方公共団体の長は、前項の歳入について同項の規定による督促をした場合においては、条例の定めるところにより、手数料及び延滞金を徴収することができる。
3 普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入(※註.国民健康保険法・介護保険法に基づき市町村・特別区が徴収する保険料その他の徴収金は、これに該当する)につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合におけるこれらの徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
4〜10 略
11 第三項の規定による処分は、当該普通地方公共団体の区域外においても、また、これをすることができる。

市町村に対する処分請求

…とりあえず一覧にすると、次の通り。

  • 国民年金法・厚生年金保険法・船員保険法に基づき、保険料その他徴収金(例.延滞金、返還すべき不正利得)について社会保険庁からなされた処分請求
  • 地方公務員等共済組合法に基づき、地方団体の負担すべき共済費用・延滞金について地方職員共済組合からなされた処分請求 (地方職員共済組合については別項にて)
  • 私立学校共済組合法に基づき、学校法人等の負担すべき共済費用・延滞金について日本私立学校振興・共済事業団からなされた処分請求 (日本私立学校振興・共済事業団については別項にて)
  • 健康保険法に基づき、保険料その他徴収金について国ないし健康保険組合からなされた処分請求
  • 国民健康保険法に基づき、保険料その他徴収金について国民健康保険組合からなされた処分請求

 これらの処分請求があった場合、請求を受けた市町村は、市町村税の例によって処分を行う。なお処分後、請求者は、当該市町村に対し処分によって徴収した金額の4%に相当する額を交付しなければならない。

都道府県に対する処分請求

…国民健康保険法・介護保険法・老人保健法に基づき、社会保険診療報酬支払基金からなされた拠出金・延滞金についての処分請求がこれに当たる。社会保険診療報酬支払基金とは、社会保険診療報酬支払基金法によって設立された厚生労働省所管の法人。本来は、健康保険法はじめ医療保険各法に基づく保険者がなす療養の給付につき、診療報酬の支払いをし、あわせて診療担当者から提出された診療報酬請求書を審査する機関である。

 医療保健各法による医療保険を行っているところの国並びに市町村・特別区、保険組合、船員保険法の保険者、各共済組合、日本私立学校振興・共済事業団等々は、上記3法に基づきそれぞれ拠出金を負担する。各拠出金は市町村に対する交付金の元手であり、具体的には、国民健康保険法に基づく拠出金は療養給付費等交付金、介護保険法に基づく拠出金は介護給付費交付金・地域支援事業支援交付金、老人保険法に基づく拠出金は医療交付金として各市町村に配分される。これら交付金の配分を担っているのが、社会保険診療報酬支払基金。

 拠出金及び拠出金納付の遅れによる延滞金の徴収は、老人保健法の規定に基づき行われる。納付義務者が滞納するときは、社会保険診療報酬支払基金は期限を切って督促。期限は、督促状発布日から10日以上が経過した日を指定する。督促に応じない場合、厚生労働大臣又は都道府県知事に徴収を請求する。請求を受けた厚生労働大臣又は都道府県知事は、国税滞納処分の例によって処分する(老人保健法60条)。なお、徴収請求は、当該被保険者の主たる事務所の所在地の都道府県知事に対して行うものとするが、厚生労働大臣の指定する保険者に係る請求は、厚生労働大臣に対して行うものとする(老人保健法施行令22条)。

 ……国民健康保険、介護保険に、あれやこれやの処分請求。随分いろいろあるものですが、しかし徴収方法そのものは、これまで何度となく触れて来た通り。国税滞納の例に準じ、督促を行い、応じない場合証標を持った職員が滞納者のところへ出向いて財産引き渡しを受けるというもの。引き渡されない場合、立会人同席の下担当職員が捜索・差し押えをする事ができます。かつ、この捜索・差し押えに令状は不要です。

 さて、実際これがどの程度行われているか、というところですけれども。前に、地方自治体における地方税の滞納整理について書きました。ここで、地方税・保険料と名目こそ違うものの、そもそも公金徴収という点から見れば両者は同じものです。権限もやってる内容も変わりません。という訳で、徴税と保険料等の徴収をまとめて1つの部署で担当するという事にしているところが大半のようですね。またさらに言うなら、地方税の滞納者と各種保険料等の滞納者は、まあ大体かぶるものらしいので。こういう点から見ても、同じ部署で担当した方が手数が少なくて済むでしょう。

 地方自治体、中でも市町村になると規模も小さく、また地域密着という名の「しがらみ」もあり、強制的にナニするというのは得意ではない様子…というのは、もう書いた通りです。これから高齢化が進んで行くと、介護保険やら年金やら、はたまた健康保険なんかもあって、それらの保険料徴収で地方自治体は頭を痛める事になるのでしょう。いや、既に痛めているのか。地方税にはしがらみありで保険料にはしがらみなし、なんて事はない。地方税に比べればまだ強制徴収の例は少ない(と言うより、例がない?)みたいですが、実施に当たっての苦労は察するに余りあります…。まあ、どうか、がんばって下さいませー。

 

Special Thanks to: richard sorgeさん


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