韓国海上保安事情

back to home.
 

 韓国警備警察に続いては、韓国の海上保安についてです。

 現在韓国の海上保安機関は、海洋警察庁です。同庁が発足したのは1991年と、かなり新しいのですが、海警庁の前身である海洋警察隊が発足したのは1953年ですから、そこから数えるともう発足50年になりますね。

 海洋警察隊の誕生は1953年12月、設立動機は、モノの本によると「日本の領海侵犯、北韓(※北朝鮮のこと)の対南工作隊の海上浸透、戦時禁制品の輸出入等の各種犯罪を防止するため」であったとされます。発足に当たっては海軍の支援を受け、基幹警備艦艇としてA.M.C.掃海艇6隻を引き継いだ他、海軍予備役将兵79名を警察官として採用し技術要員に充てました。また、全国の警察官中より技術要員及び行政要員を選抜しました。ちなみに、技術要員とは、要するに船乗りの事。

 発足当初、海警隊は内務部の下部機関であり、釜山他7ヶ所に基地を置いて、海洋主権線(※当時の日本でいう李承晩ライン)警備に当たっていました。1955年同線の警備が内務部主管から産業部主管に移るのに伴い、同2月に隊も産業部に移管されましたが、しかし1961年10月には、再び内務部に戻っています。

 発足時に要員は警察官として選抜任用された事からも分かるように、当初から海警隊は陸の警察とも深い関係を持っていました。1950年代の韓国は、内務部の下に治安局を置き、ここがいわゆる警察の本部となっていましたが、海洋警察隊も治安局の下部機関であったようです。60年代に治安局が治安本部に格上げされた時にも、やはり隊は治安本部の下部機関として組み込まれていました。でありますから、日本の海保のように警察と別個の組織であった訳ではありません。

 ところで、当初海警隊が発足したきっかけは日本や北朝鮮の領海侵犯、密輸等の各種犯罪の防止であり、実際の業務内容は海上での警備活動であったと書きました。これは、言い方を変えれば、当時の海警隊は、警備部隊であっても、厳密な意味での警察部隊ではなかったという事です。領海侵犯のような行為は取り締まる事はできましたが、例えばの話、韓国籍の船舶内で何か犯罪が起こったとしても、警察としてその犯罪を捜査する事ができるとは限らない、という事です。領海侵犯などやらかした訳ではないですからね。1962年4月に海洋警察隊設置法が公布施行されますが、ここに至って海警隊は管轄水域の警備の他、海上警察に係る任務全般をも帯び、ようやく正式な警察機関となったのです。

 その後しばらく海警隊は、「警察の中で海を担当する部門」として活動して来るのですが、90年代に入り、大きな組織変革を迎える事となりました。まず1991年7月、警察法が施行され、行政自治部(※旧内務部)治安本部は警察庁へ改変されますが、この際、海洋警察隊も海洋警察庁に改変されました。さらに1996年8月、海洋水産部が新設されると、海洋警察庁は行政自治部から同部に移管されました。

 現在の海洋警察庁は、海洋水産部の外庁であり、警察機関ではあるものの陸の警察とは別個の組織となっています。とはいえ昔の名残か、警察との結び付きが完全になくなった訳ではありません。職員およそ7,000名、このうちおよそ半数を警察公務員が占めますが、これはつまり警察官です。彼らは陸の警察と同じく警察学校で研修を受けており、権限も警察官と全く変わらないそうです。だったら、陸に上がれば警察官として権限行使できちゃうんですか?と思ってしまうんですが、どうなんでしょうか。また同庁長官を始め一部の主要ポストには、警察大学校出身の幹部が就く事になっています。

 1999年現在、同庁は京畿道仁川に本庁を置き(首都ソウルではない!)、全国12ヶ所に海洋警察署があります。4,000t級の救難艦(ARS)を筆頭に232隻の艦艇を保有し、またヘリコプター9機を保有しています。固定翼機は配備されていませんが、導入計画があります。

 ちなみに。海洋警察庁の英語表記は「National Maritime Police Agency」。Coast Guardという呼称は採用してません。沿岸警備隊でなく警察機関だ、と言いたいんでしょうか。まあ、名称がどちらであっても別に中身は変わらないだろうから、構わないと言えば構わないんですけど。

 さて。海上保安機関といえば船!そして飛行機だ!という訳で、以下に、海洋警察庁の保有する主要な船舶航空機について簡単に表を作ってみました。残念ながら写真は一切ない(私が持ってませんので)、データも2001年頭現在、ちう事で文字ばっかりな上に若干データも古いつまらん表なんですが…参考までにどうぞ。

沿岸監視艦艇(PG/PC)
(マジンゴ)級PG3隻
級名、何か意味があるのだろうけれど、分からなかった(恥っ)ので、読みそのまま載せておきます。分かる方、教えて下さい…。海岸監視に用いる艦で、1981年から3隻導入、PC1001・1002・1003と命名(?)されました。PC1001は、海洋警察庁艦艇部隊の旗艦に相当します。
要目
  • 満載1,200t、全長80.5m、幅9.8m
  • ディーゼル2基搭載(9,600HP)、2軸、最大速力22kt
  • 武装: ボフォース40mm単装機関砲1門、エリコン20mm2連装機関砲4門
漢江級PG1隻
海軍の「浦項」級コルベット艦の船体を利用して建造された艦。当然ながら船体構造は軍艦のそれです。1985年にPC1005「漢江」が配備されました。同型艦はありません。ところで、日韓間では毎年春と秋に合同パトロールを行なっているんですけど、これに参加する韓国側艦艇はほぼ決まってこの「漢江」。その関係で日本に来ることも多い船だったりします。
要目
  • 満載1,180t、全長88.3m、幅10m
  • ガスタービン1基(26,830HP)・ディーゼル2基(6,260HP)搭載、CODOG、3軸、最大速力32kt
  • 武装: OTOメララ3in砲1門、ボフォース40mm単装機関砲1門、大宇20mm多銃身機関砲2門
北漢山級PG2隻
やや小ぶりな沿岸監視艦で、1989年から2隻が導入されました。PC278「北漢山」、PC279「鉄馬山」とそれぞれ命名されています。
要目
  • 満載380t、全長53.1m、幅7.3m
  • ディーゼル2基(8,300HP)搭載、2軸、最大速力28kt
  • 武装: ボフォース40mm単装機関砲1門、大宇20mm多銃身機関砲1門、ブローニング12.7mm機関銃2挺
現代級PG3隻
北漢山級の船体を利用しつつ、新しく建造された艦です。同じく海岸監視に用いられます。1991年から就役が始まり、PC402・403・300の3隻が在籍します。個別の艦名はないようで、開発した会社の名前を取って「現代」級と呼ばれています。
要目
  • 満載430t、全長53.7m、幅7.4m
  • ディーゼル2基(1,990HP)搭載、2軸、最大速力19kt
  • 武装: 大宇20mm多銃身機関砲2門、ブローニング12.7mm機関銃4挺
シーウルフ級PC22隻
韓国で建造され韓国で使う船なのに「Sea Wolf」とは、少々首を傾げそうな命名なのですが…それはそれとしまして。海軍のチャムスリ級高速艇の船体を利用して建造された沿岸警備用哨戒艇です。70年代中頃から88年にかけて大量建造され、現在は200号艦から277号艦まで、番号とびとびで合計22隻が在籍しています。建造期間が長いので、艇によって結構武装がばらばら。
要目
  • 満載380t、全長48.2m、幅7.1m
  • ディーゼル2基(7,320HP)搭載、2軸、最大速力25kt
  • 武装: エリコン20mm2連装機関砲4門、あるいはこのうち2門を取り外してボフォース40mm単装機関砲1門と換える。他にブローニング12.7mm機関銃2挺
救難艦(ARS)
太平洋1号ARS
1993年に就役しました、韓国海洋警察庁艦艇部隊中最大の船。船首部にシーブを設け、各種水中作業も可能な作りになっているのが特徴です。具体的には、各種ケーブル敷設や、最大で水面下300mからの重量物引き上げ作業に従事できます。また後部にはヘリコプター発着甲板と格納庫もあります。救難艦、といいつつしっかり武装も施してあるのは、まあ、多目的って事で。
要目
  • 満載4,300t、全長104.7m、幅15m
  • ディーゼル4基(4,800HP)搭載、2軸、最大速力21kt
  • 武装: 大宇20mm多銃身機関砲1門、ブローニング12.7mm機関銃6挺
太平洋2号ARS
上掲「太平洋1号」と同じく太平洋を名乗っていますが、同型ではありません。1号との大きな違いは、船首部のシーブが無い、後部のヘリコプター関連施設は発着甲板のみで格納庫は無い、というところです。その他、要目も微妙に異っています。1998年に就役しました。
要目
  • 満載3,900t、全長110.5m、幅15.4m
  • ディーゼル2基搭載、2軸、最大速力18kt
  • 武装: 大宇20mm多銃身機関砲1門、ブローニング12.7mm機関銃6挺
済民1号ARS
海警庁救難艦の草分け的存在で、救難艦としては最ベテランの船です。…といっても、1992年就役なので、任務に就いてからまだ10年余なのですが。
要目
  • 満載2,072t、全長77.6m、幅13.5m
  • ディーゼル2基(8,000HP)搭載、2軸、最大速力18kt
  • 武装: 大宇20mm多銃身機関砲1門
済民2号ARS
これまた済民の名を冠したARSですが、1号と同型ではありません。本艦もケーブル敷設装置を備え、また消防用設備を強化してあります。ヘリコプター甲板はありませんが、単艦で海岸巡察、救難、ケーブル敷設に消防と、マルチにこなす多目的艦です。1996年に就役しました。
要目
  • 満載2,500t、全長88m、幅14.5m
  • ディーゼル2基(12,662HP)、2軸、最大速力20kt
  • 武装: 大宇20mm多銃身機関砲1門
航空機
Ka-327機
2重反転ローターが特徴的なロシア製ヘリコプター。海警庁では1993年から導入し始め、今では同庁の主力ヘリコプターとなっています。海上捜索用レーダーを備え、捜索・救難に用いられるのが主ですが、後述する海警庁特殊部隊の輸送手段としても利用されます。

 あと、これはおまけ。海警庁は独自の対テロ特殊部隊を持っていて、海洋警察庁特殊機動隊・NMPA-STF(National Maritime Police Agency - Special Task Force)というそうです。私自身は細かい事など全然知らないのですが…特殊部隊好きで興味のある方は、詳しく調べてみてはいかがでしょう。ついでに、その結果を少し教えてもらえると、私としてはとても嬉しく思います。;-)

 
 
主要参照文献;
『(韓国警察制度史)』 著;ホ・ナモ 刊;トンド院(韓国・ソウル) 1998
『2002 (韓国軍装備年鑑)』 編;軍事情報(株)(韓国・ソウル) 2001

back to home. inserted by FC2 system