漁業監督官等

 

 漁業は、いつでもどこでも誰でも勝手にやって良いものではありません。魚や海産物を獲り尽くしてしまわないように漁業をして良い場所、時期、獲って良い種類や数量なんかが漁業法の規定に基づき決められているんです。そもそも漁師さん自体が「漁業権」を取得して初めて出来る職業なのですね。趣味で釣り糸垂れる分にはともかく、職業とするのは決して簡単ではありません。

 こうしてあれこれ独特のルールがありますから、違反を取り締まる側にも専門知識が必要です。そういう訳で設けられているのが、漁業監督官です。厳密には漁業監督官と漁業監督吏員とに分かれ、「漁業監督公務員」と総称されているのですが、ここでは漁業監督官等と記しておきます。前者は水産庁に所属し、本庁及び地方支分部局たる漁業調整事務所に配属されます。後者は都道府県の職員の中から知事が任命します。

 漁業監督公務員の制度は、実は随分と来歴あるもので、明治時代に施行された漁業法(現行の漁業法と対置して、旧漁業法と呼ばれます)中に既に存在していました。旧漁業法は明治35年(1902)年に施行、その後明治43年(1910年)に改正がなされますが、この時「漁業監督吏員」が置かれました。彼らは当時の農林省あるいは地方の府県・北海道庁に所属し、漁業監督取締りの事務に従事しました。犯罪があると思量される場合は、間接国税犯則者処分法を準用の上、裁判所から許可状の発布を受けて船舶・店舗などにつき臨検・捜索・差押の処分を行う事ができました。彼らは司法警察官吏ではありませんが、強制力でもって犯罪の証拠を収集し、検事に告訴する事ができました。

 現行の漁業法が施行されたのは昭和24年・1949年12月で、漁業監督公務員制度も受け継がれました。水産庁に漁業監督官・都道府県に漁業監督吏員を置き、その中の「その所属する官公署の長がその者の主たる勤務地を管轄する地方検察庁の検事正と協議をして指名したもの」が、司法警察職員として任命されます。旧漁業監督吏員との違いは、何といっても、刑事訴訟法にいう司法警察職員の指定を受けているところです。取り締まる犯罪は「漁業に関する罪」とされ、具体的には漁業法や水産資源保護法、外国人漁業の規制に関する法律、さらには漁業主権法違反の罪も管轄しまして、早い話が密漁取締りですね。

 漁業関係者以外には縁のなさそうなこの組織、存在知ってる人も大していなさそうですが。しかしフタを開けて見ると結構な組織であるようです。

 まず監督官等の人数は、平成10年で監督官115名、吏員は県別の定数は調べがつきませんでしたが、全体で502名いらっしゃいます。また海上において密漁を取締まる必要上、水産庁と各都道府県は取締船も保有しています。平成15年10月末現在で、まず水産庁が本庁魚政部・地方の漁業調整事務所に計6隻を配備しています。また、この他32隻の民間船を取締用に傭船しています。都道府県の船舶は、県別の数字は分かりませんでしたが、平成10年の時点で総勢95隻が配備されているそうです。

 検挙実績もそれなりにありまして、ちょっと古い数字ですが、平成7年でおよそ300件を検挙したとの事です。つまり、ほぼ毎日1件の割合で監督官等が密漁が検挙してる事になるんですね。結構やるじゃないですか。しかももっとやるのは、検挙をなした主体の大半が吏員だという事です。またまた古い数字になりますが、平成6年の数字だと、監督官等らにより送検された容疑者総317名の内、314名は監督吏員によって検挙された人間だという事でした。

 都道府県の資格持ちの職員が特別司法警察職員に任命される、という例は漁業監督吏員の他にも幾つかあります。しかし、大体においてそれ程大きな成果は挙げ得ていないのが実情です。しかし漁業監督吏員は違う。取締において大きな成果を挙げているのです。これは素晴らしいですね。なお、数字を差引すると監督官によって送検された人数はわずか3名という事になりますが、しかし監督官が仕事をしていないという訳ではありません。

 現在、漁業監督官の主な取締対象はEEZ内で違法操業する外国密漁船ですが、私が数字を出した平成6・7年当時、外国密漁船取締りは今ほどに本格化してはいませんでした。最新の数字を出さずに平成7年の数字を出したのは、私が持っている数字が平成6・7年のものしかないからです(古くてすいません)。この当時の監督官の取締り対象は、領海内、および太平洋側を中心に一部設定された漁業水域内での密漁船取締りと、公海上での日本漁船の監督でした。細かい話は後に取締りエピソードという形で改めて触れますが、取締りの権限に制限あり/違反の現認が難しく検挙が困難/担保金支払による早期釈放制度がありそもそも送検まで行かない事も多い、などといった事情がありました。国連海洋法条約と漁業主権法が発効した平成8年以降は漁業監督官による密漁者検挙も増加しており、わけても日中・日韓漁業協定の改訂が済んだ平成12年以降は大幅に増えています。

 という事で、その漁業監督官等の治安維持話。3本程紹介してみたいと思います。派手な……という訳ではないですが、まぁどうぞ。

 
 
 
主要参考資料;
『漁業法講義』 著;片山房吉 刊;水産社 1942
『実用漁業法詳解』 著;金田禎之 刊;成山堂書店 1976
『水産庁50年史』 編;『水産庁50年史』編集委員会 監修;水産庁 刊;『水産庁50年史』刊行委員会 1998

Special Thanks to:まことさん


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