保険料・共済掛金等徴収担当法人職員

 

 社会保険の仕組みというやつは結構複雑なもので、保険者が政府であったり市町村であったり、あるいは組合であったり。被保険者の範囲もそれぞれの保険でばらばら。保険料の負担者も、被保険者がまとめて負担するものもあるかと思えば事業主と折半するものもあり。かてて加えて、各種の交付金の元手とする拠出金がどうだの、国庫負担がどうだのと……。これがために官庁一つ作っちゃう(厚生労働省外局社会保険庁)のも、まあうなずける話です。

 さてこれまで、社会保険(と労働保険)について保険料等の強制徴収権を持っている機関について触れて来ました。社保庁に市町村に都道府県。労働保険なら都道府県労働局。これらの機関は、いずれも行政機関です。

 ところで、社会保険関係では、行政機関とは別に特殊な法人を設立し、そこに保険関係の業務を一部担わせている例も多々あります。これらの法人は、法律に基づき設立されている特殊法人あるいは認可法人であり、行政機関ではありませんが、一種独自の地位と権限を有しています。その独自性の一つが、社会保険・労働保険に携わる行政機関と同じく保険料等の強制徴収権を有している、というところ。

地方職員共済組合

…地方公務員等共済組合法に基づき設置されている法人で、地方公務員向け公的年金・医療保険の保険者である。

 地方公務員等共済組合法では、各種の共済組合を法人として設立する。共済の対象となる公務員の種類によって組合を監督する官庁も異なり、地方職員共済組合・都職員共済組合等、市町村職員共済組合及び指定都市職員共済組合並びに連合会については総務省。公立学校共済組合については文部科学省。警察共済組合については内閣府が管轄する。各共済組合は、組合員に対し、長期給付の一環として共済年金を支給し、また短期給付の一環として保健給付を行い、それぞれ公的年金・医療保健に該当する。共済費用は組合員と地方公共団体の共同負担。

 共済掛金等の延滞・強制徴収に関する規定は基本的に存在しない。唯一例外となるのが、団体職員の取り扱い。地方自治法上の公益的法人、水害予防組合、地方住宅供給公社、道路公社、土地開発公社、一般地方独立行政法人などなどの団体の職員は、団体職員と称され、地方職員共済組合の組合員扱いとなりその保険料は組合員と団体の共同負担。具体的には、組合員の掛金と団体の負担金を併せて、団体が組合に納付する義務を負う。

 地方団体が地方職員共済組合への納付義務を怠った場合、組合は当該団体に対し期限を切って督促。期限は督促状の発布日から10日以上を経過した日を指定する。期限を過ぎてもなお納付されない場合、組合は、総務大臣の認可を受けて国税滞納処分の例によってこれを処分するか、又は団体の住所若しくはその財産のある市町村(特別区含む)に対して処分を請求する。(地方公務員等共済組合法144条13、144条14)

日本私立学校振興・共済事業団

…日本私立学校振興・共済事業団法によって設立された文部科学省所管の特殊法人。事業団の活動の一つに、私立学校教職員向け共済事業がある。

 事業団の共済事業は私立学校教職員共済法に基づいて実施されており、長期給付の一環として共済年金を支給し、また短期給付の一環として保健給付を行い、それぞれ公的年金・医療保健に該当する。共済費用は加入者たる教職員及び加入者を使用する学校法人等が折半。具体的には、加入者の負担すべき掛金と学校法人等自らが負担すべき掛金を併せて、学校法人等が事業団に納付する義務を負う。

 掛金を滞納する学校法人等があるときは、事業団が期限を切って督促(※掛金の繰り上げ徴収に該当する場合を除く)。期限は督促状の発布日から10日以上を経過した日を指定する。納付義務を負う学校法人等が督促に応じない場合、あるいは掛金の繰り上げ徴収の告知を受けて指定期限までに納付に応じない場合、事業団は、文部科学大臣の認可を受けて国税滞納処分の例によってこれを処分するか、又は滞納のある学校法人等若しくはその財産のある市町村(※特別区を含み、地方自治法上の指定都市にあっては区)に対して処分を請求する。(私立学校教職員共済法30条、31条)

健康保険組合

…健康保険法に基づき設けられる法人で、国と並んで健康保険の保険者である。健康保険の内容については割愛。

 保険料その他徴収金(例.延滞金、返還すべき不正利得etc)を滞納する者があるときは、組合も強制徴収の権限を持ち、まず期限を切って督促(※保険料の繰り上げ徴収に該当する場合を除く)。期限は、督促状発布から10日以上経過した日を指定する。督促に応じない場合、組合は、厚生労働大臣の認可を得た上で国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は納付義務者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村(※特別区を含み、地方自治法にいう指定都市にあっては区)に対して処分の請求を行う。(健康保険法180条)

国民健康保険組合

…国民健康保険法に基づき設けられる法人で、市町村・特別区と並んで国民健康保険の保険者である。国民健康保険の内容については割愛。

 保険料その他徴収金(例.延滞金、返還すべき不正利得etc)を滞納する者があるときは、組合も強制徴収の権限があり、まず期限を切って督促(※保険料の繰り上げ徴収に該当する場合を除く)。期限は、督促状発布から10日以上経過した日を指定する。督促に応じない場合、組合は、都道府県知事の認可を得た上で国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は納付義務者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村(※特別区を含み、地方自治法にいう指定都市にあっては区)に対して処分の請求を行う。 (国民健康保険法79条、80条)

 "××の認可を得た上で、国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は処分を請求する。" ××の中に入るのは監督官庁の大臣であったり、都道府県知事であったり。認可という手続が間に入るだけで、後は行政機関による強制徴収と同じ。いささかありきたりな内容……ではあるのですけれども、しかし、通常の民間機関であれば裁判所を通して民事上の強制執行手続を経るところ、自力執行が認められている点は異色です。しかも、「許可」ではなく「認可」であるため、知事・大臣の裁量は効きません。組合や事業団が滞納者相手にきちんと督促をした上で、所定の手順を踏んで願出を出せば、不備がない限り認められます。

 認可法人・特殊法人とはいえ民間組織には違いなし。そういうところが、不備ない限り所定の願出一つで自力執行=自前での取り立てO.K.とは、なかなか凄い。これもひとえに社会保険の公的性格に鑑みての事なのでしょうか。なお、この権限規定を利用して法人による強制徴収が行われた例があるのかどうかは、調べてないので不明です。

 あと、これは余談。強制徴収は、納付義務者による滞納があった際になされるものなのですけれども、ここでよくよく見てみると、強制徴収権の発動対象はいずれも民間(あるいはそれに準ずる)団体ばかりになっています。私学共済は私立の学校・学校法人、健保は事業主、国保なら個人。地公共済が相手にする「地方団体」にしても、公社や一般地方独立行政法人などですから、行政寄りとはいえ要は民間の団体です。自治体や官庁に対する強制徴収権というのは存在しません。これは、行政機関が強制徴収権を持っている場合でも同様です。さらに、ここでは取り上げなかった国家公務員共済の場合、保険料の納入義務者が各官庁であるためか、延滞や強制徴収に関する規定自体がそもそも法律に存在しない。

 いやしくも自治体や中央官庁が保険料の延滞などするはずがない、そんな事は考えるまでもない……という事らしい。(笑)

 

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