監視と巡回

 

 立入検査の話に続いては、飛行場や海港等の現場における密輸監視の話です。監視部といえば、やれ麻薬探知犬だX線センサーだと珍奇な装備がもてはやされるセクションではありますが、監視業務の基本はやはりコレ。海港内や空港内くまなく目を光らせ不審者のピックアップに務めるというものです。特に海港においては、かなり重要な監視方法であるとか。

 というのも、昔からよくある禁制品持ち込みの方法としてこういうのがあるんです。すなわち、外国船の船員が手荷物中に禁制品を隠し持ち、入港時に休養目的で一時下船、港やその周辺で適当に売っ払う……というもの。「御手軽密輸」とでも呼びましょうか。

 もちろん、船員の手荷物も、船の入港時に税関は検査をします。しかし、例えば船内の別の場所に隠しておいて、下船する時に手荷物中へ紛れ込ませる、などという手段を取られたりするとなかなか見付かりません。最初の検査で摘発できないと、後は、裁判所から許可状取って船内捜索するのでなければ、取引現場を押さえるしかなくなってしまいます。が、何分行き当たりばったりな "密輸" なので、誰が誰といつどこで取引するのかなんて分かる訳がなく、結局こまめに巡回して目を光らせておくのが一番適当な取締手段という事に。

 手荷物は、貿易貨物として正式に税関を通るような性質のものではないですから、麻薬犬がいようがセンサーがあろうが関係なし。誠に厄介なケースです。買い手とあらかじめ話を付けて計画的に持ち込んでいたとしても、そういう情報がない限りは事前に目星の付けようがありません。前科者を見張るのは当然ですが、それ以外は地道にやるしかない。

 巡回でもってこうした密輸を摘発する訳ですが、この他にも港には税関の監視所があって、港内各所を定点監視しています。以前は監視業務といえばこの監視所からの監視が中心で、それも港全体を監視していました。言わば高所からばっさり網をかけるように、港の隅々にまで目を行き届かせようとしていた訳です。相手はいつどこで起こるか分からない「行き当たりばったり密輸」ですから、なるほどこれは一つの手であります。

 しかるに国際交流の推進に伴い入国する船舶・航空機は激増し、今やこうした態勢では到底さばききれなくなってしまいました。広い港には人と荷物があふれ、その全てを監視する事は不可能です。そこで現在では、監視所を拠点とした固定的な監視を行う一方自動車と取締艇を用いた機動的取締りに力を注いでいる、という事です。こう言うと聞こえはいいですが、要するに隅々まで目配りできないからどうにか取締り対象に絞り込みをかけよう、という事ですね。

 最近はビデオカメラという誠に便利な監視機器ができたお蔭で、定点監視については以前ほど手間はかからなくなったようです。巡回班はここと連絡を取り合い、不審人物や車両の発見に務めます。港の隅々まで目が行き届かせるのではなく、効率よい巡回でこちらから不審人物・車両を探し出す、能動的な取り締まりに「打って出た」という訳です。

 ちなみに、船や航空機への立ち入り検査については既に触れましたが、この検査で何も出なかった時。その時もこの「監視と巡回」の出番で、特に怪しい船については、仮に検査で何も見付からなかった場合であっても、乗組員の動向等について継続監視を行います。

 こうした巡回や監視で密輸が発覚した場合の処置については、前項や本文でも書いた通りです。税関には容疑者の身柄をうんぬんする権限はありませので、そこは現行犯でひとまず取り押さえておき、警察か海保を呼んで身柄を引き渡すことになります。この後は監視部門から審理部門に事務引き継ぎがなされ、容疑者や参考人を事情聴取、許可状取って関係先の捜索と証拠押収、容疑を固めて検察に告発。ちなみに、空港なんかでの旅客手荷物検査で禁制品が見付かっちゃった時の対応も同様です。

 昔は、この「御手軽密輸」で持ち込まれるのは主に外国産タバコやマリファナと、まぁかわいかったんですが。しかしそのうちヘロインのような強力な麻薬、覚醒剤、果てはソ連崩壊でだぶついた軍用拳銃まで持ち込まれるとあっては、かわいいどころではありません。質の凶悪化ついでに、件数も増加傾向にあるようです。迷惑千万。税関さんには、ここらで一丁底力を見せてもいましょう。

 

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