国税徴収

 

 国税徴収とは何ぞや? 税金取るのは国税職員みんなの仕事なんじゃないの? と思いきや。ことさらに国税徴収という場合は、普通に取る事でなくて「滞納者から取り立てる」事を指すんですね。税金を滞納して、払えと言っても払わない。そんな事態に対応するのが国税徴収業務です。

 滞納処分とは、つまりは納められなかった税金の代わりに財産を差し押える事です。これは現代では督促や出頭要求にも応ぜず、かと言って納税猶予措置を申請しもしない、言わば納税する気のない悪質滞納者や、長期に渡る滞納者について執行されます。

 滞納処分は国税徴収法にもとづいて執行されます。まず督促状を滞納者に発送し、納付督促を行います。督促状とは言っているものの、単なる「納税のお願い」みたいなものとは違う、最後通諜とでも呼ぶべきもので、これを送られて何の反応もしなければ「納税する気なし」として滞納処分執行対象になります。

 処分執行に当たっては、国税徴収法に基づいた証票を持った収税官吏が直接出向き、滞納者に滞納額(延滞金が発生していればそれも含めて)に相当する財産の引き渡しを要求します。財産が引き渡されればそれでよし、引き渡されない場合、収税官吏は滞納者の居宅や関係先を自ら捜索し、財産を差し押えることができます。また、捜索を行う場所に無関係な人間が出入りしないよう、立入を禁ずる事ができます。この捜索・差押には令状は要りません。ただし、立会人を同席させる必要があります。また、生活に最低限必要な財産までも差し押える事は禁止されています。

 1つ問題なのは、「滞納者が処分執行に抵抗した場合どうなるのか?」というところです。財産を引き渡さないとか捜索の立ち会い拒否とかいうレベルでなく、例えば得物なんかを持って実際に実力抵抗して収税官吏を追い返そうとしたら。この場合、当人には公務執行妨害の容疑がかかるんですが、収税官吏の側には逮捕権はありません。ところで国税徴収法には、警察官の応援に関する規程はありません。必要な時警察官の応援を頼んでよい、とは書いていないのです。もっとも、これを以て「警察官を呼んではいけない」という事にはならないのですが…しかし、いまいちすっきりしない形です。

 思うにおそらく、滞納処分の最初から警察官を帯同する事は難しいと、そういう事なのでしょう。まずは収税官吏が出向いて着手し、そこで抵抗してどうしようもないようだったら、初めて警察に通報し応援に来てもらう。あるいは、最初から一報入れておいてもいいけれど、実際来てもらうのは相手の抵抗が確認されてから、とか。こういう事になるんだと思います。ちなみに、実際こういう抵抗に遭った事例があるとは聞いた事ありません。(^^;

 今でこそ日本は豊かになり、滞納も減り(バブル経済崩壊後また増えて来てはいますが…)、又徴収猶予についても色々な規定が出来ました。差し押えられる財産も、不動産や、動産でも債券等有価証券が中心で、あまり目立つものではありません。

 がしかし。過去の滞納処分の例を見てみると、 今のようには行かない時代もあった事が分かります。とりわけ、戦後すぐの混乱期は、道義も退廃、経済も低迷、大口小口関係なく租税滞納が頻発し、しかもその処分も今からは想像もできない程峻厳であったようです。

 戦後混乱期は税収もガタ落ち、悠長な事も言ってられません。なにしろそのままでは必要最低限な経費の確保すら危ういとあって、とにかく片っ端から処分して行きました。当時は時代背景を反映して、差押対象財産は家具のような動産が中心であったとの事です。中には一罰百戒の意味をも込めて、差し押えた物資を運ぶトラックにでかでかと「滞納処分」の横断幕を掲げる事もあったそうで……。うーん、でもこれって、「一罰百戒」と書いて「みせしめ」と読むんでしょう、多分。

 こうして見ると何とも血も涙もありませんが、ともかくそういう時代であったのですね。取り立てた側も取り立てられた側も、ご苦労様です。

 

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