ホースを持たない火消し達

 

 前の項で取り上げたのは、消防署単位での調査の話でした。今回取り上げるのは、消防署の調査だけでは片付かなった時の、本部の手になる調査の話です。

 この例として本編で名前を出したのは東消予防部の調査課です。ここは、昨年(2000)か一昨年(1999)、民放のさる情報番組において取り上げられたこともありました。救助隊を始めとする花形に較べると地味だ地味だと言われつつ、それでもしっかりテレビに出てしまう辺りにこの部署の知名度の高さが窺がわれるんですが、腕の方も知名度に劣らず高いようです。

 彼等が出るのは、署レベルの調査ではどうにもならなかった時です。つまり問題が難しい時に出てくるわけで、それだけ仕事も大変。番組の中では、すっかり鎮火して煙の一筋も立たなくなった現場に赤塗りのワゴン車で乗り付け、そこで手がかりを探してほうき片手にうず高く積もった灰を延々黙々掻き分ける調査課員達の姿がこれでもか!と映し出されていました。で、そこで "掘り当てた" 手がかりの品と周りの証言をつき合わせ、原因を突き止めていきました。放映に際して編集の手が入っているのは分かってても、見ていて思わず感心する鮮やかさです。

 東消予防部に調査課が出来たのは昭和23年8月のこと、活動を始めた当初はノウハウもなければ調査技術も高くはなく、さすがに必ずしも高く評価されていたとはいえません。が、研究を重ね、かつ検察官と懇談会を持ち調査技術・書類の両面における向上を図ることで腕を上げていきます。設立5年後の昭和26年の12月には、東京地方検察庁より初めて捜査上の書類照会があり、以降放火や失火の事件について検察から捜査上の書類照会が来る例が増えていきます。そうして昭和44年に至り、刑事裁判において、消防官の作成した実況見分調書が司法警察職員の手になる調書と同等の証明力を持つものとして初めて証拠採用されました。東消の調査能力が、警察や検察の捜査と同等の客観性・正確さ・緻密さを持っていると認められた訳です。ううむ、大したものですね。

 東消の高い調査能力を支えているのは、調査課諸氏の腕と知識もさることながら、鑑識実験の能力も劣らずに重要だと言えます。

 警察が事件捜査をする際、現場検証で得た証拠品を持ちかえってあれこれ実験し、その性質を明らかにして捜査に資するということをよくやります。東消も、調査で同じ事をしています。しかも自前で。

 東消における鑑識実験の歴史はなかなか古く、予防部調査課設立3年後の昭和26年5月にはもう鑑識実験室を持っています。昭和36年4月に消防科学研究所を設立した時、鑑識実験室は一時廃止されました。しかしある程度のことまでなら調査課員が手近で実験できるようにしておく事がやはり必要、という事で昭和51年4月に、庁舎新築に伴い鑑識実験室が復活します。

 この辺他の消防でどうなっているかは知りませんが… それにしても、高度な科学研究を行う研究所と現場鑑識向けの実験室両方持っているとは。見るからに豪華です。科学的な原因調査にかける情熱に加え、予算あったればこそ、ですね。

 ついでに。福消の話も少し。本編やエピソードその1でも触れたように、福消では本部レベルでの調査というのはやっていません。調査の実動要員は消防署に属し、本部の指示も受けつつ活動します。大規模な火災や事故では消防局に調査本部が設けられますが、実動部門は各署の調査員を集める、という形になるようです。

 

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