鑑別所観護教官

 

 鑑別所です。そういや名前聞いた事あるよ……という方は多いかと思います。が、どういう施設か説明してみろとか、少年院との違いを言ってみろとか言われると、途端に詰まってしまう方もまた多いんではないですかね。かく言う私も、ページ製作のために調べる前は「名前しか知らない」レベルだったのですけれども。(笑)

 鑑別所がどういう施設かを理解するためには、まず少年審判を理解しておかなくてはなりません。ご存知の通り、未成年は原則として刑事罰を課されません。犯罪行為に及んだ場合、普通は地方裁判所に起訴される事はなく、少年法に基づき家庭裁判所で少年審判を受けます。もう少し細かく言うと、罪を犯した少年(※ここでいう少年とは、二十歳未満の未成年)、十四歳に満たないで刑罰法規に触れる行為をした少年、および生活環境や性格その他諸々の事由から将来犯罪に及びかねないと考えられる「ぐ犯少年」については、家庭裁判所で開催する少年審判に付する事とされています。

 罪状によっては、少年審判を開かず家裁から検察官へ送致→起訴、という流れになる事もありますが、基本的には、少年の処分を決めるのは少年審判。ここでの処分の根底に流れているは「未成年であるから更生の余地広し」という考えです。すなわち、刑事裁判で課されるのは罪を償わせるための「刑罰」であるのに対し、少年審判で課されるのは基本的に更生のための「保護処分」です。少年法では少年審判に該当する事件を保護事件と呼んでおり、刑事裁判とは異なる様々な独自の規則・手続きを定めています。

 で、この少年審判で処分を決定するに当たっては、少年の資質をよくよく考えて更生に適するようにする事が求められ、この「少年の資質」を見極めるために利用されるのが少年鑑別所なのでした。一般の刑事裁判においても被告人の資質鑑定がなされる事はありますが、外部の有識者に委託して行われるのが常であり、少年審判の鑑別のように専門組織を立ち上げて行われるものではありません。それだけ、個々人の資質や性質などを見極めてきめ細かく処分を決めよう、という考えが少年審判にはあると言えます。

 非行少年が捕まって鑑別所に放り込まれるのは、なにもそれが罰だからというのではなく、捕まった少年がどういう人物かを「鑑別」する必要があるからです。ついでに、審判開始までにその少年の頭を冷やさせるという意味もあるらしい。

 少年個人の資質に合ったきめ細かな処分決定に寄与するための鑑別調査を行う機関。その歴史は意外と(?)古く、鑑別機関が最初に出来たのは戦前の昭和9年です。残念ながら、当時の少年審判と少年鑑別所の関係などについては不明なのですが……(調べてないもんで)。当時の少年鑑別所は、少年教護法という法律に基づき少年教護院(※次項で触れます)の付置機関として置かれました。当初の設置数は14、後に22施設まで増えます。この当時の鑑別所の特徴は、児童福祉・児童保護行政と深い関わりを持っていた事で、矯正担当の司法省ではなく内務省(後に厚生省)の管轄下にありました。

 戦後、現行の少年法制定と家庭裁判所における少年審判手続きの整備に伴い、少年鑑別所は厚生省から法務省に移りました。現在、少年鑑別所は法務省下の組織であり、全国に51存在します。職員数は、やや古い数ですが、昭和60年度で総数1179名、このうち観護教官が691名、鑑別技官が225名になります。鑑別技官はその名の通り鑑別担当の職員、観護教官は収容した少年の世話をする(観護する、処遇する、と称します)職員です。事務官ではなく教官が処遇に当たっている理由は、鑑別所への収容は刑罰ではなく鑑別のためであり、また未熟な少年に相対するには事務官よりも教師としての訓練を積んだ教官の方が適当である、とされるからです。

 鑑別所の法的な位置は、上にも書いたように法務省の機関、矯正管区の下にあり法務省矯正局をトップに頂いています。こうした位置は刑務所や後述する少年院と同じである訳ですが、しかしその施設としての性格は刑務所等とは随分違います。それでも敢えて矯正局の下につけているのは、強制力をもって身柄を収容する、という点が共通しているからでしょう。

 鑑別所は少年の資質を見極める=鑑別する施設と先に書きましたが、そこでの鑑別は「ちょっとカウンセリング行ってきます」というような性質のものではありません。(鑑別方法は各種ありますが)一般的な収容鑑別の場合、2週間から1ヶ月程少年の身柄を強制収容して規律正しい生活を送らせ、その中で少年の鑑別を進めて行きます。具体的には、鑑別を担当する職員である鑑別技官が少年と面談し、また日頃の生活の面倒を見る職員である観護教官が少年の行動観察記録を作成、双方并せて資質を鑑別する訳です。

 「身柄を強制収容」「規律正しい生活」とある通り、鑑別所では厳しい生活上の規制が科せられます。刑務所では秩序を維持し規制を実効あるものとするために刑務官が強制力を持っていましたが、これは鑑別所でも同じです。少年鑑別所は少年院法に基づいて設けられていまして、そこに規定された強制権は鑑別所にも準用されます。実際に強制力を行使するのは、日常的に少年の処遇を行う観護教官である場合が多いようですね。

 まず規律違反への対処・秩序維持のための強制権としては、手錠の使用があります。収容した少年が逃走、暴行、あるいは自殺のおそれがある場合、鑑別所長の許可を得て手錠を使用できる。使用できる手錠は金属製の両手錠、同じく片手錠、皮手錠の3種類である。というのがその内容です。……全然関係ないんですが、金属製両手錠と皮手錠は分かるとして、片手錠ってのは片手にだけはめるんですか? で、これどうやって使うのか分かんないんですけど……どなたかご存知の方いらっしゃいましたら、簡単に使い方など教えて頂けませんか。

 なお、規定してあるのは手錠の使用だけですが、実際には手錠はめる前に取り押さえたりとか、はめた後は懲戒のために単独室にいれるとかしますね。これらについては法に規定はないんですけど、それくらいなら規定がなくても秩序を維持するための正当な職務行為と解される、という事で実施が許されています。まあ、手錠使えるけど取り押さえられないというんでは話になりませんからね、確かに……。ただし、取り押さえる際に、相手の抵抗を制圧するため何か得物が使えるか、という点は分かりません。警棒くらいなら、持つだけ持っていそうな気もします。が、使うとしても例えば相手の持っている凶器をはたき落すという程度で、積極的に制圧するためには使えないでしょう。逃げる相手を警棒振りかざし追跡、などというのは無理らしい。

 次。身柄の収容を実効あるものとするための権限として、鑑別所の職員には、少年院法に基づいて逃走した少年を自力で連れ戻す権限が与えられています。まあ確かに、逃げられてそのまんまではザルもいいとこ。この職員による連戻権は逃走後48時間以内であり、それを過ぎるとそのままでは連れ戻せません。裁判官から連戻状を発布してもらい、これでもって連れ戻します。

 あと、強制権とは直接は関係ありませんが、鑑別所の長は警察官・児童福祉司その他の公務員に援助要請をする事が認められています。ですから例えば、収容者が暴れてしょうがないという時、他の鑑別所や警察署などに応援を頼むことができます。あるいは連れ戻し関係で、警察官に連れ戻しの援助を依頼してよい、発布された連戻状を警察官に交付して連れ戻しを頼んでもよい、という規定もあります。まあ、鑑別所も忙しいでしょうからね。残念ながら、たった1人の逃亡者にばかりそうそうかかずりあう訳にもいかんという事状もあるんでしょう。

 この他、鑑別所も矯正管区に属する施設の一であることから、緊急事態発生の際には矯正管区長が指揮統制を行うことになっています。

 このところの少年犯罪の凶悪化や件数増加により、なんとかしろという声が高まっております。今のところは少年法を改正してより広くより厳しく罰し得るようにしよう……という方向で話が進んでいるようですね。

 ところで鑑別所は少年鑑別のための施設ですから、いわば「選別」機関です。ここでの「選別」の結果次第では、少年が「刑事処分相当」と判断されて検察官送致となる場合も出て来ます。そうすると、結構重要な施設と言えるでしょう。今のところ、一連の少年法関係話の中で鑑別所をどうこうするという話は聞きません。が、少年の中にはふとした気の迷いで非行に走ったやつもいれば、更生の余地のまるでなさそーな根性曲がりもいます。少年犯罪への対策として刑罰が指向される中にあっては、この少年鑑別はこれまで以上に重要視される事でしょう。がむばって下さい。

 
 
主要参考資料;
『日本の矯正と保護 第2巻 少年編』 編;朝倉京一、佐藤司、佐藤晴夫、森下忠、八木国之 刊;有斐閣 1981
『現代行政法学全集20 矯正保護法』 著;吉永豊文、鈴木一久 刊;ぎょうせい 1986
『厚生省五十年史(記述編)』 編;厚生省五十年史編集委員会 刊;財団法人厚生問題研究 会 1988

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