児童自立支援施設職員

 

 お題の施設とその職員、これは何ぞや。一口で説明するならば、

「児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者についてその相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。」

児童福祉法 第44条

 児童福祉法によって設置された児童福祉施設である、とはいうものの、不良少年の収容施設という側面もあったりする、なかなか微妙な性格の施設です。昔の「教護院」だといえば、分かる人は分かるでしょうか。

 先の鑑別所の項で、少年教護法および少年教護院の名を出しましたが、少年教護院とは戦前、14歳未満の非行少年を収容した施設であり、今の児童自立支援施設の前身に当たります。施設の歴史を簡単にひもとくと、明治10年代の後半に民間篤志家が始めた感化事業に端を発し、明治33年の感化法に基づく感化院へ、そこから少年教護法に基づく少年教護院へと受け継がれました。戦後に児童福祉法が制定されると同法にもとづく教護院となり、これが近年の法改正で児童自立支援施設と改まって現在に至ります。

 同施設が具体的にどういった時使われるかを規定しているのは、児童福祉法第二章第四節、「福祉の保障」章中の「要保護児童の保護措置等」の節になります。まず、要保護児童(※ここでいう児童とは、満十八歳未満の少年をいう)を発見した者は、福祉事務所ないし児童相談所へ通告しなければなりません。ここで、福祉関係という事で福祉事務所と児童相談所の両方が出ていますが、実務上、通告はすべて児童相談所へ行きます。通告を受けた児相は所用の調査を行い、対象の児童につき児童自立支援施設への入所が適当となれば、その旨都道府県へ報告します。児相の報告を受けた都道府県は、当人を児童自立支援施設へ入所させます。

 基本は上記の通りで、児童相談所の判断ですべて事が運ぶようにできています。が、先に不良行為云々とも書いた通り、児童福祉法のみならず少年法もからんで来る余地があり、なかなか複雑です。施設について理解するには、少年事件・少年審判についても知っておかなくてはなりません。

 前項にても書いた通り、触法少年やぐ犯少年等は少年法により「保護事件」の扱いを受け、少年審判に付される訳なんですが、この審判の結果出される保護処分は、具体的には3種類あります。

  1. 保護観察所の保護観察に付すること
  2. 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること
  3. 少年院に送致すること

上記のいずれか。ここで、送致保護処分決定が下り送致先が児童自立支援施設となれば、決定は都道府県に伝えられ、都道府県が当の児童を施設に入所させる措置を取る訳です。

 あと例外として、保護事件の少年につき、少年法ではなく児童福祉法にもとづく措置を適当として、家裁の判断で少年審判を経ずに児童相談所へ少年を送致する時がありますが、この時も場合によっては児童自立支援施設に送られる事になります。具体的には、家裁から送致を受けた児童について、児童相談所が施設入所を適当と判断した場合、児相はその旨都道府県へ報告、報告を受け都道府県は児童を施設へ入所させる、という流れになります。

 少年院に入る少年は少年院法にもとづき「十四歳以上」となっていますから、14歳未満の少年が審判の結果送致保護処分と決まれば、必然的に児童自立支援施設に入所となります。14歳以上については、少年院・児童自立支援施設いずれか一方への送致となりますが、どういう場合にどちらが選ばれるのかについてはよく分かりません。少なくとも、14歳以上だから即少年院送致とは限らないそうです。なお18歳以上になると、今度は児童自立支援施設の入所資格がなくなりますので、送致といえば少年院送致になります。

 以上、内容を改めてまとめると、要保護児童につき児童相談所が把握し入所の必要を報告した場合、あるいは少年審判を経て児童自立支援施設送致の保護処分が決定された場合、もしくは少年審判を経ず家裁から児童相談所宛に児童福祉法上の措置を適当として児童の送致があり、児相にて施設入所の必要を報告した場合、これらの場合に、都道府県が児童の児童自立支援施設への入所措置を取る。

 さて、前座の施設の性格やどういった時に用いられるのかといった説明がだらだらと続いてしまいましたが……。児童福祉法でもって施設設置をうたっている事からも分かる通り、端的に言えば、ここは福祉施設/教育施設です。政府内で管轄しているのも、法務省ではなく厚生労働省です。少年審判を経た不良少年が入るだけでなく、児童相談所の判断で要保護児童を収容するための施設とも位置付けられており、刑務所や少年院とはかなり趣が違う。その違いさ加減がはっきりと出ているのが、入所者に対する強制力の行使に関する面です。

 治安ヲタとしては、どのくらいの装備でもってどういった強制力を行使できるのか、というところにわくわく心踊らせてしまう(爆)のですが、児童自立支援施設の場合、はっきり言って強制力はないに等しい。児童自立支援施設における強制力行使権について規定しているのは児童福祉法なのですが、その内容、実にそっけない。

「都道府県知事は、たまたま児童の行動の自由を制限し、又はその自由を奪うような強制的措置を必要とするときは、第三十三条及び第四十七条の規定により認められる場合を除き、事件を家庭裁判所に送致しなければならない。」

児童福祉法 第27条の3

「児童福祉施設の長は、入所中の児童で親権を行う者又は未成年後見人のないものに対し、親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行う。ただし、民法第七百九十九条の規定による縁組の承諾をするには、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。
2 児童福祉施設の長又は里親は、入所中又は受託中の児童で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。」

児童福祉法 第47条

 27条の3で47条と並び例外事項として挙げられた33条は、児童相談所関係の条文なのでここでは省きました。さて。改めて上記条文を見てみると、児童自立支援施設も含まれるところの児童福祉施設、そこが行使できるのは「親権」あるいは「監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置」である。それ以上の、児童の行動の自由を制限するないし奪うような強制的措置が必要な場合、「都道府県知事は(中略)事件を家庭裁判所に送致しなければならない」。

 これは要するに、普段、人の親が子供相手に行使できるような手段以上の事はできない、という事です。どうしても必要とあらば、家裁の判断をあおぐ事になっていますが、具体的にどのような手段が認められるかについて、はっきりした記述はありません。実務上は、現在のところ部屋に鍵をつけて児童の無断外出を防止する措置が認められているとの事です。

 まあ……何と言いますか、随分とおとなしいものです。正直言って拍子抜けした部分もないではない(苦笑)ですが、これも、当施設の性格ゆえなのでしょう。ちなみに、入所児童が児童自立支援施設から「脱走」した場合、法定の罰則はありません。職員の連れ戻し権についても、法に規定はありません。一応、47条で所要の措置を取る事は認められていますから、家出した我が子を探すのと同じくあちこち探し回ったり、帰った我が子を叱るのと同じく叱責したりする事くらいはできますけれども。さらに言うなら、そもそも矯正施設とは立ち位置を異にする機関・施設である事から、脱走という概念自体がなく、無許可の「外出」として把握されるそうです。うぅむ、さすが福祉施設。

 現在(平成17年7月現在)、児童自立支援施設は全国に57施設が存在し、職員は総数およそ1,900名になります。施設の大半は都道府県が設置しており(53施設。他に私営施設2、また国営施設2)、「小舎制」と呼ばれる小人数収容施設が中心です。一戸建ての小舎に職員夫婦が入居、あるいは交替で勤務し、数人からの入所児童と共に、あたかも家庭内で子供を育てるような形で監護・教育に当たっている事が多いとか。一見前近代的なスタイルにも見えるんですが、しかし要保護児童や非行で入って来る児童の場合、それまでの家庭環境に問題がある事が多く、温かい家庭的雰囲気を醸成しその中で監護・教育を行うのは大いに意味がある……と聞きました。なるほど。

 こうした地方の小舎制の施設では、47条でもって行使できる以上の「強制力」はまず行使されません。27条の3に基づき家裁の判断を仰いで強制力を行使する児童自立支援施設は、実務上、国立の2施設のみに限られています。1つは国立武蔵野学院。大正時代の「国立感化院令」によって設立された武蔵野学院を源とする来歴ある施設で、主に男子児童が入所します。もう1つは昭和38年設立の国立きぬ川学院で、こちらは女子入所施設です。いずれも、管轄しているのは厚生労働省。

 国立施設の特徴は、大舎制を取っている事です。すなわち、全寮制の学校と似たスタイルで、大規模な施設に大人数の児童を収容し、多数の専門職員でもって監護・教育に当たります。これらの施設には鍵付きの個室も設けられ、児童の行動・外出を制限する必要があるとなれば、家裁の許可を得た上でこれらの部屋に収容する訳です。専門職員の集まった数少ない国立施設、強制力行使も視野に入れている、とあって、ここに入所するのは地方で手に負えない特異な児童です。例えば平成15年に起きた男子中学生による幼児殺害事件や、平成16年に起きた女子小学生による同級生殺害事件では、当該児童がこれらの施設に収容されました。

 本来は福祉施設という訳で、「治安機関」を扱う本コーナーで取り上げるのは著しく場違いという気もするのですが……とりあえず。

 
 
主要参考資料;
『厚生省五十年史(記述編)』 編;厚生省五十年史編集委員会 刊;財団法人厚生問題研究会 1988

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