郵便物保護銃

 

 郵便物保護銃という名称は聞き慣れませんが、かつてこういう名前で呼ばれた銃が存在したそうです。現在の郵政監察とはなーんの関係もありませんが、郵政と治安に関係する一エピソードという事で、紹介する事にしました。かくいう私も、実はつい最近Gun関係の雑誌でこの銃に関する記事を見るまで、その名を聞いた事すらありませんでした。いやお恥ずかしい。

 国家事業として近代的郵便事業が開始されるのは明治時代に入ってからですが、郵政当局に銃が配備されるようになったのはそれから程なくしてです。「短銃取扱規則」という規則を制定し短銃400丁を購入したのは、明治6年の事でした。「郵便行嚢逓送ノ際郵便物ヲ掠奪シ脚夫ヲ殺傷致候賊徒往々有之」という事で、郵便物保護のためにこの制度が出来ました。

 この規則はその後明治20年に郵便物保護銃規則、さらに大正5年に郵便物保護銃使用規定に取って代わられます。これで保護銃制度が固まり、以降太平洋戦争終結までこの制度で行く事になります。大正5年の規定では、郵便物保護銃は「強盗猛獣等出没シ銃器ヲ携フルニアラサレハ郵便逓送集配人又ハ郵便物ノ安全ヲ期シ難シト認ムル場所ニ限リ郵便逓送集配人ヲシテ之ヲ携帯セシムルモノトス」と定めてあります。明治6年の規定に比べて、脅威の内容や守る対象が若干変わっていますね。

 「猛獣」が具体的に何を指すかは分かりませんけれども。でも、獣相手にちっぽけな短銃がどれほど効くもんだろうか、とちょっと勘ぐってしまったりもします。まあ、相手が銃声にびびってひるんだすきに逃げろという事なんでしょうね。

 明治期の規定に引き続き、郵便物強盗犯は相変わらず脅威になっています。いるんですねえ、こういうやつが。強盗ではないですが、今でも郵便物中の現金書留を盗むやつはいます。それとおんなじで、郵便や小包の中の貴重品が狙い目の強盗さんなんでしょう。しかしながら個人的には、郵便屋さんが持ってる、貴重とはいえそこまで高額とは行かなさそうな、それらの品物を目当てに「強盗」まで働いちゃうところに、なんとなく時代を感じてしまったりして。

 金目当ての郵便物強盗と見せかけて実は××の秘密の手紙の奪取が目的だった、陰謀に巻き込まれて窮地の郵便配達人は、保護銃片手に立ち上がり… なーんて形でねた振りすると、短編くらいは書けそうですか? 全然関係ないですが。

 この制度がなくなったのは戦後のこと、郵政省設置に伴ってのことのようです。昭和24年に逓信省が郵政省と電気通信省に分離されますが、どうやらこの時に郵便物保護銃制度も廃止されたようですね。明治6年から数えて76年目の事でした。

 
主要参考資料;
『郵政百年史資料 第二十六巻 郵便事業用品史料集』 編;郵政省 刊;吉川弘文館 1971

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