船長等

 

 船長、ほんとは船長である事の他にいろいろ条件が付くんですけど、面倒ですので一切省きます。船長さんには、自船内にて、特別司法警察職員として犯罪を捜査する権限が与えられています。又船長さんでなくとも「甲板部、機関部又は事務部の海員中職掌の上位にある者」にも、捜査権があります。もっとも、船長が司法警察員指定を受けるのに対し「〜部の海員中職掌の上位にある者」は司法巡査指定であり、権限に差はある……のですが、細かい事はおいときましょう。以下、「船長等」と総称します。

 犯罪捜査の権限と聞くと、なにか公のものという印象を受けますし、事実そうなのですが、今回の場合は少し毛色が違います。捜査権を与えられる対象は、何も公船の乗組員とは限らず、民間船であってもそうです。船長等であれば民間人であっても捜査権が与えられちゃう。それというのも、海上ぽつんと浮かぶ船の上ではよそからの助けなぞ簡単には得られず、全部自前でこなさなくてはならない、そういう船においては船長は絶対的存在!とする慣習が昔からあり、これはそれを受け継いだ規定なのだそうです。ふむぅ。

 最初にこの規定が現われた法文は、大正時代に制定された勅令「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定ニ関スル件」(大正12年勅令第528号)。この第七条にて規定されました。この条文は、後に第六条へと繰り上げられ、また戦後に復員船に関する規定追加や文中の用語を一部改める改正がなされた他は、大した変化もなく今まで受け継がれています。

 さて。この民間人にも与えられている船長等の犯罪捜査権ですが、実際のところ有効に活用されているとは言い難い状況にあるようです。それというのも船長には犯罪捜査権の他に、船内での非行について懲罰を下す権利「懲戒権」が船員法によって与えられております。船の中で何かもめ事が起こっても、大方はこの懲戒権に基づく懲罰でケリが付いてしまうらしい。

 で、懲戒権では済まないような大事(殺人とか)になると、今度は船長一人の手には負えん!というような事になりがちです。犯罪捜査できる事にはなってるんだけど、実際のところお手挙げだから海保なり外国のCoast Guardなりを呼んで後はよろしく頼んじゃう、と。

 そういう訳で、船長等は船の中ではお巡りさんと同じく犯罪を捜査できるんだよ、といっても実際はさほどの意味はないみたい。勿体ないかな? でもまあ、元々がずぶの素人さんですからねぇ……

 余談ですが、この犯罪捜査権、場所を船内に限るのであればどんな犯罪であっても捜査できます。船内での犯罪はもちろん、犯罪者が船内に逃げ込んで来た時は、その犯罪者を取り調べ、捜査する事ができます。船の中では、船長は絶対なのです。という訳で、船客の中に紛れ込んだ殺人犯を、船長等が捜査権を駆使して追い詰める……なんてー話も、理屈上ないではない。だからたまーに2時間ドラマでやってる船ものの推理ドラマ、あれってあながち大ウソぶっこいてる訳でもないんです。

 でもなぁ……。実際に、探偵のまね事に終わらず司法警察職員として証拠集めて、事情聴取して調書取って、でもって裁判官に逮捕状請求して執行or緊急逮捕して送検するまできちんとこなした人なんて、ほんとにいるのかなあ?(笑)

 

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