取締船

 

 今やスポーツ化の感すらある狩猟とは異なり、漁業は今現在も食糧調達の重要な一手段です。昔からずっとそうです。これからも、しばらくそうあり続ける事でしょう。

 さて、商業捕鯨が全面禁止されてから随分たちますが、こういう規制が出る事からも分かるように、広い海といえどその産物は無限ではありません。魚をごっそりと、獲れるだけ獲るやり方は、現在では行われなくなりました。

 しかし、どうあってもお金が欲しいという人は、そんな規制には従わないものです。こういう人物をほったらかしにしておいては資源管理上問題であるのみならず、規制を守っている漁師さんが泣きを見る事にもなる訳で、資源保護・法的正義実現の見地から取締は必須であります。

 水産庁と一部の都道府県は、こうした違法操業・密漁を取り締まるための船舶を保有しています。まず水産庁は、平成13年末現在で本庁漁政部及び地方6ヶ所の漁業調整事務所に合わせて6隻の取締船を配備しています。中には2,000tを越える排水量と長い連続航海能力、遠洋国際の航行資格を持ち、世界の海で取締を行うなかなかな船もあります。

 また水産庁は、独自に所有する船舶の他、用船した民間船に監督官を乗せて取締業務に当てる事もあり、このために用船された民間船は平成13年1年間で29隻に上ります。これは、必要が生じた際にその都度臨時に用船するというものではなく、常時継続的に取締りに従事する事を目的としてチャーターしています。用船される側でも、あらかじめ水産庁に用船される事を予定に入れて取締りに便な造りの船を用意する事が多くあります。こういう形で民間船を取締りに組み込むやり方は、実に独特と言えましょう。

 水産庁は発足当初からこの手法を取っており、昭和23年の水産庁設置直後から、用船した漁船でもって海上での取締りに当たっています。これは、農林省(当時)が本来保有していた船舶が戦災に遭って壊滅状態となった事による、非常の措置でありました。昭和初期に15隻あった農林省の船は、戦後わずか2隻にまで減っていました。そこで、不足分を補うために、民間船舶を利用し監督官を上乗りさせて業務従事させる事になったのです。ゆくゆくは庁独自の船隊を整えて用船に頼らないで済むようにするつもりであったようですが、官船整備は進まず、今ではしっかり用船が固定化しています。行政改革・アウトソーシングの流れもある事ですし、今後当分は民間用船を活用する向きに変化はないでしょう。

 一方、地方自治体の取締船の方は、若干古いですが、平成10年度の数字で各自治体併せて95隻が配備されているそうです。詳しい配備状況は分かりませんが、主要漁港や、すぐ近くに主要漁場を抱える地方自治体は大体取締船を持ってます。船の性能や設備も、新しいものになるとそれなりに良いみたい。ちなみに我が福岡県の保有する取締船は、専用が1隻(「ひびき」)、調査船との兼用が3隻(「ありあけ」「げんかい」「ちくし」)の計4隻、だったかな。

 こうした取締船軍団の活躍の場ですが、自治体の船は各自治体の管轄区域内の水域です。当たり前ですね。対して水産庁は基本的に200カイリ排他的経済水域(EEZ)内で取締を実施しますが、それ以上の遠洋にも行きます。最近のEEZ内は、雑誌なんかによると「近年、周辺諸国の漁業の伸長の結果、わが国沿岸沖合域おける韓国、中国、ロシア、台湾などの外国漁船の取締りを強力に実施せざるをえない状況となっている」そうです。

 もっとも、あくまで「排他的経済水域」であって領海ではありませんから、取締りをするに当たってもおのずと制限が加えられる事になります。例えば、EEZにおける取締りの根拠法たる漁業主権法には、担保金支払による早期釈放という制度がありますが、これは、担保金を支払えば身柄の拘束と漁具類の差し押えを解いてもらえる、という制度です。担保金を支払った漁業者は、後日召喚に応じて当局に出頭し取り調べに応じれば、担保金を返してもらえます。ボンド制度といわれます。

 ボンド制度が出来たのは昭和52年の「漁業水域に関する暫定措置法」からで、身柄を拘束され漁業に従事できないとそれだけで生活が破綻してしまう、という漁業者のあり方と、諸外国の先例を考慮して創設された制度です。ですからボンド制度の元だと、一度違法操業で拿捕されたとしても、担保金を払えば、少なくともその場は釈放してもらえる。後々召喚を受けるとはいえ、それまでは生活のため魚を捕り続けられるので、漁業者にとってはありがたい。……ただし、そのまま逃げて召喚にも応じない悪質密漁者も出て来ますが……

 翻って、目をEEZ外に向けましょう。EEZ外の遠洋における水産庁の取締、というのは、EEZ内とは違って日本の漁船のみが対象となる取締活動です。一国のEEZ外の公海にある船舶の取締は、旗国主義といって、原則として当該船舶が籍を置く国が責を負います。この場合、例えば南太平洋や大西洋の、どこの国の領海でもEEZでもない公海上で操業する日本漁船の取締は日本が責任持って行わなければなりません。水産庁は、自前の船でこうした取締をも行っている訳です。

 こうした水産庁の取締船軍団ですが、私、実は水産庁取締船の写真を若干保有しております。世に船の写真は多かれど、水産庁取締船の写真というのはそうそうないんではないですかね?というところが、筆者のひそかな自慢であったりして。(爆)

写真コーナーはこちらでぇす。

 

次の項へ 戻る     
         
inserted by FC2 system