お題の通り、韓国警備警察事情について。 日本の場合、今となっては労働組合も学生もデモをしなくなりましたし、デモしたところで、石や火炎瓶が飛んで場が荒れるなんて事もほとんど(と言いますか、全く…)なくなりました。が、韓国ではそんな事はありません。 お隣韓国では、労働組合の力はまだ強く、デモや座り込みストライキをしばしば決行します。学生も、左翼系を中心に組織だって結構デモったりするようです。これらのデモやストライキ自体も、投石から警察部隊との乱闘に至ることもあったりで、いまだなかなか厳しい模様。 こうして見ると、韓国の警備警察というのは、こと警備実施に関する限り、ある意味現在日本の警備警察よりも実戦に鍛えられ精強さを保っていると言えるかもしれません。これは、警備警察マニアとしては食指が動く所です。 という訳で。専攻も専攻ですし、折角だからこの際取り上げてみることにしました。 1. かんこくけいさつのきそ いきなり韓国警備警察の話に入る前に、まずは、韓国警察とはどういう組織であるかということを簡単に説明しておきます。
一言で言えば、韓国警察はばりばりの国家警察スタイルを採用しています。まず、中央政府の行政自治部に警察庁があり、国家機関として警察権を行使し治安を維持する任務を負っています。また警察庁の事務を地域的に分担させるため、特別市長・広域市長・道知事の所属下に合計14の地方警察庁を設置しています。この地方警察庁は警察の実働担当であり、ざっと言うなら、中央の警察庁が指揮命令を出し、それに従って地方警察庁が動きます。 これは、国家警察と自治体警察の折衷スタイルを採用している日本警察とは随分異なるスタイルです。日本の場合、国家機関たる警察庁と地方の警視庁・道府県警察本部の間に直接の指揮命令系統はありません。実働担当の地方警察は各々地方の公安委員会下にあって、独自に活動を行います。警察庁は各警察間の連絡・調整を行うのみで、指揮や命令まで行う事はない訳です。 また、韓国の警察は司法警察としての捜査権を限定的にしか持たず、捜査活動に当たっては検察からの指揮を受けます。別な言い方をすれば、行政警察機関として規定されており一次捜査機関としての権限が制限されている、となります。 この点もまた日本警察と随分異なるスタイルです。日本の場合、行政警察と司法警察を分けるやり方は現在採用していません。警察といえば、すべて司法警察を指します。また警察が捜査に当たって検察の指揮を受けることもなく、警察は独自の立場で捜査を展開させることができます。 警察スタイルが違えば、当然ながら(?)階級呼称も違います。韓国警察における警察官の階級呼称を、別表に示しておきました。韓国も日本と同じく漢字使用国でありますから、階級呼称も漢字語、そこで使われている漢字も治安・警察系の香り漂うもの、なのですけれども。それはそれとして、やはり独特の響きのある呼称ですね。 ついでに…と言っては何ですが、韓国警察の階級と日本警察の階級の対応表みたいなもんも作ってみました。(まあお遊びみたいなものですが) さて。韓国警察の実働担当は地方警察庁、ですので、この地方警察庁についてもう少し見てみることにしましょう。先にも触れた通り、地方警察庁は韓国の地方行政単位である特別市・広域市・道に置かれています。その数合計14庁、具体的には次の通り
以上の各庁が設置されています。なお、ここでいう「特別市」「広域市」は、日本でいう政令指定市 "のようなもの" と思ってください。 上記各地方警察庁には、実働部署として各課・隊があり、さらに末端部署として警察署と派出所を持っています。詳しくは後述するところですが、警備警察部門にあって警備実施に携わる機動隊や、特殊部隊である警察特攻隊、また韓国警察独自の部隊ともいえる戦闘警察隊などは、いずれも地方警察庁に属するところのものです。 2. きょんちゃるきどんで 韓国警察の基本を説明した後は、いよいよ警備警察の話。 韓国警備警察事情ということなので、韓国の警備警察一般の話は少な目にして、お国に特徴的なことを重点的に取り上げていこうと思います。まずは、韓国の警備警察一般についてごく簡単に。 韓国においては、警備警察というと、日本でいうところの狭義の警備警察(警備実施)を指します。日本でいう警備情報や公安関連についての警察業務は、韓国では保安警察と呼ばれ、警備警察とは明らかに別扱いになっています。 警備実施と警備情報を別扱いにすることの意味は、私にはよく分からないんですけど、韓国警察ではそれなりにメリットあるものと見られているんでしょうね。現在の韓国警備警察は、先にも触れたように、いまだにデモ鎮圧で大活躍状態です。また後述しますが、武装ゲリラ討伐で準軍事的な警備活動を行うこともあります。日本に較べて警備実施の持つ比重は相対的に高く、また警備なりの独自の活動もある、という辺りから独立させてあるのでしょう。多分。 この "相対的に高い比重と独自性" を持つ韓国警備警察を特徴付けるねたとして今回取り上げるのが、ずばり、戦闘警察。ご存知の方はいらっしゃるでしょうか? 名前を聞いたことある、という人はいらっしゃるかもしれません。でも、制度の詳しい中身までご存知の方は少ないようですね。(当たり前か・苦笑) 韓国警察内部には、戦闘警察隊と名付けられた部隊が存在します。その名の通り、戦闘部隊として訓錬され、準軍事的任務を負った警察です。韓国警察がなぜこのような制度・部隊を保有しているのかというと、北朝鮮から侵入した武装ゲリラの討伐には、軍事的訓錬を受けた部隊が必要であるから、だそうです。警察による北朝鮮武装ゲリラ討伐作戦のことを、韓国では「対間諜作戦」と呼びます。間諜、というと日本では組織に潜入するスパイのような印象を受けますが、韓国では意味合いが微妙に違うようですね。 戦闘警察は、準軍事的性格を持った制度であるにつき、警察に属するものではあってもまんま警察ではありません。まず、戦闘警察に属する隊員は、厳密には警察官ではありません。戦闘警察巡警といって、独自の階級を持ち(別表参照)、徴兵によって集められ、陸軍で一定の軍事訓錬を受けます。警察官ではありませんから、建前上に警察活動には従事しません。対間諜作戦に従事することを主とし、必要に応じて補助要員として警察の治安維持任務に就きます。ただし、最後の警察活動うんぬんに関してはこれは建前で、実際はかなり違ってきています。
戦闘警察制度が創設されたのは1967年のことで、当初は警察官から成る戦闘警察隊を編成し、対間諜作戦及び警備任務に充てました。しかしこの方式では隊員の平均年齢が高くなってしまう、訓錬上問題がある、などの理由から、1970年に徴兵で要員を確保する方式に改めました。具体的には、陸軍に徴兵され基礎的軍事訓錬を受けた現役兵を、一時帰休の形で警察に出向させ、戦闘警察隊員として勤務させるのです。この手法を取ることで隊員の確保が容易になり、その後しばらくは戦闘警察隊の規模的拡大が進みます。 80年代に入ると、今度は戦闘警察の制度面での改正が進みます。まず1980年に戦闘警察の任務が改められました。それまでは、対間諜作戦の他は「警備任務」に就くものとされていたのを、「治安業務の補助」を行うものと改め、戦闘警察隊員が警備のみならず派出所勤務・防犯巡察・交通外勤などなどより広い分野で補助勤務できるようにしたのです。 翌81年末には、それまで戦闘警察の隊員であった戦闘警察巡警を作戦戦闘警察巡警と改称し、加えて新たに義務戦闘警察巡警を創設しました。これは、戦闘警察への入隊を徴兵と同等とみなし、希望者を募って試験を行い、合格者を兵役期間中戦闘警察で勤務させるようにした制度です。入隊者には軍事訓錬が施されますが、これは陸軍に委託します。陸軍現役兵の一時帰休・警察出向という作戦戦闘警察巡警の制度に較べ、こちらはより警察主体の制度といえるでしょう。なお、これに伴って任務の振り分けも行われ、従来からの作戦戦闘警察巡警は主に対間諜作戦任務を、新設の義務戦闘警察巡警は主に治安補助任務を行うものとなりました。 現在の戦闘警察は、従来通りの作戦戦闘警察と、治安補助に重きを置いた義務戦闘警察の二本立ての態勢になっています。狭義の、いわゆる戦闘警察といえば前者のことを指し、略して戦警とも称されます。後者は狭義の戦闘警察に対して義務警察ともいい、略して義警と称されます。この義警による治安補助は、警察の警備実施上重要な位置を占めています。 韓国警察において、警備実施の中核を担っているのは「機動隊」です。機動隊は各地方警察庁直轄の部隊であり、集団犯罪鎮圧専担部隊として治安警備を実施します。現在機動隊が韓国に何隊あり、隊員総数が何人であるかということは分かりませんでした。が、大体どの地方警察庁も最低1隊は機動隊を持っているらしいですね。この機動隊の隊員の多くは、先に触れた戦闘警察巡警(特に義警)で占められています。また機動隊ではありませんが、同じく警備担当部隊であるところの政府庁舎警備隊や国会警備隊にも多くの戦闘警察巡警が勤務しています。 犯罪対策に警察官でない者を多用するのはいかがなものか…と一瞬考えこんでしまうんですけど、でも考えてみるに、そもそも警備実施部隊の仕事というのは、事態の鎮圧です。検挙活動もやる分にはやるでしょうが、大事なのは何といっても事態鎮圧。そのためには、教練受けた人間の頭数揃えるというのがまず基本になります。とすると、軍事教練を受けた義警でもって機動隊要員をまかなうというやり方は、それなりに筋の通ったやり方と言えなくもない。 実際、義警を活用することで韓国警察の警備部隊というのは随分頭数が揃っているらしく、例えばソウル市内では、あちこちでその姿を見ることができます。外国公館、政府庁舎、時には大学キャンパス周辺において、黒い制服姿の隊員、あるいは「移動防犯派出所」とハングルで車体に書いた赤色灯付きのバスを目にすることができます。特にバスは、あきれるくらいあちこちにいます(笑)。車体のカラーリングは黄緑とベージュの2色塗り、窓に金網張ってない車両も多い、などなど、ソフト路線努力とおぼしき跡も見られないではないですが、しかし目立つ。あと、関係ないけど、妙にくたびれた車両が多い…(失礼!) と、やや話が逸れてしまいましたけれども。このように、韓国警備警察の現場においては、戦闘警察要員が補助要員という形で多いに活用されているのです。 その戦闘警察要員も大勢いるところの機動隊は、どのような鎮圧装備を持っているのか、についても少し。
以上、機動隊の話でした。 さて、機動隊の話が随分延々と続いてしまいましたが…先にも書きました通り、機動隊には義警が大勢勤務している訳なんですが、しかるに戦闘警察制度そもそもの目的は、準軍事的な対間諜作戦任務を負うところにあります。機動隊は、警備部隊ではありますが、対間諜作戦任務部隊ではありません。 警察において対間諜作戦を担っているのは、その名もずばり戦闘警察隊で、その要員は先にも触れた作戦戦闘警察巡警が中心になります。戦警隊も機動隊と同じく地方警察庁直轄の部隊ですが、機動隊と違い、どこの地方警察庁にもある訳ではないようです。 "間諜" 浸透の恐れが強い地域に重点的に配備されており、この辺に戦警らしさが漂います。 戦警隊についての詳しい話というのは全然分からないんですが、自動小銃等の火器も装備し比較的重装備、また一部では海からの間諜浸透を警戒し沿岸監視レーダーの運用も行なっている…そうです。 3. きょんちゃるとっこんで 戦闘警察の話ではないんですが、警備警察関連の話ということで、警察特殊部隊の話などでも少し。警備警察の話は興味なくても特殊部隊の話なら興味ある、という人も多いでしょうし。;-) 日本ではテロ対策を実施する特殊部隊を主に警備警察部門が保有していますが、この辺りの事情は韓国でも同じです。韓国警察特殊部隊のはしりは、1983年に治安本部(当時。現在の警察庁)に直轄部隊として創設されたKNP868部隊です。当時韓国は86年のアジア大会、さらには88年のソウルオリンピック開催を控え、治安上ぬかりあってはならない状況にありました。警戒する相手は当然ながら北朝鮮によるテロ攻撃で、これに対処する目的でKNP868が設置されたのです。 創設後しばらく、KNP868は韓国警察唯一のテロ対策部隊として政府直轄下に置かれてきました。が、その後警察機構改革によって異動し、現在ではソウル地方警察庁直轄警察特攻隊となっています。また1997年以降一部地方にも地方警察庁直轄の特殊部隊が設置されるようになりました。現在分かっている範囲で韓国警察の特攻隊を列挙してみますと、以下の通りです。
各部隊のおおまかな編成は
というようになっています。任務は名前から大体推測がつきますが、ただ、ソウル隊にある行政支援課というのはよく分からない存在です。特殊部隊の行政支援、ってどういうのでしょう?(それとも資料の読み間違えなのかも……) 隊員の人数や装備、これまでの出動事例なんてのは全然分からないんですけど、まあ噂では、厳しい訓練によって高い技量を維持しているのなんの…ということでした。 ちなみに。「特攻隊」とは、韓国ではいわゆる特殊部隊のことを指します。SWATの訳語もこれです。 |
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