船員労務官

 

 船員は、海上・船上という特殊な環境で働く分陸上の労働者とは異なる特別な危険が伴う職業です。彼らの労働環境改善と労働災害防止のため、船員法に基づき特別に置かれているのが船員労務官です。船員労務官は、船員法、船員災害防止活動の促進に関する法律、に関してその事務を遂行する他、最低賃金法、賃金の支払等の確保に関する法律、について、適用対象が船員である場合には労働基準監督官と同等の権限を持ちます。

 彼らは監査という活動を通して船員の安全を守っていますが、司法警察権も持っており、労働関係の犯罪について捜査・摘発を行うこともできます。管轄するのは、上で挙げた4法に違反する罪です。

 労働基準監督官とは別に司法警察権を持って労基似の活動を行う関係者、という事で、先に出た鉱務監督官とも似た存在です。ただし船員には労働基準法の適用がなく、労働条件だろうと労働災害防止だろうとほぼすべて船員法及びその関連法でまかなう形になっていますから、独立の度合でいけばこちらの方が高いです。鉱山労働者の場合、労働基準法と鉱山保安法の二法の適用下にあるため監督機関も労基と鉱務監督官の二本立てでしたけれども、船員関係は船員労務官のみ。

 ところで、先の鉱務監督官のところでは労基との間で管轄の線引きを巡り結構もめた話がありました。しかるに船員関係では、モノの本を斜め読みした限りではそういう話は見聞しません。やはり陸上労働者と水上労働者では就労スタイルが違うし労働慣行も違い、一つの監督機関でまとめて取り扱うには難があったのでしょうか。

 船員労務官の設置根拠法規たる船員法が制定されたのは昭和22年3月で、これはまさしく労働基準法の制定時期とかぶります。同法の立案に際しては当時の運輸省に臨時船員法令審議会を設け、「制定準備中の労働基準法との調整を図りつつ」立案作業を進めた、とありました(*)。なお船員法成立後の6月、労働省を新設するため労働省設置準備委員会が設けられ、ここで海上労働の所管如何について議論が持たれた事がありましたが、結論は運輸省所管で落ち着いています。理由は、海上労働の特殊性に鑑みての事でした。(*)

 かくして運輸行政当局の元で成立・運用されるものと固まった船員法。同法は旧船員法を引き継いだ他、商法中にあった船員関係条文をもまとめ、体系的な「海上労働法典」とされています(*)。さながら、水上における労働基準法みたいなもの。監督に当たる船員労務官は、すなわち水上における労働基準監督機関であり、重要な役割を負っています。

 その船員労務官、国土交通省海事局船員部労働基準課をトップとして、全国に9つある地方運輸局及び神戸運輸監理部の海上環境安全部、また内閣府沖縄総合事務局の運輸部門に配置されております。人数については、最新の情報は不明ですが、平成11年の段階で146名いたことが確認されております。

 かような体制で、日夜業務に励んでおられます。以上。(…………すみません、ねたがないんです。どなたか、話聞かせて下さいませんか・汗)

 
 
主要参考資料;
『厚生省五十年史(記述編)』 編;厚生省五十年史編集委員会 刊;財団法人厚生問題研究会 1988
『運輸省五十年史』 編・刊;運輸省50年史編集室 1999

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