地震、雷、火事、なんとか 国編

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 国と地方自治体の災害対策の話…と一口に言っても、その内実は実に様々です。ここでは災害が起こる寸前、ないし実際に起こってしまってからの緊急対策に焦点を当てて話していく予定ですが、それでも様々過ぎてとてもおっかけきれないくらいに多様です。逆に言えば、それだけ複雑多岐に「発達」せざるを得ないくらいに、日本の防災体制というのは長い時間をかけて醸成されて来た、ということなのでしょう。

 そんな複雑多岐な災害対策ですが、それをこれから出来るだけ幅広く且つ簡単に(詳しくしたくてもできない…とても手が回らないので。(^^;)紹介してみたいと思います。

  1. 内閣府
  2. 消防庁
  3. 警察庁
  4. 防衛庁・自衛隊
  5. 国土交通省

1. 災害対策・国編

 国による災害対策総論、まずはいきなり伝家の宝刀から登場させましょう。

 「非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があるとき」、内閣総理大臣は、災害緊急事態を宣言することができます。災害対策基本法105条。

 災害緊急事態の布告に当たって、総理は、事前に中央防災会議へ諮問し、かつ閣議で承認を得なければなりません。また災害緊急事態布告後20日以内に国会に付議し、その承認を求める必要があります。

 これほど厳重に足枷がかかっている災害緊急事態宣言とは、いかなるものなのかと言いますと… 布告の効果は次の通りです。すなわち、以下の各項について、罰則の付いた政令を制定することができる。

  • 供給が不足している生活必需物資について、取引を制限ないし禁止
  • 災害応急対策用・復旧用・国民生活安定用の物資あるいはサービスについて、価格の制限
  • 賃金支払いや災害補償などを除いた金銭債務について、支払期限と権利の保存期間の延長

 要約しますに、国民経済と生活の安定に関し、罰則付き政令を制定することができる、ということ。

 …どうですか? 災害緊急事態布告。「救助」とか「救急」とか「被害の局限」とかいう単語がどこにも見当たらないところに、私はどことなく違和感を感じてしまうのですが(苦笑)。まあ、やれ警備だ鎮圧だというところにこだわるのは、ダメなおたくだけなのでせう(爆苦笑)。あるいはもう少し真面目なことを言えば、現場での災害対策・救助活動は自治体の仕事であって、国が前面に立ってこうした活動をすることはない、という日本の災害対策の原則を端的に示したもの、となりましょう。

 大災害が発生した場合、国と地方自治体が協力して災害対策に当たることは重要です。しかるに、日本の場合このような原則があり、国有の災害救助専門部隊というのはありません。その代わり…と言っては何ですが、現地への所要の指示であるとか、応援や支援のコーディネートといった形を主として、国の災害対策は展開していきます。

 以下、国が国として防災活動を行う体制について、少し書いてみようと思います。

 国の防災機関を軽く列挙してみると、

中央防災会議

…閣僚や重要な公共機関の長で構成されています。大勢の専門委を抱えていて、国の防災基本計画を作ったり、非常災害に対する緊急措置計画を作ったり、災害対策基本法にもとづく災害緊急事態布告・緊急災害対策本部設置に当たっては諮問を受けもたりもする、なかなかなところ。

指定行政機関

…災害対策基本法において、防災に責任を持つとされる国の機関を指定行政機関と呼びます。大抵の中央省庁がこれに指定されていますが、全部ではありません。

指定地方行政機関

…指定行政機関の地方支分部局、及び災害対策基本法で指定を受けた国の地方行政機関のことです。

内閣府本府防災担当政策統括官

…国としての防災活動を展開するに当たって、色々なことをする(苦笑)部署です。まあ、内閣府にこういう人がいるってことで。

 またこの他、国の機関でも自治体でもないですが、災害対策基本法において防災に関係する機関とされているものに、次の機関があります。

指定公共機関

…高い重要性を持つ公共機関です。NHKとか日銀とかNTTとか、が指定されています。

指定地方公共機関

…地方における公共施設の管理者、ないし公共機関のことです。地方のガス会社や電気会社などが指定されています。

 なにか災害が発生した時、最初に事態を覚知するのは基本的に自治体や現地の消防、警察、あるいは関係省庁です。そこから国への第一報は内閣府の防災担当政策統括官の元、あるいは内閣官房の内閣情報集約センターに入ります。これで情報収集と初動対応が始まり、また各省庁も動き始めます。

 地方や関係省庁の活動のみでは事態が収まらないような大災害だと判明した場合、災害対策基本法による非常災害対策本部が設置されます。非常災害対策本部の本部長が誰で本部事務局担当省庁がどこか、は防災基本計画で定めてありますが、その内容は災害の種類ごとに微妙に異なっています。対策本部は、本部長と事務局担当省庁の幹部職員、さらに指定行政機関・関係指定行政機関から、その権限を一部なり全部委任された職員が参集して構成します。

 災害対策を実施するために、本部長は必要に応じて本部職員に指示を出し、また上で触れた指定地方行政機関の長・地方公共団体の長・指定地方公共機関・指定地方公共機関に必要な指示を出すことができます。また必要に応じて政府調査団を現地に派遣し、現地対策本部を設置することができます。

 要するに、非常災害対策本部が設置されると、現場にある行政機関や地方自治体・公共団体などに統一的に指示を出すことができる訳です。まあ、現場への直接指示ではない(トップを経由する形でのみ指示を出せる)し、中央の本省・本庁には指示できない(権限を委任されて非災本部に参集した職員にのみ指示を出せる)のですけど。でも行政機関の縦割を排し、普段国が口出しできないところにおおっぴらに口出しできるのは、やはり特権と言うべきでしょう。

 さらに。異常な大災害と分かれば、中央防災会議への諮問と閣議を経た上で、災対法に基づく緊急災害対策本部が設置されます。本部長は総理、全閣僚が本部員になり、本部は原則官邸、事務局は官邸及び内閣府の一部がある中央合同庁舎5号館に置かれます。さらに非災本部の時同様指定行政機関・指定地方行政機関から職員が参集します。

 活動内容は非災本部の時とほぼ同じ、必要に応じて本部職員、指定行政機関始め各団体に指示を出します。また政府調査団を現地に派遣し、現地対策本部を設置します。このとき、非災本部と違って、指定行政機関の長にも指示を出すことができます。すなわち、中央省庁に対し、大臣経由で指示を出せるという事です。

 全閣僚を束ねて設置する上に中央省庁に指示を出すこともできる、ということは、緊災本部が設置されれば、国のあらゆる行政機関を動員できるということ。もちろん、自治体や指定を受けた中央/地方の公共機関の長にも必要な指示を出すことができます。実に強力で、かつては災害緊急事態宣言抜きでは設置できないことになっていた程です。防災行政組織としては最高最強、最後の砦みたいなものです。

 この緊急災害対策本部が設置されたことは、これまでありません。阪神大震災の時も、ついに設置されることはありませんでした。なお災害緊急事態宣言も、同じくこれまで出されたことはありません。

 ところで、これは余談なのですが。緊急災害対策本部をして「最後の砦」と書きましたが、しかるにこの最後の砦をもってしても、できるのは指示止まり、指揮ではありません。緊急災害対策本部長たる総理大臣があれをしろと言っても、それは指示でしかないので、その指示が拒否されるという事態もまったく考えられないではありません。よしんば国の機関なら大丈夫として、地方自治体に対する指示となると、その指示に従うかどうかは相手次第。現地判断で指示に従わなかった、なんて事もあるかもしれません。

 前にも触れた通り、現場での災害対策・救助活動は自治体の仕事です。消防と警察は地方の機関です。国にできるのは、現場での自治体の活動がうまく運ぶよう、指示や助言をし、また海上保安庁や自衛隊といった国家機関を出して手助けを行うところまで。地方と協力する事はできますが、しかるに地方をさし置いて国が直接災害現場を管轄し活動組織に指揮命令を下すという事は、現在ではまだできないのです。

 ……もっとも、実際大災害が起こったとして、国の指示を敢えて蹴るような真似に出る自治体や地方機関はないと思いますけれどもね。まあともかく、今のところはこういう仕組みになっています。

 さて、これまでは、政府一丸となって災害対策を行なうための組織や権限の話でした。この組織が力を発揮するためには、本部設置のための施設だとか、情報収集・連絡・指示命令のための通信網だとかが必要です。以下では、そういった防災のための国の施設や設備について少し触れてみます。

 まずは、対策本部用施設についてです。対策本部というのは、言わば頭脳ですから、必要なのは「通信設備の整った会議室」です。ここが情報を集めて指示を出すことで、現場が動く訳ですからね。

 防災基本計画で非災本部や緊災本部の設置が予定されている各省庁には、それぞれ設置に供する施設があります。その中には、東京が被災地となっても運用が可能なように、特に通信設備をシェルター化してある程度の抗たん性を備えた施設もあります。

  • 中央合同庁舎5号館の、内閣府防災担当部局の防災通信室
  • 官邸の地階にある危機管理センター
  • 東京立川にある立川広域防災基地。ここは災害対策本部予備施設で、独立した通信機能を持つ。
  • 防災とは微妙に趣が異なりますが、東京市ヶ谷の防衛庁、そこの庁舎A棟地下にある中央指揮所(NCCS)

 前2者、中央合同庁舎5号館と官邸は、非災本部のみならず緊災本部設置用施設でもあるのできちんとシェルター化してあります。ここがダメなら同じくシェルター化された立川広域防災基地、また若干趣は違うけど防衛庁がある訳です。

 本部を設置したら、情報を集めたり指示を出したりしなければなりません。そのためには通信網が必要です。続いては、その通信網の話です。

 最初に挙がるのが、中央防災無線網です。旧国土庁が整備し、現在は内閣府が管理しています。その名の通り、中央各機関を接続することを主な目的として整備されました。指定行政機関・指定公共機関及び他の主要官庁や在京公共機関を結んでいる固定通信系、中央と地方の主要公共機関ないし現地派遣の調査団を結ぶ衛星通信系、固定通信系のバックアップと機動的な通信運用のための移動通信系、ちと毛色の異なったところで映像伝送系、の4系統からなっています。

 運用の中心にいるのは内閣府で、本府防災担当政策統括官の下に防災通信官が置かれ、管理運営に当たっています。内閣府の防災通信室が中心となっており、上でも触れた通り、この通信室はシェルター化されています。

 続いては、地方公共団体(ここでは都道府県)と中央を結ぶ回線です。中央防災無線網と接続された正規の防災用緊急連絡回線は、国土交通省の通信回線を共用する形で設けられています。元々は旧建設省が本省と地方支分部局(地方建設局・工事事務所等)の連絡のために整備したものでした。ここから都道府県庁に回線端末を伸ばし、災害時の緊急連絡に使用しています。後でまた触れるところですが、この回線は結構がっちり作ってあって有用らしい。

 またこの他に中央と地方を結ぶ回線としては、次のようなものがあります。

  • 消防庁と都道府県の防災部局を結ぶ消防防災無線網。国交省回線を一部共用する他、消防庁独自に整備して地方自治体に管理を委託している衛星通信回線もある。
  • 警察庁と管区警察局・都道府県警察本部以下を結ぶ警察通信回線
  • 海上保安庁本庁と管区海上保安本部以下を結ぶ海上保安通信回線
  • 気象庁と管区気象台・海洋気象台以下を結ぶ気象通信回線
  • 防衛庁と陸海空各自衛隊部隊を結ぶ防衛通信回線
  • 忘れちゃいけない民間通信会社の一般回線(笑)

 これらは中央防災無線網と接続された正規の緊急連絡回線ではないので、対策本部と地方の連絡に自由に使える訳ではありません。が、活用はできるでしょう。

1-1. 内閣府

 国による災害対策、総論に続いては各論です。その1は内閣府からです。

 内閣府には複数の政策統括官が置かれていますが、その内の1人が防災担当です。当人の下には参事官を始めとする部下職員がおり、霞ヶ関中央合同庁舎5号館にて事務を執っています。

 内閣の膝元内閣府において防災を担当するということで、なかなか重要そうなこの部局。元を辿れば旧国土庁防災局が、行政改革を経て平成13年1月にこうなりました。初代の防災担当政策統括官には国土庁防災局長が横滑り、事務フロアも国土庁時代と変わりません。国土庁時代は防災活動にリーダーシップを発揮するのが難しく、特に平成7年の阪神淡路大震災では初期対応にもたついてしまい、今一つぱっとしなかった部署ですが… 衣替えでその辺はどんな感じになったでしょうか。

 当部局が実施する災害対策活動ですが、簡単に言えば、政府が災害対策を実施する際に窓口&連絡事務局みたいな事をするのが主です。何かをするための部署というよりは、何が起こっているかを知るための部署、といってもいいでしょう。当部局では24時間態勢で情報収集に当たっており、基本的に災害発生情報はここに集められ、官邸と各省庁へ連絡されます。

 政府としての初動措置に資するため、内閣府独自の現地情報収集と被害予測も行います。ある程度大きな災害が発生すると、内閣府は先遣情報班を現地に派遣し、情報収集を行います。ちなみに現地までのアシは他官庁頼み(主として自衛隊のヘリコプター)ですが、通信手段には手持ちの中央防災無線を活用します。また地震に関しては、震度から被害を予測するEES(地震被害早期評価システム)、現地状況をデジタルマップ上に示して事態把握を助けるEMS(応急対策支援システム)を運用しており、初動対応に力が入れられています。

 ところで、同じく「内閣」の名を冠した初動対応機関として、内閣官房内閣情報調査室の内閣情報集約センターと、同内閣安全保障・危機管理室というのがあります。どちらも同じように内閣の字が付いていて、しかも初動対応と情報収集を担当するところも同じ、なかなか紛らわしいのですが… 敢えて区別するなら、内閣府の当部局は政府の窓口、内閣官房のあちらさんは官邸の窓口、と割りきって見るとすっきりするでしょう。(実際は、そう単純に分けちゃえないみたいですけど)

 さて対応態勢が本格化すると、担当省庁が表に出て専門的対策活動を展開していくことになり、当部局の出番は少なくなります。が、時には当部局が引き続き中心的な事務局として機能し続けることもあります。政府全体として対策活動を行うときがそうで、例えば災害対策基本法に基づく緊急災害対策本部を設置する場合、事務局は原則としてここに設置されますし、非常災害対策本部の事務局も、本部長を防災担当大臣や総理大臣が務める場合にはここに置かれます。

 災害情報収集と指令のための骨幹通信網を維持することも、同じく重要な仕事です。平常時中央防災無線網を管理しているのは、前述の通りここです。防災通信官を置き、災害に備えてシェルター化した通信室や災害を避けて移動可能な衛星通信移動局を運用している事も前述の通りです。

 あと、災害対策本部予備施設である立川広域防災基地を管理してるのもここだったような…

 ともかく、内閣の膝元で窓口&総合事務局機能と通信機能両方を管理している部局ということで、一等最初に登場頂きました。ここさえしっかりしておれば、大災害に対応する政府としての情報窓口は確保できる、はずです。多分。

1-2. 消防庁

 実際に災害が発生した時、実際に被災地に出動して消火・救助・救急活動を行うに当たり、主力を成すのはまず間違いなく消防機関でありましょう。しかるにこの消防機関というものは、自治体が自己の責任において設置するものであり、国有・官設の消防というのはありません。

 いやより正確にいうなら、被災地で救助・救急活動を実施する消防部隊がない、というべきでしょう。消防の名を冠した官庁なら、総務省外局として消防庁がありますから。

 実際に救助活動を行わないのなら消防庁は何のためにあるのか?といえば、一言で表現すると「救助活動に当たる各消防機関同士の連絡や調整」ということになろうかと思われます。

 平常時、消防庁は、消防に関する統一規則や政令の制定、災害情報の収集と提供、消防大学校における消防幹部教育、などなどを通して消防活動の骨組み作りを行っています。消防全体の機能調整を行うコーディネート機関のようなもので、この役割は災害時においても基本的に変わりません。

 災害発生時に消防庁が行う活動は、具体的には次の2つが挙げられます。まず第一は、災害に関する情報の収集及び現地との連絡、第二は、必要ならば消防応援部隊の派遣決定、であります。

 第一の情報収集・連絡でありますが、これは基本的に現地の消防機関に対する連絡、現地の自治体・消防機関を通した情報収集であります。消防庁の職員が現地に直接赴いて消防庁に直にあれこれ報告を上げるということは、余程の事態でなければ実施されません。原則はあくまで現地機関からの報告です。集めた情報は国や他自治体に提供される他、後に触れる応援派遣決定の判断材料としても利用されます。

 被災地との連絡や情報収集に用いる通信設備としては、消防庁の地上無線回線、及び衛星通信回線があります。地上無線は従来から整備されていた通信回線で、旧建設省・国土交通省の回線と共架となっており、端末が各都道府県の防災部局に設置されています。ここから、自治体や消防機関の担当者が情報を送る訳です。一方の衛星通信回線は、最近整備が進んでいるもので、これは消防独自のものです。全国各地に衛星通信用固定局(要するにアンテナ)を設置し、管理を当地の消防機関に委託しています。これらの通信網の中核には消防庁防災情報室が位置し、被災地からの通信連絡・報告はすべてこの防災情報室で受信します。

 さらに、地方機関の報告だけでは不充分で消防庁職員が直接現地で情報収集する必要あり、と判断された場合。こういう場合現地に独自の活動拠点を設置するための器材も、消防庁は整備しています。まず「現地活動支援車」、これは言うなれば通信設備と簡易宿泊設備を備えた消防庁のキャンピングトラックで、消防庁職員はここを根城に情報を集めます。現地の通信施設が打撃を受けている時は、衛星通信用アンテナを積んだ「衛星車載局車」が同伴し本庁との通信線を確保します。また消防庁は、車載化されていない可搬型衛星通信装置(音声通信用、及び画像通信用)も複数保有しており、こちらを持っていく場合もあります。

 ちなみに。上で挙げた現地活動支援車ですが、これはベンツのウニモグが原型というなかなかゴツい上に高級な車両です。また支援車や車積局車の外見は、白地に赤いラインが2本入ったデザイン、消防カラーの赤色を中心にし、かといって消防車ちっくな外見でもない、凝ってはいないけどなかなかいい感じです。ただ惜しむらくは、入っているロゴが「総務省」であるとこでしょうか… いや、確かに間違ってはいないんですが、消防というイメージからは微妙にずれてしまいます。被災者へのアピールという点でいささかぱっとしないところがあるかも。

 さて。情報収集に続く第二の活動である消防応援部隊の派遣判断ですが、これは読んで字のごとく、被災地に他自治体の消防機関を応援として送り込もう、という判断をすることです。また、応援に供するための緊急消防援助隊という部隊の管理も消防庁が行っています。この辺りについては、自治体消防の話もからんで参りますので、詳しくは自治体編の消防・水防のところをご参照頂くとしてですね。

 極めて大規模な災害に際して全国規模で消防部隊の応援をかき集める場合、応援の必要性認定と派遣コーディネートを行う消防庁の役割は大変重要です。後でも触れますが、自治体同士が独自に締結した消防応援協定による応援を除けば、消防の応援派遣を決定し差配することができるのは消防庁・消防庁長官だけなのです。消防庁長官が派遣決定を出さなければ、どんなに規模の大きな災害が起こっていても、緊急消防援助隊は出ません。ここで、仮に、全国規模の応援が必要になるような大規模な災害が東京で発生し、消防庁自体が被災して、応援要請を行う暇もなく機能を喪失してしまったとしたら。

 残念ながらと言うべきか、さすが法治国家と言うべきか、消防庁長官に代わる応援要請権者というのは存在しません。ので、全国規模で応援をかき集めるためには、一刻も早く、失われた消防庁の機能を回復させなければなりません。回復するまでの間は、応援なしで頑張ってもらうしかない訳です。この「頭を潰される」事の危険性は消防庁もきちんと認識しており、東京三鷹の消防大学校、同じく東京の立川広域防災基地が、消防庁被災時の予備施設となっております。

1-3. 警察庁

 普通、災害対策は消防の活動、警察の仕事は犯罪の予防鎮圧・捜査などである…と思われますが、最近では警察もこの分野における対応能力を高めて来つつあります。警察法に、警察が災害対策を行うとはっきり書いてある訳ではありません。しかし、同法に基づいて警察が負う任務の中には「個人の生命、身体及び財産の保護」もある、個人の生命や財産を侵害するものの中には犯罪だけでなく災害も含まれる、よって任務遂行のため警察は災害対策にも乗り出す、と、こういう法解釈に基づいてなされているようですね。

「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。」

警察法 第2条

 もっとも、実際に救助活動等々に乗り出すのは、地方の機関である警視庁・道府県警察であって、国の機関である内閣府外局警察庁が救助部隊などを抱えている訳ではありません。先の消防庁と同じく、警察庁も、警察全体の連絡と機能調整を行うコーディネート機関というようなもので、実際に現場で活動する機関ではないのです。災害現場における地方の警察の活動については、ここではなく、自治体編の警察のところで少しく書いておりますので、そちらを御覧下さいませ。

 災害時に警察庁が行う活動は、もっぱら、被災地の警察と連絡を取り、情報収集を行うことです。収集した情報は国や他の警察に提供され判断材料として使ってもらうことになります。これ以外に、表立った活動というのはありません。

 消防の場合、被災状況の情報収集をするだけでなく、応援の決定権を消防庁長官が持っていました。しかるに警察の場合、応援の決定権を持っているのは地方の公安委員会であり、警察庁長官ではないのです。そのため、情報を集め、それをもって「来るべき」応援要請に備えるよう各警察に一般的指示を出すことまではできますが、実際にゴーサインを出すことはできないのです。

 警察も、消防と同じく災害時に全国規模で応援派遣を行うための部隊として広域緊急援助隊という部隊を編制しています。所属する警察官は各自治体の警察に所属していますが、部隊編制は管区単位で行われているため、実際運営するに当たっては準備段階から行動計画に到るまで警察庁が指示を出すことになるでしょう。しかしそれに先立つ応援要請と要請に基づく派遣決定は、警察庁の手の外にあります。

 …そういう訳で、災害時の警察庁は、情報収集機関としての趣が強い。なお実際の情報収集活動は、現地の警察が行います。現地が集めた情報は、まず管轄の管区警察局に報告され、そこからさらに警察庁へと報告されます。こうした通信・連絡のために警察は全国に独自の通信回線を設置しており、災害時の通信・連絡も当然この回線を利用して行われます。

1-4. 防衛庁・自衛隊

 自衛隊法によると、自衛隊は、人命または財産の保護のため必要ある場合、防衛庁長官からの命令や、あるいは外部からの要請を受けて、救援のため部隊等を出動させる事ができます。もともとは国防組織としての性格を持つ自衛隊ですが、ものの本によると、「非常時の指揮命令系統が明確で全国的補給網を持ち、大規模災害事態への対処が期待されるところとなる」んだそうです。

 自衛隊法に記述されたところの、災害に対する自衛隊の活動には、災害派遣・地震防災派遣・原子力災害派遣の3種類があります。しかるに、地震防災派遣と原子力災害派遣については、それぞれ地震災害警戒態勢原子力緊急事態と別に項目を立てる予定でいますので、ここでは災害派遣に限って話をする事にします。

 改めまして、自衛隊の災害派遣。これは自衛隊法第83条で定められています。

「都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を長官又はその指定する者に要請することができる。
2 長官又はその指定する者は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合に、部隊等を救援のため派遣することができる。ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を受けるいとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
3 庁舎、営舎その他の防衛庁の施設又はこれらの近傍に火災その他の災害が発生した場合においては、部隊等の長は、部隊等を派遣することができる。」

 すなわち、自衛隊の災害派遣は、要請があって初めてなされるのを原則としてます。要請権者として条文で挙げてあるのは「都道府県知事その他政令で定める者」ですが、具体的には、知事の他に海上保安庁長官・管区海上保安本部長および空港事務所長が災害派遣要請の権限を持ちます。

 災害派遣要請に当たっては、派遣希望の事由、期間、区域、希望する活動内容、その他参考となるべき事項を書面にしたため、これを提出して派遣要請を行うのが基本です。しかし文書を用意する余裕がないほど事態が切迫している場合は、電話や口頭で行うこともできます。

 またこの派遣要請・派遣実施は、災害が発生し被害が出てしまう前でも、行うことができます。さすがに災害発生前に要請をするのは無理なようですが、災害が発生すれば、まだ被害が出ていないくても、そのおそれが充分にありまさに被害が発生しようとしている場合派遣要請を出しても構いませんし、またこれを受けて派遣を実施しても構いません。

 要請を受けることができるのは、防衛庁長官、および長官の指定を受けた部隊等の長です。具体的にどんな部隊の長なら要請を受けられるのかについては、結構多岐に渡るのでいちいち列挙したりはしませんが、基本的に、基地や駐屯地の司令に当たる人物以上です。部隊長や特定の階級以上の自衛官なら誰でも受けられる訳ではありません。

 要請があり派遣実施となれば、長官または指定を受けた部隊長等は、災害派遣で出動した部隊等の指揮官の官職、氏名、その他必要な事項を関係する都道府県知事等に通知します。

 以上が災害派遣の基本的な流れです。一応この他に、「要請を受けるいとまがないと認められる場合」に実施される、いわゆる自主派遣と称される形式もありますが、これは例外。また、営舎の近所で災害が発生した時に自ら部隊を差し出す「近傍災害派遣」も、やはり例外です。

 災害派遣が実施された例というのは、それこそ枚挙に暇ないほど、毎年何十件もの派遣が実施されていますが、これらはその大半が要請を受けた災害派遣です。自主派遣は、今まで1度たりとも実施された事はないようです。平成7年の阪神大震災の時でも要請が出るまで自衛隊は動かなかった、という話は、知ってる人なら知ってる事でしょう。自衛隊が自己判断で活動する事に対してはとかく風当たりが強く、出来る事にはなっていても、実際にはなかなか。一方の近傍災害派遣については、隣近所の火事場に消防車を出す、というような感じで、少ないながらも実施例があります。

 さて、派遣実施と来ると、続いては災害現場での実際の活動、と行きたいところですが、これは内容が結構細かいので後回しです。先に、派遣終了時の説明をしましょう。

 派遣終了、要は出動部隊の撤収ですが、これは要請権者からの撤収要請があった場合か、派遣命令権者が派遣の必要がなくなったと判断した場合かの、いずれかであるのが基本です。ただし災害が大規模である場合は、自主的に撤収を行うに当たって、派遣命令権者が判断を下すのではなく、長官の撤収命令を待つ事となっています。部隊撤収に当たって派遣命令権者は、撤収を命じた旨を関係する都道府県知事等に通知します。

 ここまで、派遣から撤収に至る手続きの流れ、ごく簡単に説明して来ました。ここからは、派遣された自衛隊が、実際に現地でどう活動するか、についてです。

 被災地において自衛隊は、瓦礫の撤去、生活物資の貸与や供与、各種の輸送・搬送、捜索、救助などなど、とにかく有形無形様々な活動を行います。居場所さえ確保できれば、後は活動に必要なものを全部自前でまかなえる、"自己完結性" のある組織として、また陸海空あわせて23万もの頭数と、各種の機材を揃えた多機能な組織として、その威力を発揮します。

 実際に各種救援の作業を行うに当たっては、時として一部強制的な活動を行う事もありますが、これに備え災害出動した自衛官に対してはある程度の権限付与がなされています。

 まず、出動した自衛官は、その場に警察官がいない場合に限り、警察官職務執行法の4条と6条に基づいた活動をすることができます。具体的には、危険な事態に際して警告や避難の措置を行い、危害の予防や損害拡大の防止、救助などのために土地建物へ立ち入ることができます。実施するに当たっては、緊急の場合を除き原則として指揮官の命令によります。

 これにより何ができるかという細かい話は、自治体編の警察のところを見てもらう事になりますが。簡単に述べると、私有財産や自由に関する権利があるとしても、私有地などに立ち入って実力を使った救助活動を展開できる、という事です。

 また同じくその場に警察官がいない場合に限り、災害対策基本法にもとづき市町村の吏員が行使する権限の代行をすることもできます。中身の細かい話は自治体編の市町村のところを見てもらうことになりますが、簡単に列挙すると、避難勧告・避難指示の執行、人的・物的公用負担、災害警戒区域の設定、です。この内公用負担と区域設定については、部隊長命令にもとづいて実施するものです。

 さらに。災害対策基本法にもとづき公安委員会が指定した緊急輸送道路を走行していて、路上に障害物があった場合。これは原則として警察官が取り除くのですが、現場に警察官がいなければ、自衛官が自らこれを除去し、やむを得なければ破損することができます。

 ところで、警職法にもとづくにしろ災対法にもとづくにせよ、自衛官の活動は、「警察官がその場にいない時」に行う事になっています。とりわけ、警職法にもとづく避難措置や立ち入り、災対法にもとづく路上障害物の撤去は、私有財産や自由といった基本的人権を侵害する可能性のある行為です。災害時であろうとも人権は最大限尊重されるべき、という事で、たとえ災害時であっても、私有の物を勝手に処分するのは御発度です。緊急輸送路を塞ぐ障害物であっても、避難を難しくする邪魔物であっても、誰かさんの持ち物であればそれは私有財産ですから、やはり勝手に処分はできない。が、そうも言っていられない状況というのはありますから、警察官がいない場合に限って、例外的にその処分を認めてあげよう、ということです。

 人員23万、各種の機材と自己完結能力を誇る自衛隊ですが、しかるにその主任務は国防、災害対策を主とするものではありません。また、消防や警察(の救助担当部隊)のように、救急・救助の専門部隊な訳でもありません。そのため自衛隊の活動は、警察や自治体や消防を補佐・支援するものとして法で位置付けてある事が分かります。なかなかもってまわった(^^;;)感じですが、そこは法治国家の大原則という事で。

 さて以上は、防衛庁・自衛隊が災害派遣で出動するに当たっての、総論的な話でした。上記の権限を用い、陸海空の自衛隊はそれぞれ様々な活動を展開するのですが、その話をこれからしてみたいと思います。陸は陸なりに、海は海なりに、空は空なりに、いろいろこまごまと組織や装備を整えています。陸海空の順で項目別にしてみました。

  1. 陸上自衛隊

     詳しい内容は工事中です。航空部隊、普通科部隊と連隊の人命救助セット、施設部隊、偵察部隊、化学防護部隊、衛生部隊と野外手術車、需品科部隊とその諸装備、装甲車両の意外(?)な活躍、などについて。

  2. 海上自衛隊

     詳しい内容は工事中です。輸送艦、八戸の機動施設隊、岩国の第31航空群、航空基地の救難隊、などについて。

  3. 航空自衛隊

     詳しい内容は工事中です。輸送航空隊・ヘリコプター空輸隊、機動衛生班、航空救難団、百里の501飛行隊、などについて。

 あと、これは余談。自衛隊と聞けば誰しもが頭に思い浮かべるであろう、武器について。

 昭和55年に定められた防衛庁訓令「自衛隊の災害派遣に関する訓令」によると、災害派遣された自衛隊の部隊は、原則として火器を携行して行きません。兵器を装備した艦艇や航空機、車両などを派遣する場合は、装備上やむをえないのでそのままですが、例えば小銃や拳銃のような個人携行の火器については、持って行かない事となっています。ただし、「救援活動のため特に必要ある場合は、最小限必要とする火器および弾薬を携行することができる」。

 今ではさすがに少なくなったようですが、一頃までは、たとえ防災目的であっても自衛隊が表だって活動する事に異義を唱える向きもあったため、自衛隊側としてはどうしても神経質になるところがあります。災害派遣に武器は不要という事を、わざわざこうして定めてある辺りは、その神経質さの具体的現れとでもいいますか。自衛隊らしい、といえば自衛隊らしい。

 実際の災害派遣ではありませんが、2000年・平成12年9月に東京で開催された防災訓練「ビッグレスキュー東京2000」では、訓練に参加した87式偵察警戒車から、車載の25mm機関砲がわざわざ取り外してありました。この訓練では、防災目的の訓練とはいえ東京銀座の目抜き通りを自衛隊の装甲車が走ったぞ、という事で結構話題になったもんですが、その装甲車から機関砲が取り外してあった事は話題になっていませんでした。マスコミ関係者は気付かなかったんでしょうか?

 ところで、訓令にただし書きが付いているところからも分かる通り、災害派遣には何があっても武器を持って行かない、という事はありません。武器を使わないと災害派遣の目的が達成できないという場合も、稀にではありますが存在し、そういう時は武器弾薬を携行した部隊が出動します。

 災害派遣において武器が使用された、あるいは使用が予想されたケースというのは、私が知っている範囲で3件あります。

 昭和35年9月、谷川岳で遭難しザイルで宙吊りになってしまった登山者の遺体を回収するため、災害派遣された陸上自衛隊の部隊が銃器を用いています。この時、部隊は銃撃でザイルを切断し、遺体を収容しました。現場が急峻で近づけない事による、非常の措置であったとの事です。使用した銃器は分かりませんが、ザイル切断までにおよそ1500発もの銃弾を要したそうです。狙撃1発!とは行かないものなのですね。

 続いて昭和49年11月、東京湾にてタンカー「第十雄洋丸」と貨物船「パシフィック・アリス」が衝突し、両船に火災を起こしました。とりわけタンカーは、排水量4万tの船体に液化石油ガスを満載していたため火災が激しく、海上保安庁による消火活動で一旦は下火になったものの、結局鎮火せず、猛烈な火勢で手が付けられない状態となります。沿岸へ被害が及ぶ事が懸念されたため、海上自衛隊が災害派遣で出動、海没処分となりました。要するに撃沈です。

 この時出動したのは、護衛艦4隻(「はるな」「たかつき」「もちづき」「ゆきかぜ」)、潜水艦1隻(「なるしお」)、対潜哨戒機P-2J 4機です。撃沈には少々難儀したようで、まず護衛艦が5in砲で艦砲射撃を行った後、航空機から150kg対潜爆弾16発を投下、127mmロケット弾12発を発射、さらに潜水艦から533mm魚雷4本を発射(ただし、2本は外れてしまいます!)、ところがタンカーは沈みません。そこで護衛艦から追加の砲撃を行って、ついにタンカーは沈みました。

 タンカーというのは、船内を隔壁で仕切って幾つも船倉を設けている関係上、結構浮力があり、 "綺麗に" 沈めてしまうのは案外難しいようですね。なお、この事件をきっかけとして、海上保安庁は特殊救難隊を創設しました。

 時代は下って、平成8年2月、五島列島近くの東シナ海を航行していたタンカー「サニー・ブリーズ」にて火災が発生しました。同船はジェット燃料など4,000tを積んでおり、炎上したまま漂流し沿岸部に被害が及ぶ危険性が出たため、海上保安庁からの要請で海上自衛隊が災害派遣されました。出動したのは護衛艦「はるな」「くらま」「やまぎり」「さわぎり」および特務艦「もちづき」の合わせて5隻、さらに航空機9機です。

 一時は砲撃による海没処分寸前まで行きましたが、海保の特殊救難隊による、水中から接近し曳航用の索を付ける作業が成功したため、砲撃には至りませんでした。第十雄洋丸の経験がここで生きた訳です。その後同船は領海外まで曳航され、そこで積み荷の油を燃やし尽くした後、沈みました。

1-5. 国土交通省

 防災機関のダークホース、…なんて言うと関係者から怒られてしまうんでしょーか? 

 旧運輸省・旧建設省時代からの関係で、意外に防災にタッチしてる国土交通省。防災基本計画では、海上災害・航空災害・道路災害・鉄道災害について非常災害対策本部を置く場合、国交省が担当になります。また外局の気象庁・海保、審議会等に当たる特別機関の航空・鉄道事故調査委は、防災上大きな役割を果たしています。さらに中央防災無線網の地方緊急連絡回線を維持管理しているのもここ、地方支分部局たる地方整備局・地方航空局及び空港事務所からもなかなか目が離せません。いろいろおいしい(?)とこなのです。

 そんな国土交通省を、ここでは4つの視点から見てみたいと思います。

  1. 気象庁

     自然災害となれば、真っ先に出てくるのがこの気象庁でしょう。台風や前線の進路予報始め天候の予報、天候にからむ各種警報発令でおなじみであるだけでなく、地震が起これば震源と各地の震度を発表しますし、火山観測もここがやっています。地震やら風水害やら、およそ自然災害と名のつくもので気象庁がタッチしないものはありません。

     気象庁は東京に本庁を構える他、地方支分部局として全国5ヶ所の管区気象台、4ヶ所の海洋気象台、及び沖縄気象台があります。各気象台では気象現象の観測と天候予報を行う他、全国にある地震計のデータ、20ある常時監視火山の監視情報も集計します。さらに火山機動観測班を保有し、噴火の予兆と思しき異常現象があればすぐさま出動させます。

     またこの他に本庁直轄の気象衛星センター、高層気象台、地磁気観測所、海洋気象観測船なども保有しています。衛星センターでは気象衛星からのデータを取得、高層気象台ではロケットを打ち上げて高層大気の状態を観測、地磁気観測所ではずばり地磁気の観測(地震の研究に利用します)、観測船は以前海保に頼んでいた海上大気観測を自前で行うための船です。

     かくして収集したデータとそれに基づく予報、また時々刻々の気象状態の発表などでもって、気象庁は災害の予防と被害の局限に貢献しています。大事なデータを自ら生かすための救助部隊みたいなやつは気象庁にはありませんが、でも、もっと大事なものを持っているから別にいいでしょう。なんたって、どんな立派な救助部隊であっても、気象庁の予報情報がなければマトモに動けないんですから…

  2. 海上保安庁

     詳しい内容は工事中です。海上保安庁長官・管区海上保安本部長が持つ自衛隊への災害派遣要請権、救難強化指定巡視船、潜水士と潜水指定船・特定潜水指定船、特殊救難基地・特殊救難隊、ヘリコプターによる吊り上げ救助と機動救難士、などなど… を取り上げる予定です。

  3. 地方部局と通信網

     国土交通省には、地方支分部局として7つの地方整備局(九州・四国・中国・近畿・中部・北陸・関東・東北)、及び北海道開発局があります。ここは様々な現場実働部門を持っているのですが、保有する機能の中には災害対策活動に関するものも含まれ、その内容は実に多岐に渡ります。

     平常時防災目的で公共事業を実施することに始まり、災害発生が予想される際には、国道を走る車が災害に巻き込まれないよう国道の通行を規制したり、ダム決壊を防ぐためダムゲート操作で貯水量調整をしたり、管轄する河川の流量を監視して水防警報を出したり、またこれらの対策措置に資するため独自のレーダー雨量計・テレメータ雨量計を全国規模で運用していたり(気象庁の雨量計とはまた別です)… と本当に実にいろいろ。

     あまりに活動が手広いので、残念ですが、ここでその全てを逐一紹介することは出来ません。私の手に余ります。これからここでご紹介するのは、地方整備局の災害対策の中でも、実際に災害が発生した時に威力を発揮するような類の活動です。具体的には、国交省災害対策機械の活動、及び国交省通信回線についてです。

     まずは、国交省災害対策機械について。これは、実際に災害が発生してしまった場合において、現地において情報収集・災害復旧活動を行うための資器材です。

    情報支援対策機械…
    災害対策車(支援車・待機支援車・情報収集車あるいは調査車・衛星通信用移動局)、ヘリコプター
    災害復旧機械…
    排水ポンプ車、照明車、土のう造成機
    水防活動支援資材…
    簡易パラペット工、組立式釜段
    応急対策資材…
    応急組立橋、車両排除装置、浄水装置、防災シェルター

     とりあえずばばっと列挙してみましたが、結構数あるものです。それぞれがどのような装備で、どのような使われ方をするのか、またまた簡単に説明してみますと。

    1. 情報支援対策機械

       ずばり、現地に乗り込んでいって情報収集を行うための車両やヘリコプターです。

       情報収集車はカメラを積んだ車両で、これで現地の生情報を得ます。調査車と呼ばれることもあります。衛星通信用移動局は衛星通信アンテナを搭載した車両。そして支援車・待機支援車は最前線において国交省の活動拠点となる車両であり、通信器材と、あとちょっとした居住設備を備えています。待機支援車は支援車に比して居住設備に重点を置き、現地職員の生活拠点としての機能を強めた作りになっているようです。

       大災害発生に際しては、支援車・待機支援車に現地対策本部を開設して応急対策の工法などを検討する一方情報収集車・調査車と衛星通信用移動局が局や本省にばんばん現地情報を送る、というのが典型的な運営スタイルになるでしょうか。これら災害対策車は、7つの地方整備局・北海道開発局すべてに配備されており、管轄区域内で災害発生時必要とあらば出動します(一部、支援車のみ配備で待機支援車がない局もあります)。ちなみに公安委員会から緊急自動車指定も受けており、赤灯ひらめかせサイレン鳴らして緊走する事ができます。

       さらに、地上からは接近できない場所の情報や被災地域の全体映像などを得るために、ヘリコプターも配備されています。現在(平成14年4月時点)配備されているのは次の6機。

      • 「はるかぜ」(九州地方整備局。福岡空港定置、ベル412EP)
      • 「きんき」(近畿地方整備局。八尾空港定置、ベル412EP)
      • 「まんなか」(中部地方整備局。名古屋空港定置、ベル412EP)
      • 「あおぞら」(関東地方整備局。東京ヘリポート定置、ベル214ST)
      • 「みちのく」(東北地方整備局。仙台空港定置、アエロスパシアルAS332-L2)
      • 「ほっかい」(北海道開発局。朝日石狩ヘリポート定置、ベル412EP)

       各機ズーム機能付きテレビカメラ及び映像無線伝送装置、大型サーチライト、熱赤外線カメラを装備します。しかるに、あくまで情報収集用の機体であるため、吊り上げ救助用ホイストのような、実際に救助を行うための装備は積んでいません。

       ちなみに、「はるかぜ」「きんき」「あおぞら」の3機は建設省時代からの持ち上がり、「ほっかい」はもともと北海道開発庁のヘリで、平成13年の省庁再編で国交省に移ったもの、「まんなか」「みちのく」は国交省時代になって整備された機体、です。

       また、上記6機と違い国交省が保有する機体ではありませんが、北陸地整局が民間会社のヘリを防災用に用いています。

      • 中日本航空株式会社のヘリ(北陸地方整備局。新潟空港定置、アエロスパシアルAS350B)

       なお、四国・中国地方整備局には現在のところ(平成14年4月現在)ヘリ配備の予定はありません。なので、この管内で災害が発生しヘリが必要となれば、隣接局から応援してもらうことになります。

       ところで。国交省が運営するこれらのヘリは、実は国が自由にアゴで使える数少ない機体の1つであり、そういうところにも利用価値があったりします。防災関連のヘリコプターといえば、他にも自衛隊・警察・消防・海保・各自治体が持っていますが、海保を除けば、いずれも国が自由に使うことはできません。警察と消防は地方機関なので国がとやかく口を出すことはできませんし、自治体もしかり。自衛隊は「災害派遣」されなければ利用不可。大規模な災害ならともかく、地方片田舎の、それも局地的な災害であったりするとちと面倒です。

       しかしそんな時であっても、国交省のヘリならすぐさま飛ばす事ができます。ヘリの本来の任務は情報収集ですが、ある程度までなら人員や資材の輸送に使えなくもない。まあ、本来の用途とは微妙にずれますが、こういう使い走りみたいなこともできるのでした。

       あと、これは余談なのですが。国交省は現在6機のヘリを持ってますけれど、実際にこれの運航や管理に当たっているのは、国交省ではありません。国交省は、機体は持っていますが、整備士やパイロットまで抱えてはいないのです。じゃあ誰が飛ばしているのかというと、運航を委託された民間の人々なのでした。近畿地整局の「きんき」と北陸のヘリは中日本航空、それ以外のヘリは朝日航洋という会社がヘリを管理・運航しています。この辺りも、よそ様とは一味違います。

    2. 災害復旧機械

       復旧、という表現にはいまいちしっくり感を得ない部分もあるのですが… それはそれとしまして。被災地にて、実際に被害を局限したり、あるいはそのための作業を支援する機械類です。

       このカテゴリに属する機械として上では排水ポンプ車、照明車、土のう造成機を挙げましたけれども、それぞれの役割は名前を御覧になれば御分かり頂ける事でしょう。照明車は強力な照明で夜間作業の支援、排水ポンプ車は氾濫・浸水した水の排除、土のう造成機はその名の通り水害対策などに用いる土のう造成マシンです。

       ちなみに。排水ポンプ車は、単なるポンプを積んだだけの車ではなく、発電機と大型ライトも合わせ積んで照明車兼用としてある事が普通です。多機能なものになると、さらにクレーンも積んでいます。また土のう造成機は、自走能力は限定的でしかありませんが、土と規格ものの袋さえ準備してあげれば袋詰め結束まで全自動でやってくれる、なかなかのすぐれものだそうです。

       ここに挙げた機械の内、排水ポンプ車と照明車はすべての地方整備局・北海道開発局に配備してあります。しかし土のう造成機は、とりわけ水害の危険性が高い一部地方にしか配備されていません。

    3. 水防活動支援資材

       要は、堤防決壊を防ぐための資材なのですが… 名前だけではかなり分かり難いでしょうか。

       簡易パラペット工、とは、堤防かさ上げ用のパネルです。堤防というやつは、元が土で出来ているだけに、越水されてしまうと水が染みこんで途端に決壊しやすくなるのだそうです。越水を防ぐ手としては、最も一般的なのは「土のう積み」なのですが、これは時間と労力のかかる結構大変な作業です。で、より簡単に堤防かさ上げができるようにと開発されたのがこの簡易パラペット工です。ガラス繊維強化セメント製のパネルで、これを堤防上に並べることにより、越水を防ぎます。

       組立式釜段工、は、私もよく分かりません(爆)。なんでも漏水防止用資材なんだそうで…。堤防に小さな穴があいてそこから漏水が始まった時、放置しておくとそこから堤防が崩れ始めます。なので、漏水が始まったらその穴の周りに丸く土のうを積んで「釜段」を作り、それでもって漏水を防ぐんだそうです。ここで、土のうの代わりにスチール枠を使ってより簡易に素早く釜段組みができるようにしたのがこの組立式釜段工。(…やはり、よく分からない…)

       水防活動支援、と銘打ってある通り、とりわけ水害の危険度高い地域にのみ配備される機械です。不幸なことに(苦笑)我等が九州地方整備局にはしっかり配備されています。

    4. 応急対策資材

       上記の各機械・資材の活躍むなしく被害が発生してしまった場合において、出番となるのがここに上げた資材達です。

       まず応急組立橋。橋は橋です。鉄骨を三角形に組み合わせたトラス構造を主構とする "出来合い" の橋で、橋長は最大で40m、橋の落ちた川に架ける他、土砂崩れなどで路面がえぐられた道路に架け渡すこともあります。関係無いけど、実際架けられる時は必ずといっていいほど「国土交通省 応急組立橋」とPR用横断幕が橋の横腹にかかります。準備がいい…

       車両排除装置は、路上に放置された車両を人力で排除できるようにする装置です。ジャッキの友達…みたいに考えてもらえればいいのでしょうか。放置車両の下に差し入れて、車体を持ち上げ、後は人が手で押して路肩に排除します。完全に別の場所までもってってしまうことはできませんが、とりあえずどかすくらいならできるという事で、応急用にはイケるでしょう。

       浄水装置は、そのまんま。泥水をろ過し、塩素殺菌して、とりあえず飲料に適した水にしてくれます。防災シェルターは、国土交通省のロゴ入り大型エアーテントです。ちなみに色は未定らしく、配備先の整備局によってまちまちです。

       これらの資材は、応急組立橋以外は、あまり広く配備されていません。特に浄水装置と防災シェルターは、被災者への手当てという側面の色濃い資材になりますが、しかるに被災者を救護するのは国交省が直接任務とすることろではありません。なので、被災者対策はしかるべき部署にお任せし、国交省としてはインフラ(特に交通インフラ)への被害対処に重点を置くということになります。確かに、そう割りきる方が無駄が少なくて良いでしょう。

     以上、災害対策機械を列挙紹介してみました。各地方整備局・北海道開発局には、ここに挙げた機械の全て、あるいは少なくとも一部が必ず配備され、管内での災害に備えてあります。

     なお、これは余談ですが… これらの災害対策機械、国土交通省が全国に配備していることはいるのですけれども、その中身は地方によってかなりまちまちなところがあったりします。例えば、災害対策車(支援車)と一口に言っても、その具体的車種や構造、デザインは、地方によって微妙に異なります。九州局の支援車と中国局の支援車を並べて較べてみれば、車種は違うしデザインも違う。

     同じ役割負った機械のはずなのになぜか… といいますと、どうも、本省の側で規格を決めている訳ではないらしく、決まっているのは基本的な要求性能のみ、後の細かい仕様は外見のデザインも含めて地方局任せとなっているらしいのです。お蔭様で、同じ役割同じ名前同じ要求性能の災害対策機械であっても、地方ごとにいろいろバリエーションの異なる機械が生まれてくるらしい。

     まあ、元の車種や細かい仕様が地方ごとに異なるのは、別に構わないと思いますが… デザインまで違っちゃうのは、いいんでしょうかね? もし、何らかの大災害で全国の災害対策機械を召集したりした時、デザインがばらばらだと統一感がなくていらぬ混乱を招いたりしませんかね? あるいは全国規模の訓練でもって同じく召集かけてみたりした時、いざ集めてみるとデザインばらばら、なんか即席烏合の衆みたいな印象を与えてしまって感じ悪い… とか(失礼!!)

     いや、別にデザインを統一しなければならない必然的理由なんてものはないので、デザインが局ごとに違っていても一向構わないと言えば構わないんですけどね。ただ単に、私がぼんやり不思議に思っただけの事で… それにそもそも、実力しっかりしてるのなら、デザイン統一して「国土交通省軍団見参!」とアピール(笑)してくれなくても全く構わないです。

     災害対策機械についてはこのくらい。続きましては、国交省の通信回線についてです。

     国土交通省の通信回線は、大きく固定系と移動系の2つに分けられます。固定系はマイクロ波を利用した多重無線回線、及び衛星通信回線、移動系は固定系のマイクロ回線と接続できる移動多重無線、K-COSMOS(K-COmmunication System for MObile Station)、及び衛星通信車と可搬型衛星通信装置(Ku-SAT)による移動衛星通信回線に、それぞれ分類されます。

    固定系
    • マイクロ波多重無線回線
    • 衛星通信回線
    移動系
    • 移動多重無線
    • K-COSMOS
    • 衛星通信回線

     関係ないけど、K-COSMOSのKとは、元々はKensetsuのK。しかし平成13年の省庁再編を経た今、建設省はなくなってしまいました。今でもK-COSMOSの名称は残っているようですが、じゃあそのKは何のKだ?。Kokudokoutsuuでしょか。(笑)

     というようなつまらないちゃちゃは置いておきまして、以下それぞれの回線についてほんの少しだけ説明してみます。

     固定系のマイクロ波多重回線は、建設省時代に専用回線として整備されたもので、各種ある回線の中では最も歴史が古く、かつ基盤となる通信回線網です。大本は大層古いもので、戦前に内務省が水防用に整備した有線通信線まで遡ります。昭和23年の建設省発足の際、これを内務省から引き継ぎ、さらに昭和25年以降回線を無線化した上でさらに延長して行きました。昭和39年までに、当時の各地方建設局・管内各事務所と本省、さらに東北地建の回線を延長し北海道開発庁の局まで接続していました。この後も無線の多重化、無線周波数のマイクロ波化、迂回通信路整備、さらに伝送方式のデジタル化と、整備が続いて行きます。

     もともと水防用の回線から始まったとこからも分かるように、固定マイクロ回線は防災とも大きな繋がりを持って整備されたものです。災害のない平時においては、本省と各局、国道事務所や河川事務所との連絡に用いられますが、いざ災害時となると被害状況の報告・救援要請などに活用されることになります。

     先に国編の中央防災無線網のところや消防庁のところでも書きましたが、政府と地方自治体を結ぶ正式な防災通信回線として使われているのはこの国交省マイクロ波多重無線通信回線です。各都道府県の防災担当部局には本回線の通信端末が設置してあり、災害時自治体はこれを通して(中央防災無線網経由で)内閣府、また消防庁に連絡や報告や各種要請を行うことができます。

     移動系の移動多重とK-COSMOSは、固定系のマイクロ回線との接続を視野に入れて整備された通信回線です。K-COSMOSは道路や河川のパトロール用に整備された、トランシーバー感覚で使える無線システム、一方の移動多重は災害現地に通信端末を開設するための、割と大がかりなものです。

     衛星通信は、固定系は各地方整備局の固定アンテナを、移動系は(災害対策機械の)衛星通信車や可搬型衛星通信装置(Ku-SAT)を使って衛星経由で通信網を構成するものです。特に移動系の場合、赤道上に浮かぶ静止衛星と通信できる場所、具体的には南々東が開けた場所にアンテナが設置できればすぐさま通信できるので、機動性がとても高く有用です。この点従来の無線網では、移動系であっても固定マイクロ回線に接続できる中継所が近くになければ実際には使用できないものだったので、この差は大きい。

     上記それぞれが災害時に大きな役割を果たした例というのは、それこそ結構な数あるようです。特に、早くから全国を網羅して整備された固定無線網と、機動的な通信が可能な衛星通信網は、随所で活躍を見せたといいます。昭和39年の新潟地震・昭和47年の繁藤地すべり災害・平成7年の阪神淡路大震災・平成8年の豊浜トンネル岩石崩落事故と蒲原沢土石流災害などなどで活動しました…とのことでした。なるほど。

  4. 航空災害関連

     詳しい内容は工事中です。空港事務所長が持つ自衛隊への災害派遣要請権、救難調整本部(RCC)の役割、国が管理する空港へ地方航空局が配備している消防車両、などについて取り上げる予定です。

 

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