自衛隊警務官等

 

 警務官とは、「自衛官のうち、部内の秩序維持に専従する者」の事です。厳密には警務官と警務官補に別れて階級や権限などが違うんですが、以下では双方合わせて「警務官等」と総称することにします。口の悪い人は彼らの事を旧軍の憲兵みたいに言うけど、全然違うんだよと私は力説したいですね。

 警務官等の任務とは、大きく分けると

  • 部内の秩序維持
  • 犯罪捜査
  • 要人の警護・交通整理のような保安業務

になります。犯罪捜査とあるように、この警務官等には、特別司法警察職員としての権限があります。してその取締の対象とする犯罪とは、

「自衛官並びに陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部及び部隊等に所属する自衛官以外の隊員並びに学生、訓練召集に応じている予備自衛官及び即応予備自衛官並びに教育訓練招集に応じている予備自衛官補(以下本条中「隊員」という。)の犯した犯罪又は職務に従事中の隊員に対する犯罪その他隊員の職務に関し隊員以外の者の犯した犯罪
二 自衛隊の使用する船舶、庁舎、営舎その他施設内における犯罪
三 自衛隊の所有し、又は使用する施設又は物に対する犯罪」

自衛隊法 第96条

 こう書くと長いですが、つまり簡潔にまとめると

  • 自衛隊員の犯罪
  • 施設内での犯罪
  • 自衛隊の所有物・施設に対する犯罪
  • 職務に関する犯罪

を取り締まると。こういう事ですから、隊員の犯罪を取締るのはもちろん、一般人であっても自衛隊の施設内で犯罪に及べば警務隊がやって来る。さらには施設外であっても、自衛隊の所有物・施設・職務従事中の隊員に対し犯罪行為に及べば、当然警務隊のお世話になる事になります。例えば、何かの用事で公道を走っている自衛隊車両に石ぶつけるとか、公務で市役所に出向いた隊員をどつくとか、駐屯地の敷地の外から火炎びん投げ込むとかetc。

 別な言い方をしますと、何がしか自衛隊との関連がある分野で発揮されるのが警務隊の犯罪捜査権である、という事。一般人であっても、自衛隊がらみで犯罪に及ぶと警務隊から取り締まられる。ちなみに旧軍の憲兵はもっと手広い取締権限を有していたようで、軍とは関係のない犯罪でも取締りができたようです。(詳しくは私も知らないのですけど)

 さてこの警務隊、一応陸海空3自衛隊別個に編成されておりますが、いずれも長官直轄部隊の扱いを受けています。司法警察職員たる警務官等の総員は、やや古い数字ですが、平成6年現在で1074名になります。陸海空の内訳までは分からないのですが、およそ800名程は陸自警務隊によって占められており、主力となっています。

 陸自警務隊は東京市ヶ谷に本部と中央警務隊を置き、また全国5つの方面隊がそれぞれ方面警務隊を持っています。警務官教育機関としては、東京の小平に小平学校を置いています。以前は業務学校といいましたが、平成13年に同じく小平にある調査学校と合わせ小平学校と改名されました。

 方面警務隊からは地区警務隊─派遣隊─連絡班、の順で末端の駐屯/分屯地に至るまで警務部隊が派出されています。地区警務隊は、原則として各師団・旅団・混成団を単位として派遣されており、それぞれ固有の番号が振られています。現在(2003年4月)の配備状況は以下の通り。

北部方面警務隊
  • 第101地区警務隊 (真駒内)
  • 第106地区警務隊 (旭川)
  • 第107地区警務隊 (帯広)
  • 第108地区警務隊 (東千歳)
東北方面警務隊
  • 第109地区警務隊 (青森)
  • 第110地区警務隊 (神町)
東部方面警務隊
  • 第102地区警務隊 (練馬)
  • 第104地区警務隊 (富士)
  • 第111地区警務隊 (相馬が原)
  • 第112地区警務隊 (習志野)
  • 第113地区警務隊 (久里浜)
中部方面警務隊
  • 第114地区警務隊 (守山)
  • 第115地区警務隊 (千僧)
  • 第116地区警務隊 (海田市)
  • 第118地区警務隊 (善通寺)
西部方面警務隊
  • 第103地区警務隊 (福岡)
  • 第105地区警務隊 (那覇)
  • 第117地区警務隊 (北熊本)

おおむね、師団や旅団の司令部所在地に地区警務隊がいる訳です。ただし東部方面隊では、師団・旅団の他、富士教導団担当として富士に104、第1空挺団と第1ヘリコプター団担当として習志野に112地区警務隊がいます。久里浜の113地区警務隊については、自分では調べがつきませんでしたが、教えて頂いたところでは防衛大学校と少年工科学校の担当だそうです。

 海自の警務隊は市ヶ谷に本部と東京地方警務隊を置き、また全国5地方隊の総監部所在地に地方警務隊が駐屯、さらにそこから警備区内の主要基地へ分遣隊を出しています。東京地方警務隊とはその名の通り東京を管轄する海自の警務隊です。海自の地方隊区分によると東京は横須賀地方隊の警備区内にあることになるのですが、日本の首都・政治経済の中心地にして防衛庁所在地たるにより犯罪も多いということか、陸自の中央警務隊と同様、当地を管轄させるべく特別に警務隊が編成してあるのでした。

横須賀地方警務隊
  • 厚木警務分遣隊
  • 木更津警務分遣隊
  • 下総警務分遣隊
  • 館山警務分遣隊
呉地方警務隊
  • 岩国警務分遣隊
  • 江田島警務分遣隊
  • 小月警務分遣隊
  • 小松島警務分遣隊
  • 下関警務分遣隊
  • 徳島警務分遣隊
  • 阪神警務分遣隊
佐世保地方警務隊
  • 大村警務分遣隊
  • 勝連警務分遣隊
  • 鹿屋警務分遣隊
  • 那覇警務分遣隊
舞鶴地方警務隊
大湊地方警務隊
  • 函館警務分遣隊
  • 八戸警務分遣隊

 空自の警務隊は航空警務隊といって、航空総隊司令部がある東京の府中に置かれています。そこから全国の主要な基地に対し直接地方警務隊を派遣しています。警務隊は中央でひとまとめにしてあり、航空方面隊単位でばらされてはいません。地方組織の司令部所在地に地方警務隊→そこから管轄区内の各基地に分遣隊、という陸自や海自のスタイルとは異なっていますね。

 さて。警務官等の仕事には犯罪捜査もある、と先に書きましたが、では実際に彼らが容疑者を検挙した事例はどのくらいあるのか。ちと古いですが、平成6年に警務官等が検察へ送致した被疑者の数は全部で109人、他に警察官に引き渡した者の数が2人、という数字が出ております。これらの内どれだけが自衛官でどれだけが一般人なのかは分かりませんが、警察に引き渡した2人というのは一般人のような気もします。

 警務官等の仕事がらみエピソードというのは、探してもなかなか見当たらないものでして、大した話はできないのですけど…… とりあえず警務官等と関係「なくはない」話ってことで、こんなのを取り上げてみました。

 

Special Thanks to:いすあらしさん


次の項へ 戻る 前の項へ
    
inserted by FC2 system