情報と連携

 

 監視部門の審理部署について、先に、「情報収集」「摘発した事案の事後調査」を担当している、と書きました。ここでは、特にその情報収集について書く事にします。それと、情報収集に関連して他機関との連携に関する話も少々。

 犯罪の取締りを効率良く進めるために必要な条件とは、何か。それは幾つかありますが、「適切な情報」「他機関との連携」はその中でも一二を争うくらい重要なのではないですかね。事前に犯罪に関する情報があれば、確実で効率良い取締りができます。また他機関との連携がうまく働けば、各機関の不得意な部分を補いあってうまく取締りができるでしょう。税関もこの点例外ではなく、税関なりに情報収集、他機関との連携に務めているようです。

 既にあちこちで何度も述べました通り、現在日本にやって来る船舶・航空機の数たるや、相当なものです。この全てに監視の網をかけるのは物理的に不可能というべきで、従って実効ある取締りのためには、これにどうにか絞り込みをかけないといけません。CDもそうで、組織的密輸を摘発してこそCDの精華と言えるものですが、そのためには事前に情報が必要です。

 これら情報に関する税関の態勢は、平成8年から12年にかけて整備されました。まず監視部門の頂点である財務省本省関税局監視課に密輸情報専門官を置き、各税関の監視部には密輸情報調査官を置いています。また東京税関に統括密輸情報調査官と密輸情報分析センターを置き、関係取締機関や外国税関などから寄せられた密輸関連情報を一元的に管理しています。後述するところですが、彼らの仕事として挙げられているのが「寄せられた情報の管理」であるところが、税関の一つの特徴(というか限界か)と言えそうです。

 情報そのものについて言うと、税関は貿易と深い関係のある部署だということで、海外から情報を得るパイプが太い事がポイントのようです。海外の日本大使館や領事館の中には「税関アタッシェ」なる人員が配置されているところもあるそうですが、彼らはその名の通り海外に派遣された税関職員であり、派遣先の地で取締関連の情報を収集します。と言っても、現地の密輸組織に潜り込んで……などという警察官かどこぞの秘密情報員か何かのような真似に出る訳では全然なく、現地の税関と連絡を取って取締情報を入手するんですって。でもまあ、他の機関でそんなことしてるとこはないから、税関独自に収集した情報だと半分くらい言えないことはない。こうした海外税関からの情報に加え、ICPO経由でも情報を入手しますが、入手した情報には確度の高いものが多いそうです。

 こうした海外情報は、特定の船や航空機にまで絞っての摘発に役立つこともありますが、その他税関独自の活用法として「要注意地域」の指定というものがあります。各種の薬物や銃器について、持ち込み元と推定される「要注意地域」を指定し、そこから届いた貨物や船舶は重点的に検査します。これも一つの絞り込みのかけ方、しかも結構当たりもあるらしい。うむ、まさに努力の賜物。

 一方国内での情報収集ですが、こちらもやはり(?)他機関に頼る事が多いようです。税関の規模は海保や警察と比べてはるかに小さいものですので、自前の情報収集組織を作るのは規模的に少々難しいものです。人員だけ見ても警察は23万人、海保は少ないとはいえ1万2千人、これに対して税関は8,000人ですからね。かないません。一応、各税関の監視部審理部門には「麻薬専担班」「けん銃専担班」が置かれて、独自情報を集めて回ってるようですが……成果のほどはどうなのでしょう。

 規模(と予算)の問題が多分に関係しているとはいえ、総じて、税関の監視部門は取締情報を一から独自に掘り起こすだけの力は持ち合わせてない、と言えそうです。その代わりと言うべきか、国内外各機関にアンテナを張り巡らして、そこから入ってくる情報を組み合わせたり比較したり分析を加えて摘発に繋げて行く。特に「情報の管理」を取締に結び付けているのが税関であると言えるでしょうか。

 続いては、関係取締機関と税関との連携について。本文はじめ各所で何度も書いている通り、税関が追いかけるのはモノだけです。しかしモノを没収するだけでは罪を償わせた事になりませんので、できればヒトも捕まえたいところでしょう。そのためには税関が告発したり、あるいは警察などの機関に身柄を拘束してもらったりする必要があります。またあるいは、本文でも書くところですが、税関は警察や海保のような司法警察機関に比べるとどうしても荒事が不得手です。抵抗する容疑者の制圧だとか、そこまで行かなくとも張り込みやガサ入れ、船内の検査についての様々な技術など、税関が手を借りる場面も多いでしょう。

 結論から言うと、税関が行う犯則事件調査は、最近では他機関との合同調査という形式を取る事がほとんどだそうです。まあ、税関はあまり荒事に向いていませんので、もとよりその辺は他に任せるとしてですね。例えばの話、密輸容疑船の検査には税関の係官と共に警察官や海上保安官も同行し、人員・技術上の協力を行うとか。またCDでは、密輸組織全体の摘発に向けて各種の法令を駆使する必要があることから、税関他各機関が合同の捜査会議を持って方針を討議するとか。摘発した容疑者の関係先捜索は、やはり各機関合同で行うとか。そうして、協力して密輸組織を解明し、警察や海保が容疑者を逮捕し、税関が組織各部それぞれ異なる関税法違反容疑について告発し、検察が起訴まで持って行く。そんな感じでやってるそうです。

 もちろん、税関が独自に犯則調査をやって検察に告発しても何等問題はない訳ですけど。でもいかんせん税関は規模も小さいですし、摘発する相手の中には暴力団かマフィアかというような、物騒で凶悪な人や組織も多く含まれます。実際には税関独力で内偵、調査着手、告発から有罪獲得まで持っていくのは難しいようで、他機関との協力はうまく犯則調査を行うに欠かせない前提になりつつある様子。同じ財務ファミリーの国税庁なんかは、自前で強制調査やってがんがん摘発してる上に、検察に告発した容疑者の起訴率・有罪率も高いようですけど。でもなかなか同じようには行かないものですね。

 そんなこんなで、税関は国内外の各機関と協力して情報収集と効率良い取締りを目指し、国際化の時代に対応しています…という話でした。

 全然関係ないですけど、いつぞや来日したポール・マッカートニーが、麻薬類不法所持の容疑で麻薬取締官にしょっぴかれた事がありました。で、この時、彼の所持していた麻薬を見つけ出してしょっぴくきっかけを作ったのが他ならぬ税関です。普段税関さんがどう思ってるかは知りませんが、この時ばかりは「自前で取り調べたい!」と思ったかも?(笑)

 

     戻る 前の項へ
         
inserted by FC2 system