いざ有事!

 

 ずばり、題名そのまんま(苦笑)。いざ有事、日本が直接攻撃にさらされている、そんな時海保はどうする!? そういうお話です。

 例えば消防なら、後方地域で敵の攻撃による被害を局限させるための消防・救助・救急・避難誘導活動などを行う事でしょう。警察なら、消防に協力し、同時に頻発すると思われる火事場泥棒やスパイ行為の取締なんかにも力が入りますかね。で、前線で実際に武器持てどんぱちするのは自衛隊の仕事です。ではここで、海保はどんな感じの活動をするんでしょう。

 自衛隊が防衛出動した際、あるいは総理大臣の命令により治安出動した際、海上保安庁の全部または一部が防衛庁長官の統制下に入る事があります。自衛隊法第80条にそういう事が書いてあるのです。まぁ、防衛庁の海保統制とは言っても実際の指揮監督は海上保安庁長官を通すやり方で行われます。ですから、防衛庁長官が自衛隊に命令を出すように自由に海保の船や飛行機をアゴで使える、という訳ではなさそうですけれどね。とまれ、こういった統制下云々という話は警察や消防にはありません。有事の海保を語る際、まず特筆すべき事項として挙げられます。

 なぜ、有事に海保が防衛庁長官の統制下に入る事が許されているのかと言いますと。そもそも海上における保安維持業務は、元をたどれば海軍の仕事でした。独立した海上保安維持能力を持たない多くの国では、今でも海軍が海上保安任務に当たっています。なんとなれば、海上保安維持業務のためにはある程度の人員・船艇・航空機などを必要としますが、その規模は往々にして「補助海軍」とでも言い得るほどのものになります。従って、正規の海軍とは別にこうした「補助海軍」を設けるのにちゅうちょする国は多いでしょうし、また設けた国でも、イザという時この「補助海軍」を海軍の指揮下に組み入れ、色々手伝いさせたくなるのも分かろうというものでしょう。

 ちなみに世界の海軍についての本『ジェーン年鑑』では、海保は「準軍隊」扱いだそうですよ。

 さて、こうして防衛庁長官の統制下に入った海保が具体的に何やるか、と言いますと。基本的には、普段の海上保安活動と変わりません。沿岸警備や、法令の海上における励行や、海難救助に水路測量に航路標識の点検維持、と。防衛庁長官の統制下に入れるのは、長官の望む方向に海上保安維持力を重点指向させるのがねらいです。例えば基地・港湾周辺海域を特別手厚く警備させるとか。不時着パイロット捜索により大きな力を注がせるとか。そんな感じ。防衛庁長官の統制下に入ったと言っても、装備を増強し海自の一翼に連なる訳では全然ありません。もちろん、まかり間違っても撃ち合いしに戦闘水域になんか行かない(治安出動時なら、行くかもしれません)。有事においても海保はあくまで海保なんであります。

 ちょっとがっかりしましたか? 巡視船にミサイル装備した姿を見たかった?(苦笑) でもそもそも、有事であろうが平時であろうが海上保安維持力は必要です。いやむしろ、海の上が物騒になる有事にこそ、海上保安維持力の本領を発揮してもらわなくてはならないとも言えます。海自だって、海の上を行く時は海図や航路標識を見ます。その海図や航路標識は、外でもない海保が作っているのです。そんな時に、わざわざ海保をバラして海自の一翼に連ねてしまったりするのは、あまり得策とは言えません。そういう訳で、有事の際海保は海保のまま防衛庁長官の統制下に入り、海保としての業務を行うのでした。

 第一法律にも、海保は「その職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものと解釈してはならない」と定められています。海上保安庁法第25条。この場合の「軍隊」とは、厳密な意味での軍隊のみを指すのではなくて、軍事的役割一般と見られているらしい。ですから、海保が防衛庁長官の統制下に入っても海保が法的に自衛隊の一翼に連なる事はありません。戦闘目的で戦闘水域には行けないし、そのための装備も与えられません。有事であっても海保の権限に何ら変化はなく、よって武器の使用基準も平時と同じ警察的なもののまんまです。法律は、海保がどんぱちやる事を許していないのです。

 あんまり関係ないけど、日本海上保安庁のモデルにもなったアメリカ沿岸警備隊は、陸海空海兵に続くアメリカ第5の軍と位置付けられています。とは言え有事の際の行動は海保と似たようなもので(モデルだからこっちが似てるのか)、戦闘水域で海軍艦艇と肩を並べて艦隊決戦とまでは行かないようですが。しかし沿岸警備隊の大型巡視船(Cutter)には、高性能な76ミリ砲に、ミサイル迎撃用の20ミリ機銃(CIWS)に、将来対艦ミサイルを装備するための架台まで積んであります。事と次第によっては、相当の荒事もこなせるみたい。うぅむ凄い。

 

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