労働基準監督官

 

 まだ、ついて来られますね? 労基の皆様の話です。国民の労働環境を維持向上させるために、労働基準法によって設けられました。日々様々な業務にいそしんでいますが、その中に司法警察業務もあります。管轄するのは、労働基準法、じん肺法、労働安全衛生法、家内労働法、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法、最低賃金法、賃金の支払等の確保に関する法律、作業環境測定法、の各法に違反する罪です。

 こうした労働犯罪に対応する労基の陣様は、厚生労働省労働基準局を頂点として47都道府県に労働局が1つずつ。その下に労働基準監督署が343、支署が4つあります。監督官の人数は、最新の数字は分からないんですけど、平成6年には2,761名いました。今もそんなもんでしょう。

 ここまで来ると、犯罪鎮圧といってもねたがなくって。すいません。というのもこの辺になって来ると、犯罪捜査ってよりは行政指導でカタ付ける方が主流になって来るもんですから。

 ちなみに労基の仕事を列挙してみると、

  1. 事業場に対する監督指導
  2. 重大な法令違反事案等についての司法処分
  3. 事業主等から提出される許可申請、認定申請、届出等の処理
  4. 申告、相談等の処理
  5. ボイラー等の落成検査
  6. 災害調査、統計調査の実施
  7. 労災保険の給付
  8. 労働保険料の算定基礎調査

と、なっております。ほとんどが指導監督業務か、許認可業務なんであります。

 司法処分、つまり犯罪の捜査といっても、任意の事情聴取や帳簿の検査、現場の検証なんかをやって証拠固めの上書類送検……というのが普通みたいです。軽い違反だと、司法処分に回すのではなく違反の是正を促す勧告などを出して、相手がこれに従えば裁判沙汰にはしない。例えば、労働条件については労働基準法に基づく是正勧告を出し、労災防止のためなら労働安全衛生法に基づく使用停止等命令を出す、あるいは法令違反には至らずとも改善が求められる事項があれば指導票を書くetc。

 こうして見ると、防護ベスト着用・警棒携帯の上未明に急襲、鍵を壊して一気に突入、逮捕押収!などという荒事はちょっと想像できません。聞くところによると、逮捕もあまりおやりにならないようですから……。もちろん、これにはきちんとした理由があります。何となれば、労基の目指すところは労働基準・労働環境の維持向上。これはまさしく行政指導で達成されるものです。司法警察権を行使しての処分は、関係者を処罰するためのものであって、企業等に対し行政上の措置を命ずるものではないため、労働条件の向上には直結しません。だからこそ、労基は行政指導と処分を多用する方向にある訳です。

 が。だからといってナメてかかると大変な目に遭う訳で、検察送致人数で見ると、(またまた古い数字で恐縮ですが)平成6年でその数2,394人に登ります。この全員が起訴・有罪となった訳ではないでしょうが、しかし労基はまあまあな数の労働犯罪を検挙しているし、またやる時はやるという事も分かるでしょう。なお、労基が容疑者を逮捕した事例というのも、少ないながらある事はある。ちなみに、被疑者にかける手錠や捕縄は労基自前のものですが、留置場は警察のものを借りるんだそうです。なるほどね。

 労働基準監督官もやる時はやる。それを象徴的に現しているのが、労働犯罪の検挙(部内では司法処分と呼ばれています)を専ら行う監督官の存在です。特別司法監督官、略して特司監、と呼ばれています。特司監についての細かい話は、別に項立てをしておりますので、そちらでどうぞ。

 バブル弾けて以降の不景気で、日本の労働環境は御世辞にも良いとは言えなくなりつつあります。伝統的に、労働基準監督官が相手にして来た最大の相手は労働災害なのですが、試みに平成14年1年間の労災関連の数字を挙げてみれば。すなわち、平成14年中に労災に遭い、死亡ないし4日以上の休業を余儀なくされた人の数、12万5,918人。大した数字ですが、それでも、昔に比べれば随分と減ったんだそうです。しかるに、これはあくまで厚労省労働基準局が把握した数字でしかありません。しかも休業4日に至らない労災は除いてあります。軽微な案件や暗数までも含めれば、総数は相当なものでしょう……

 また最近ではこれに「賃金不払残業」という厄介なモノがくっつきつつあります。ただ働きで残業させるサービス残業というやつ。誰ですか、こんな嫌な呼称を思いついたのは? 手当を払わずに職務命令でもって残業させるのは、立派な労働基準法違反。近年これが増えています。エピソードのところで触れた特司監も、このところ挙げて回っているのは主にこの賃金不払残業関連事案です。

 行政上の立入検査と指導で少しでも事案の数字を減らし、悪質な隠蔽を摘発し、そして、司法警察権でもって関係者を処罰する。道のりは険しそうですが。どうか頑張って下さいませ。

 

Special Thanks to:おたさん


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