森林管理局員

 

 伝統的には営林と称していましたが、今では森林管理と呼ばれているこの部署。農林水産省外局の林野庁を頂点に、地方支分部局として森林管理局7、分局7、森林管理事務所3、さらに森林管理局の下に森林管理署98、支署14、事務所34があります。事務所の一部には、現代風に森林センター/森林管理センターと呼ばれているところもあります。職員定員は6,659名(平成13年度末定員)になります。彼らの内、特別司法警察職員としての指定を受けた職員が、通常業務の傍ら犯罪捜査に携わっています。正式には「森林管理局署勤務の農林水産事務官及農林水産技官」の中で特に指名された者、となりまして、人数は(やや古いですが)平成6年現在で2,387名です。もっとも、今ではこれより減っているでしょう。

 彼らが捜査の対象とする犯罪は

「国有林野・部分林・公有林野官行造林、その林野の産物に関する罪又はその林野・国営猟区における狩猟に関する罪」

です。いずれも森の話ですから、お巡りさんが犯罪を関知しにくい場所、加えて捜査には土地勘や専門知識も要求されるとあって、特別司法警察職員の制が適用されています。専門用語では森林警察と呼びます。

 森林警察を管轄している部署は、林野庁では国有林野部の業務課、森林管理局では計画部の国有林管理課、という部署になるようです。局国有林野課の課長や森林管理署長・次席といった管理職が司法警察職員の指定を受ける他、現場で活動する森林官と呼ばれる職員も同じく指定を受けます。

 営林関係の公務員に司法警察権を与える制度は、かなり前から存在してます。さかのぼってみればなんと明治時代から。明治23年(1890年)に施行された旧々刑事訴訟法では、司法警察官として犯罪を捜査すべき官吏を指定していましたが、これに「林務官」という官吏が含まれていました。林務官とは、当時の農商務省が国有林管理のため各地方へ設置した林区署、そこに所属する営林関係職員の事です。これが、営林関係職員を司法警察職員として指定した最初の例です。

 明治時代制定の旧々刑事訴訟法は、大正13年(1924年)の旧刑事訴訟法施行に伴い廃止されますが、営林関係の職員を司法警察官吏に指定する制度は受け継がれました。すなわち、大正12年勅令第528号「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定ニ関スル件」の中で、当時の農林省営林職員が司法警察官吏としての指定を受けています。大正12年勅令第528号は、現行の刑事訴訟法にもとづき司法警察職員を指定した「司法警察職員等指定応急措置法」(昭和23年・1948年制定)においても準用されました。以来現代に至りまして、その歴史は100年を優に越えます。

 最初、いかなる理由で彼らに司法警察権が与えられたのか、事情は定かでありません。しかし、昔は狩猟も国内林業も今より盛んだったし燃料として薪炭が広く用いられていもしたので、森林がらみの犯罪が多発していたであろう事、容易に想像がつきます。件数的にもそうでしょうけど、生活がかかってるってとこが深刻ですねん。

 さて、では翻って現代の森林犯罪を見てみましょう。林野庁のまとめでは、森林管理局署員によって検挙される犯罪は、平均して年間およそ20〜30件だそうです。対象とする犯罪の括りは既に上で掲げましたが、もう少し具体的に細かくいうと、国有林野等で「森林法」あるいは「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」違反が発生すれば、森林管理当局にも管轄権が生じます。これ以外の犯罪は、殺人だろうが何だろうが、たとえ国有林野内で起こったとしても森林管理当局の管轄にはなりません。森林警察とは言うものの、国有林で起こった事件は何でも管轄するというものではない訳です。

 これらの犯罪は種類別に森林火災、森林窃盗、その他、と分類されているとの事でした。

 森林火災は放火と失火に分けられます。森林関連の犯罪の中では昔から厄介な存在でした。最近は自然指向・環境指向のなりゆきで一般人が森に入る事が多くなり、それに関連した森林火災も増えているようです。大体は、キャンプの火の消し忘れ&タバコの投げ捨てが原因という事ですが。エコロジーと言っといて森を焼いてどうする。おい。

 森林窃盗の方は、何であろうと森の産物を盗む事です。当たり前ですね。昔は立木の盗伐が大半だったようですが、最近ではマニアによる珍植物・岩石の盗取が増えているそうです。岩石窃盗だなんて、濃いマニアもいたもんだ(人の事言えないか?)。もしかして石ころマニアって、警察より森林管理署のお世話になる事の方が多かったりして!?

 最後、その他はその他です(爆)。国有林や国有の立木である事を示す標識を壊したり、森林管理当局の許可を得ないで開発行為を行ったり。また、近年増えている国有林野への廃棄物不法投棄も、ここに分類されます。ただし、廃棄物処理法違反としてではなく、森林法違反(不法に森林の形質を変更した罪)として処理している辺りが独特。

 こうした犯罪の具体的捜査方法ですが、警察のように科学的組織的な捜査方法が使えるところではないので、犯罪を認知したとしても管理局の手だけで検挙にまで結び付けるのはけっこー難しいようですね。放火や窃盗の跡を見つけても、足跡や手口などの証拠から突き上げ捜査するだけのノウハウは持ち合わせてないし、濃いマニアや前科者のリストなんかも持っていません。

 という訳で。これは聞いた話ですが、警察や検察の人手を借りず局の手勢だけで検挙を行う場合、とにもかくにも現場を押える事が第一に求められるようです。といっても、現行犯逮捕するという事ではありません。森林管理局署員だけでは、逮捕に際しての的確な法律判断などができないため手出ししづらいのと、遺留品だけから容疑者を割出すだけの技術がない、という事です。現場を押さえたら、とにかく任意で事情聴取をして現場検証をして、集めた証拠を持って検事と相談し、立件できそうなら書類送検する、というのが一般的な処理の運びになるみたい。司法警察上の事務はあまり得手ではない模様です。そういえば、そもそも森林管理局署には逮捕者を放りこんでおく留置場がない。

 現場を押さえて検挙する、となると、国有林の現場・現地を熟知している事が何より重要になります。先に、現場担当の森林官が司法警察職員指定を受けている、と書きましたが、彼らは出先の事務所や森林センターに居て実際に林野に分け入り巡視や作業等を行う人々です。現場を知る彼らの腕前が、ここで生かされる。

 具体的には、例えば窃盗が頻発すると、次に狙われそうな珍岩奇岩・希少植物などを目星付けて巡回する。放火や不法投棄が頻発すると、次に事件が起きそうな場所(不法投棄なら車が入れてしかも目立ちにくい薮やくぼ地、放火なら枯れ木・倒木など燃えやすいものがあるところ、などなど)を目星付けて巡回する。そこで現場を押えて検挙する。警察でいうところの邀撃捜査。森に関する知識がいかされている訳で、なるほどこれは「警察が持っていない専門知識の駆使」という、特別司法警察職員制度の精神にのっとったものと言えましょう。

 もっとも、実際は人手の問題があり、そうそう頻繁に巡回できるものでもありません。そこで、例えば九州森林管理局では、平成12年(2000年)4月から熊本のNPOに委託して森林監視業務を一部負担してもらっています。彼らが巡回を通して森林犯罪の現場や痕跡を見つけたら、無線機で管理局署に通報し、それを受けて局が捜査・摘発に乗り出します。

 こうして見ると、容疑者を特定した上で裁判所に捜索差押令状と逮捕状を請求し、通常逮捕執行、事情聴取、証拠品を押収、一件書類と証拠に身柄付けて送検、なんて王道はあまり踏めそうにないですね。まあ、犯罪捜査専門の機関ではないので、これは仕方ありません。

 

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