衛視

 

 衆議院及び参議院、つまり国会には、国権の最高機関にして唯一の立法機関であるという事で、国政審議の自由を確保する見地から実力をもって院内の秩序を維持する権利が認められています。それが議院警察権。具体的には、両院の議長にその権限があり、事務局にいる衛視を指揮して院内秩序の維持に当たる訳です。

 重要法案の審議で反対派議員が廊下にピケ張っちゃったりした時、あるいは法案採決で反対派議員が司会者の議員を監禁しちゃったりした時、それを排除しようと灰色や紺色系の制服を着たガードマンみたいな人々がわらわら出て来ますけど、あれが衛視です。

 衆参両院の事務局には、警務部という部局がありまして、衛視はここに属しています。単なる国会職員ではなく、国会職員2種の中に衛視職という枠があり、これでもって採用されます。事務屋さんのように他の部門に異動したりはしない、ちょっと特殊な人達です。衛視は、平成12年現在で衆議院に277名、参議院に206名が在籍しています。いわゆる階級はありませんが、職務上の位分け(職階、というんでしょうか)は、衛視長を筆頭に、以下衛視副長--衛視班長--衛視と続きます。課長・係長といった呼称になっていない辺りがそれっぽい。

 衛視の仕事は議事堂内の秩序維持、という事で、彼らは警備員よろしく常日頃院内を巡回したり、張り番したりしているんですが、この他、何かしらの理由により院内の秩序が荒れた時、議長の特別命令により「衛視出動」します。

 「衛視出動」が年間どのくらいかかっているのか、詳しい事は定かでないのですが…しかるに最近の事例を挙げてみれば、平成9年4月の駐留軍用地特別措置法改正時における参院本会議での出来事が代表となりますでしょうか。この時、一部傍聴人が法案反対を叫んで議事進行が妨害されたという事で、議長命令で衛視隊が出動し実力で排除拘束、となりました。当時の写真なんか見てみると、なかなか迫力あり。

 この他、平成11年8月の通信傍受法案審議・採決時における参院法務委員会での出来事とか。同じく平成11年11月の年金改革法案審議・採決時における衆院厚生委員会での出来事とか。この時も結構荒れ荒れで、衛視が大勢出て来ていましたけれども。これも議長命令による衛視出動なんでしょうか、どうでしょう。

 さてこの衛視、仕事はあくまで院内秩序の維持が任務で、捜査機関ではありません。だから犯罪者を逮捕したり犯罪を捜査したり、という事は出来ません。それは衛視でなくて警察官の仕事です。議事堂内で何か犯罪があったって、衛視に出来るのは現行犯人を一時拘束して議長に報告する事だけです。衛視の本来の仕事とは、法案審議を邪魔だてする者あらば命令一下体を張って「排除する」事なのですから。こうして見ると、服装もそうですが、仕事の内容もまさしくガードマンですね。

 余談ながら、国会議員は憲法で不逮捕特権が与えられています。という訳で、反対派議員が議事堂の廊下でスクラム組んで議員の入場阻止・実力で審議させないとか、同じく反対派議員が委員長席に詰め寄り監禁状態にして採決させないとかいう事をしても、実は罪に問われないんですねぇ。だから、TVなんかでよく見掛ける議員と衛視隊の激突は、さんざんぱらもみあいしても後腐れないのでした。うん、これってもしかするとストレス解消 "ガス抜き" に丁度いいかも。(^^;

 ただし。これは国会議員だからの話であって、一般人がこれやると衛視に取り押さえられた上威力業務妨害罪の現行犯で警視庁に突き出されます。おやりになる方は、お覚悟を…

 

Special Thanks to:よっし〜さん


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