鳥獣保護・狩猟事務担当都道府県庁職員

 

 もーこの辺まで来ると何がなんやら……。もうほとんど規定のみで最後に適用されたのいつだっけ?という世界になりそうです。「鳥獣の保護又は狩猟の適正化に関する取締りの事務を担当する都道府県の職員」であって特に指名された者には、特別司法警察職員として狩猟・鳥獣保護に関する罪を捜査する権限があるんですねぇ……ふぅん……。

 この法律の規程に基づき司法警察職員としての指定を受けている人は、平成6年の段階で全国合わせて1,217人いらっしゃいます。結構な数字ですが、捜査能力としてはいか程のものがあるんですかね? 研修受けるとはいえ、普段は本来の仕事してて、いざという時だけ捜査員になる訳だから……。どうせ検察との協定で司法警察業務やる事にもなってるから、指定するだけしていざとなったら応援お願いしちゃいましょ、などというような他力本願感覚の数字も、それなりに含まれていると見た。

 地方自治体の狩猟事務担当職員に司法警察権を与える制度そのものは、戦前から存在しているものです。ただ当初は今と違い、大正12年勅令第528号「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定ニ関スル件」中にて定められていました。「狩獵取締ノ事務を擔當スル廰府縣技手」であって指名を受けた者に対し、「狩獵ニ關スル罪」について司法警察官(※現在で謂えば司法警察員)として犯罪を捜査する権限を与えています。同条文は、戦後、「廰府縣技手」の部分を「三級ノ廰府縣技官」と改めた他は変更ありません。

 ところで同条文では、司法警察権付与の対象となった技官のみであり、事務官には与えられていませんでした。しかしこれでは実務上いささか都合が悪く、そこで昭和33年に当時の「狩猟法」が改正された際、新たに「狩猟ニ関スル取締ノ事務ヲ担当スル都道府県ノ吏員」にも司法警察権を付与し狩猟に関する罪を捜査できるようにする条文が設けられました(狩猟法第20条の4)。ものの本によると、当時はかすみ網を用いた密猟が横行しており、これの取締りが急務となっていたとの事(*)。そのため、技官のみならず事務官も捜査要員に加えられるよう、上記の改正がなされた模様です。

 狩猟法はその後「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」と改名し、さらに近年、平成14年に全面改正され「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」となりました。同法は前法の司法警察権関係の規定もしっかり受け継ぎ、次のように定めています。

「鳥獣の保護又は狩猟の適正化に関する取締りの事務を担当する都道府県の職員であってその所属する都道府県の知事がその者の主たる勤務地を管轄する地方裁判所に対応する検察庁の検事正と協議をして指名したものは、この法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員として職務を行う。」

鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律 第76条

 現在、鳥獣保護・狩猟関係職員の司法警察職員指定はもっぱら同法により、かつての大正12年勅令第528号の条文は、いまだ生きてはいるものの利用される事はありません。

 さて彼らが検挙対象とする罪とは、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に違反する罪のこと、具体的には例えば違法な猟具を使った狩猟、無免許の狩猟(狩猟には免許が要ります!)、保護対象鳥獣の密猟、などなどです。普通こういう人って猟銃持ってることが多いから、もしものことを考えて警察が捕まえに行くような気がする、んですけど。でも調べてみると、この都道府県の担当職員の皆様が検挙しているケースというのもありました。全部併せても年平均2、3件に過ぎないそうなんですが、それでも確かにある。

 自治体が検挙する狩猟関係の犯罪、って一体どういうのかすごく気になったもんで、少し調べてみました。どうやら、小鳥の密猟を挙げる例が多いみたいですね。とりもちやかすみ網を違法に仕掛けたり、またそういった密猟道具で保護対象の小鳥(めじろ、とか…)を捕まえて違法に飼育したり。こういったものを挙げているようです。「どこそこの家から、保護対象になってるはずの鳥の鳴き声が聞こえて来る」という通報が入って、捜査端緒になる事が多いらしい。小鳥の愛好家は鳴き声を愛でるものなので、そうして聞いてるうちに足が出る、と。なるほど、鳴き声を聞き分けて手入れをするとは……渋いというか何というか……

 狩猟に関する罪・密猟、といった単語から私がイメージしたものとは少々離れたものではありますが(苦笑)、こういう感じで、少ないながらも地道に業績を挙げていらっしゃいます。

 
 
主要参考資料;
『鳥獣保護法の解説 改訂3版』 編;鳥獣保護管理研究会 刊;株式会社大成出版社 2001

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