正規の輸入と思いきや…

 

 "お手軽密輸" の話に続いては、計画的密輸の調査に関する話です。

 その計画的密輸の話に入る前に、少し、正規の外国貿易に関する話をしましょう。税関の視点から見た場合、外国貿易とは、税関が管理するところの「通関線」を品物が行き来する活動であります。税関は、貨物往来の中間に「保税区間」を設け、貨物をチェックします。保税区域での検査により、麻薬や銃といった品が無許可で往来するのを防ぎ、また許可を受けた品に関税をかけて税収を得ます。この検査と手続きをパスして始めて、貨物は通関線を越える事が許され、国内/国外に送り出されるのです。

 先に「監視と巡回」の項で挙げた例は、船員が何くわぬ顔して手荷物に禁制品を隠し持ち込みを図る、というものでした。似たような例だと、海外旅行者が手荷物に隠して、というのもありますね。こうした海員や旅客の手荷物は、貿易貨物ではないため、保税区域での通関検査の対象にはなりません。その代わり、密輸の摘発を主眼とした監視部による検査が行なわれるのです。

 正規の輸出入貨物の中に密輸品を隠し、あるいは梱包材の中に隠し、もしくは書類を偽造し、そうしてあたかも合法的に貿易をしているように見せかけて、その実密輸をやる。こうした密輸は、保税区域での貿易貨物検査でもって摘発します。この検査業務を担当しているのは、監視部門ではなく通関部門です。従って、この手の貿易偽装密輸を暴くのは、通関部門の仕事になります。

 貿易貨物は、税関が保税区域に指定した「保税倉庫」と呼ばれる場所に運び込まれ、そこで検査を受けます。運び込まれる段階で、普通は既にきれいに梱包してあります。貿易の隆盛に伴い保税倉庫に持ち込まれる貨物の量は驚異的に膨大で、一つ一つ細かく念入りに調べる時間など到底ありません。貨物すべてを開封して検査するなど論外。大体は、添付された通関書類をチェックした後にX線検査装置でもって透視するというくらい。特別怪しい荷物のみを選び出して厳密な検査にかけます。

 従って、保税検査で密輸を摘発するには、まず、不審な貨物をどのようにして見付け出すか?というのが大きな問題になります。

 その具体的な方法ですけれども。事前に情報が入っていた場合は例外として、大抵は、検査担当者の眼力(!)に頼る事になります。稀に、通常のX線検査でばれちゃうださい事案もあるようですが、大概は極めて巧妙に隠してあるもの。

 いかなる貨物に対し、検査官がいかなる観点から観察し、どこに不審な点を見付け出して精密な検査に回し、結果いかにして密輸が発覚したか。これについての具体的な話は、もう、一言では書けません。事例を軽く集めただけでも本一冊分くらいにはなるんじゃないでしょうか? 梱包が妙だとか手触りが変だとか重量がおかしいとか、そういうところにぴんと来て要検査と判断しているのですけれども。これは商品や貨物に関する正確で広範な知識があって初めてできる技ですから……いやはや。本編の参考資料のところで、財務省の広報紙を挙げていますが、そこに載っている話を斜め読みしただけでも本当に凄いものだと感心してしまいます。

 検査担当者が要検査と判断すれば、その貨物は通関部門の検査専担班に回されます。同班で貨物を開梱し、内も外も徹底して調べ上げるのです。梱包材の中に密輸品が隠されている事もあるので、そちらもおろそかにしません。コンテナ貨物であれば、中身はもちろんコンテナ自体も厳重に調べ上げます。

 かくして検査の上、密輸が発覚すれば、事案は通関部門から監視部門に移ります。監視部審理担当部署が事件を引き継ぎ、関係者の検挙を目的としてさらなる調査を展開する事になります。

 

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