目指せJCIA

 

 公安調査庁の「これから」について。公安調査庁の存立基盤であった破壊活動防止法は「あの」オウム真理教にすら適用できず、その結果破防法の実質的な存在意義というのは著しく低下してしまいました。という事は、ひいてはその適用に任ずる公安調査庁の存在意義も著しく低下してしまったという事です。新団体規制法の執行官庁に名を連ねる事で公調自体の存在意義は少々ばん回できたようですが、それでも破防法は依然空文状態なのであり、公調としても心許ないところでしょう。さあどうする。

 洩れ聞くところによると、現在公安調査庁は本格的な情報官庁への脱皮を目指しもがいている真最中という事です。そもそも、現在(00年3月現在)の公安調査庁は厳密な意味でのいわゆる「情報官庁」ではありません。公安調査庁が公安情報・治安情報を収集しているのは、破防法・新団規法の執行のためです。従って収集する情報も、調査対象団体の性格・危険性の解明に関するものが基本となります。広範囲・一般的な情報収集までが法で明確に認められている訳ではありません。

 しかるに公調側に言わせれば "不透明な治安情勢に合わせ" "新たな破壊的団体の出現を警戒し" "機動的に調査を行なう" 必要があるとの事で、現在の体制ではそうした「ニーズ」に応える事はできない、んだそうです。具体的には、まず、破防法・新団規法にもとづく調査というのは、各法の規制に関しなされるものである。しかるに各法にもとづく団体規制は、団体が破壊活動や無差別殺人に及んだ後でないと適用できない仕組みとなっている。ここから、各法の規制対象として公調が調査対象団体となし得るのは、過去に暴力主義的破壊活動あるいは無差別大量殺人を行なった団体のみとなる。すなわち、団体によるそうした活動が行なわれた「後」に公調の調査と法の規制がやって来る形になる訳で、これでは団体の危険性を未然に察知することも、事件を未然に防ぐ事もできないではないか。だからもっと広い調査範囲と強い調査権が欲しい…と言っている訳です。

 今のところ、公安調査庁に広範囲で一般的な公安情報収集任務を与える旨明記した法律はありません。ですが、公調は「国内公安動向の把握」と称して事実上の一般公安調査を実施しているもののようです。すなわち、別段の法的根拠を必要としない任意の活動として、指定団体にこだわらず広く公安関係情報を収集し始めているという事です。あるいはどうしても法的根拠が要るとなれば、公安調査庁設置法第3条の「公安調査庁は、公共の安全の確保に寄与することを目的とし(後略)」という部分をそれに当てるみたいですね。

 また公調は、海外への展開も視野に入れているようです。具体的には、列国の多くは警察とは別に情報機関を保有している訳ですが、公調はそれら機関とパイプを持つ事を切望しています。かつ、海外へ調査官を派遣し情報活動に従事させる事も検討しているらしいですね。おお、海外情報収集となると、冗談抜きでJCIAの誕生か!?などという戯れ言は置いておきまして。(まあ、本家CIAは国内情報の収集はしませんけど。)

 これについてまたまた公調に言わせると、海外進出する事で国内の治安情報と海外の情報をリンクさせる事ができる、これによって、例えば国外の組織が日本国内での破壊活動を企画・実施していたり、あるいは国内の破壊団体が海外に活動拠点を求めたりしていても、容易にその端緒をつかむ事ができる…んだそうです。

 このように公安調査庁は、団体規制のためという前提にしばられる事なく国内外において情報活動に従事するところの、本格的情報機関へと転換することを目指しているようです。もっとも、だからと言って団体規制請求・規制処分執行の権限がいらないと言っている訳でもないところがミソだったりして。

 ところで。こうした公安調査庁の動きに対し「そうは問屋がおろさねえ」と言う向きもあります。

 実は、私が見聞した中で、公調の調査能力を高く評価する話というのは聞いた事ありません。例えば公安警察の場合、活動の是非はともかくその情報収集能力自体は非常に高く評価されています。しかるに公調は、情報収集能力がダメ扱いされています。しかも、権限のなさ故に能力が劣るのならまだしも、共産党・過激派ばかりにこだわる古い組織体質、治安情勢に対する職員の意識の低さ、それらの結果としての "情報感覚" の欠如。そういった理由から情報収集能力が低いのだとされているのです。少なくとも、私の見聞した範囲ではそうです。そういうところが本格的情報機関を目指すとは笑止、とする評価ばかり。

 まあ、もともと公安調査庁は嫌われものではありました。破防法は団体規制法であるにより、結社の自由を定めた憲法に背く存在である、その執行に当たる公調もやはり違憲の存在である、云々。こういう理由から公調を嫌う人はそれこそひきもきりません。その流れから公調情報機関化に反対というのなら分かるのですが…。それだけではない、己の基本的な能力の低さを棚に上げて組織存続と権限拡大ばかりに邁進する公調など、ムダだから解体してしまえ、という声も多く聞こえるのです。ちなみに(私にとっては不思議とも思えますが)、公調違憲論者の方の中にも、公調の情報収集能力を高いとする人は見当たりません。

 公調の情報能力は本当に低いのか。私には、その与否を確認するすべはないのですが(あったらそれこそ大事ですねん・自爆)…それにしても、この批判のされ様は尋常ではありませんね。寡聞ながら、文字通り誰一人として公調を評価してなどいない訳で、話半分としても異常です。なぜこうも公調は批判されるのか。

 私は関係者でないので、その与否は知りません。しかし推測する事ならできます。破防法団体規制請求に関連した報道の中に、公調が公安審査委に提出した証拠の中にオウム関連の新聞記事が含まれていた、というものがありました。もちろん、これは報道がそう言っているだけでほんとかどうか私が確認した訳ではないのですけれども。しかし仮に事実だとすると、新聞記事を証拠として提出する、公調のその感覚には少々疑問を覚えるものです。

 もちろん、新聞記事始めマスコミの報道が取材に基づいたものであり、ある程度信憑性のあるものだというのは確かでしょう。しかしそれは一般論であり、そこから法的な証拠価値を認定し得るかどうかは別問題です。やはり、報道というのは、それに触れる側にとっては伝聞でしかなく、確認ではない訳ですから。私は一般論として報道の内容を信用してはいますが、法的な問題としてそれに証拠価値を認めるかと聞かれれば、答えは否となるでしょう。公安審査委の審査は裁判ではなく行政上の行為ですが、それでも、憲法上の自由を制限する以上はある程度の厳密さが要求されます。大体、たかだか(失礼!)捜索差押令状一枚取るための理由説明であっても、新聞記事をその根拠にしたりはしません。まして団体規制ともなれば、です。

 そんなこんなで、私個人としては「今現在の」公調には今一つ期待を寄せられないでいる訳なんですけれども…。さてさて、これからどう変わっていくものですやら。

 


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