婦人補導院法務教官

 

 鑑別所、児童自立支援施設、少年院と少年審判関連の施設が続きました。シリーズの最後は婦人補導院です。といっても、ここは少年審判とは関係ないんですけどね。

 なにそれ?と首をひねられる方も多いかと思われます婦人補導院、ここは婦人補導院法によって設立され、法務省矯正局の下にあって矯正管区に属する矯正機関……ではあるのですが。昭和60年度で施設数わずかに1、職員総数も19人しかおりません。もしかすると、今では法律の規定があるだけで事実上消滅しているかもしんない(苦笑)。本院も少年院と同じ矯正教育機関ですので、在院者の処遇に当たるのは法務教官です。ちなみに教官人数は12名になります。

 成人の女性が売春を行って摘発された場合、これは売春防止法違犯という立派な犯罪です。こういう場合、起訴されて有罪となれば懲役なり禁錮なりの実刑が下されるのが普通。ところで売春防止法違犯には一般の罰則の他に「補導」という処分も用意されています。裁判の結果がこの補導処分である場合、女性の行く先は刑務所ではなく婦人補導院になります。

 罰則の他にわざわざ補導処分が設けられている理由は、摘発された女性の「売春の習性を矯正し、完全な社会復帰を図るため」という事だそうです。売春の "習性" ってところがなんじゃそりゃですが、ともかくそういう事になっています。

 そういう訳で婦人補導院への収容は、刑罰ではありません。しかし、刑事裁判の結果下されるものですので、刑務所への収監と同じく検事が収容指揮書を発行し、それによって検察事務官、警察官、あるいは矯正職員(ここでは婦人補導院の職員)が収容執行するという形式を執ります。

 またこの施設も矯正教育機関であるにより、対象者は施設に強制的に収容され、そこで規則的な生活を送りつつ教育を受ける事になります。従って、収容を実効あらしめるために職員には幾つか強制権が与えられています。

 鑑別所や少年院では、強制権の中核として手錠の使用が挙げられていた訳ですが、婦人補導院の場合は「保護具の使用」となっています。すなわち、婦人補導院の職員は、在院者が暴行または自殺するおそれがある場合、院長の許可を得て保護具を使用する事ができます。少年院や鑑別所での手錠の使用と違い、単に「逃走のおそれ」があるだけでは使用できないようです。

 ところでこの保護具なるもの、法律を見ると「その形式は法務省令で定める」となっているので省令も見てみました。が、いわく言い難い形状で、どう使うのかもよく分かりません。材質は皮、要所に水色のフェルトを張り、一見ベルトのような感じですが…。保護具という事なので、身体の自由を拘束するのに使うんでしょうけど、具体的にはどう使うんでしょうね?

 また、在院者が逃亡した場合は、逃亡後48時間以内に限り職員に連れ戻しの権限があります。その期間中に連れ戻せなかった場合は、検察官から連戻収容状を発行してもらわなければなりません。補導処分は刑事裁判を経て課される処分ながらも刑罰ではない行政処分なので、連戻状の発布元も裁判官ではなく法務当局、すなわち検察官となっています。

 この他、婦人補導院の長は必要な援助を矯正職員、警察官その他の公務員に求める事ができます。またこの場合、警察官に上記連戻状を交付して逃亡者の収容を頼む事もできます。

 が。色々書いてきたものの、このごろは収容者も極端に少なくなり、施設自体も昭和60年の数字で1施設、その在り方には検討の余地があるようです。もちろん、売春そのものは決してなくなっておらず、売春の罪で検挙される成人女性というのもいます。それなのになぜ?といいますと、実は補導処分に付される女性というのは街角で自ら勧誘する「街娼型」(これはこれで凄い表現ですが)の売春行為を働いた女性だけで、 "買う" 人間の電話を受けてから "売り" に出向く「派遣型」は含まれないそうなのです。自分で勧誘するかどうかが要点となっているようですね。ここで、最近の売春のケースとしては「派遣型」が大半のため、検挙されても補導処分には付されず、よって売春はなくなってないながら婦人補導院に入る人間は減る一方……なんだそうです。

 この辺の融通のなさは法律の悪しき特徴とでも言いますか……。まあ何にしても職員の皆様、ご苦労様です。

 
 
主要参考資料;
『日本の矯正と保護 第2巻 少年編』 編;朝倉京一、佐藤司、佐藤晴夫、森下忠、八木国之 刊;有斐閣 1981
『現代行政法学全集20 矯正保護法』 著;吉永豊文、鈴木一久 刊;ぎょうせい 1986

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