地方税事務担当自治体職員

 

 先に挙げたマルサは、国税庁の職員でした。よって取扱うのは国税の脱税事件のみでして、地方税の脱税事件は取扱いません。地方税の脱税事件は、それを取扱う部署が別にあるんです。

 国税を徴収するのは国税庁、よって国税の脱税は国税庁が所管する。では地方税を徴収するのはどこでしょう? 答、地方自治体。という事で、地方税の脱税は地方自治体が所管です。

 地方税についての総則的規定である地方税法には、脱税取締りについて独自の規定は特に設けてありません。そうではなくて、取締りに当たっては国税犯則取締法の規定を準用することになっています。つまり結果的には、国税であろうが地方税であろうが脱税した場合は同じように取り締まられる訳なんですね。内偵を経て令状取って強制調査、証拠を固めて刑事告発や通告処分、と同じ道をたどります。

 しかし。ここまでは一般論。紙の上でだけの話です。これで地方税の分野における脱税をガンガン摘発できるかというと、現実はそうそう甘くはないようです。このように取り敢えず脱税を取り締まる法律はできてはいるんですが、地方自治体にマルサのような脱税取締専門官が置かれている……という話はついぞききません。おそらくは予算の都合上そうなんでしょう。

 脱税摘発は容疑者との知恵比べみたいなもんですから、専業でないと摘発は難しい。日頃から脱税についての情報を集め、犯行情報が得られれば内偵を進め、容疑濃厚となれば強制調査。その場合も、着手寸前までバレちゃいけない。

 しかるに自治体では、そもそも税務専門の職員さんからして少ないため、脱税摘発専門の職員を置く程の余裕はありません。又国税庁のように摘発のノウハウもありません。専門ではない、一般職員さんが多数を占めている関係上人事異動による人の出入りが多く、経験の蓄積が難しいようですね。自治体の検税職員が強制調査で脱税を摘発!という話はほとんど聞いた事がありませんが、その裏にはこういう事情があるんでしょう。きっと。

 私が知っている地方税の脱税摘発の実例と言えば、98年10月に東京都、00年7月に東京都と鳥取県、同じく00年11月に東京都と鳥取県と沖縄県が摘発した軽油引取税不納入事件だけです。新聞記事によると、いずれの事件についても、軽油の輸入通関時に課される軽油引取税の納入を逃れようとし、ダミー会社を設立しそこに納入義務を負わせる等の手口で税金逃れを図ったというものです。

 98年の事件では都が警視庁と合同で脱税業者を強制調査しました。00年の事件では、東京都・鳥取県・沖縄県がそれぞれ独自に軽油引取税不納入の疑いで業者を強制調査しました。調査に際しては、県内のみならず県外にも検税吏員を派遣し関連業者を強制調査させるなど、なかなか本格的です。都道府県庁、中でも都となるとさすがに職員も多いですから、本気になればこういう査察官ばりの真似ができるようですね。大したものです。しかし、他の道府県ではどうなんでしょう。さらには市町村レベルになると…? 事はそう簡単ではないという気が。

 とまれ、脱税を摘発する事は確実な税収に繋がり、確実な税収は健全な財政に繋がります。このところ地方分権が叫ばれておりますが、その実現のためにも、地方財政の健全化に繋がる脱税摘発は重要でしょう。一刻も早い改善が待たれるところです。

 
主要参考資料;
『現代地方自治全集18 地方税−総論−』 著;浅野大三郎 刊;ぎょうせい 1977

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