自衛隊もし戦わば

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 自衛隊もし戦ば。自衛隊の実戦出動・実力行使の話であります。

 設立よりはや半世紀。自衛隊は国内随一の武装組織・国防機関として存続して来ました。幸いな事に、自衛隊が外敵に向かって実力を行使した事は、領空侵犯機に対する威嚇射撃と領海内に侵入した不審船に対する威嚇射撃がそれぞれ1度あるっきり。冷戦が終わった現在は旧ソ連の脅威も大幅に減退し、自衛隊が国内において大規模な通常戦を展開する可能性は限りなく小さくなった、と申し上げて良いでしょう。もっとも、皆無と言うつもりもありませんが。

 今現在、自衛隊が武装勢力としての実力を行使する可能性があるとすると、それは国防面でと言うよりは、例えば治安、例えば国際貢献における面の方がより高いと考えられます。そこで、本ページにおいては取り上げるのは、そういった国防面を除いた面においての「自衛隊もし戦わば」。中でも治安に関するものを取り上げる事に致します。

 何やらいんちき臭くて、すいません。

1.治安出動

 国防を除いたところでの "自衛隊戦わば" と来れば、真っ先に出て来るのはやはりこれでしょう。治安出動、自衛隊の治安維持活動です。外国においても、また旧軍時代においても、軍が国内治安維持に出動する事例はしばしば見受けられます。さらに、自衛隊の母体は治安組織たる警察予備隊です。そういう訳で、自衛隊には防衛任務の他に治安維持任務も、課せられているのです。

 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもってしては治安を維持できないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命じる事ができます。都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には、当該都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請する事ができます。内閣総理大臣は、上記の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等の出動を命ずる事ができます。

 このような規定が自衛隊法78条と81条に書いてはあるんですけれども、これまで実際に発動された事はありません。1960年の第一次安保闘争・三池闘争はじめ、あわや出動か!?という事態に至ったことは何度かあったらしいですが、ともかくも、実際に出た例はなし。治安のための出動となれば同胞相撃つ事態というものも想定される訳で、いざとなればなんとも後味悪い結果を招きそう…。しかし現在のところそこまれ至った事はない訳でして、良かったですね。しかし、これからも発動がないと決まった訳ではありませんし、日本を取り巻く情勢の変化などに伴い、治安出動の可能性は相対的に高まっているとも言える。具体的な中身を検討してみても、決して損はありますまい。

  1. 出動! ちょっとその前に
  2. 投石、火炎瓶、催涙弾、銃剣
  3. デモ隊からゲリコマへ
  4. そして今、自衛隊は
 

2.海上警備行動

 領土・領海・領空を合わせて「領域」という言葉で呼びますが、「国防」という言葉を狭く解釈する場合、この領域を実力で守ることがすなわち国防であるとなります。領域内侵入者を排除するためには常日頃から領域内を警戒しておくことが必要とされますが、しかるにこの方法はお国によって様々です。

 総じて言うに、今の時代、軍隊が直接領域内警戒に当たることは少なくなりつつあるようです。領土内には警察がいるし、国境には入国管理官庁がある。最近では海上保安組織の設立も増えつつあるようです。日本においても、領土内内警戒・警備の責を第一に負っているのは警察ですし、また領海警備は海上保安庁が担当しています。自衛隊が警戒の第一の責を負っている訳ではありません。

 しかるに、直接侵略のような急迫不正の侵害がある場合において自衛隊が防衛行動をとることはもちろんのこと、その他警備上・治安上の問題が起これば自衛隊が出動するというのは皆さんも御存知の通りであります。上記治安出動などは、その代表的例であります。

 ところで自衛隊法においては、治安出動の他に「海上警備行動」という海に関する治安行動を設けてあります。最初このページを作ったばかりの時は、よもや「海上警備行動」がここまでメジャーになってしまうとは思ってもいませんでした。いやいや、世の中分かりませんて…。

 防衛庁長官は、海上における人命もしくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとる事を命じ得ます。自衛隊法82条の規定です。海上警備行動と呼ばれる規定で、ここではこれを取り上げます。

 

3.対領空侵犯措置

 上で、領土・領海については「自衛隊が警戒の第一の責を負っている訳ではない」と書きました。さて、では領空はどうなのでしょう?

 結論から言うと、領空の警戒を行っているのは自衛隊です。なんと言っても、領空警戒を実施するだけの航空機や設備を持っているのは、自衛隊だけですからね。ついでに言うなら、警察機関が領空警戒を行っている国というのは世界のどこにもないような気がします(軍隊のないコスタリカはどうなんだろうか)。逆に言うと、それだけ空という領域が特殊な場所であることを示しているんですけれども。

 自衛隊は、領空の警戒をどのように実施し、不法侵入に備えているのか。それを、これから見ていきたいと思います。

 

4.駐屯地警衛

 国の武力組織には、その防衛機能の保全のため、これを侵害する者に対する自己防衛の措置をとる権限が認められる必要がある、そうです。これを軍隊の自己防衛権というそうですけれども。確かに、施設破壊や職務妨害をなす者に対し黙って見ているのでは、話になりませんね。

 自衛隊において、この防衛機能の保全を主として担っているのは警務隊と情報保全隊です。警務隊は自衛隊内において警察官の役割を果たしている警務官・警務官補で編成された部隊であり、情報保全隊は自衛隊の機密を守る各種活動を行っている部隊です。これらについては治安機関エトセトラにおいて言及しておりますのでどうぞ。本項ではこれらの部隊に限らず、もう少し広い範囲で防衛機能保全について見てみることとします。

 

補.自衛隊による領域警備活動

 さて。これまで陸/海/空各自衛隊による、"平時の" 実戦活動についてあれこれと書いて来ました。陸(を中心とした部隊)の治安出動、海の海上警備行動、空の対領空侵犯措置、それから各自衛隊基地・駐屯地の警衛活動に至るまで。

 ここで触れて来たこれらの活動は、言葉を変えて、「領域警備活動」という単語で括る事もできます。4の防衛機能保全については自衛隊及び在日米軍の基地警備の活動であって、日本の領域を直接守っているとは言いがたいところもありますが、しかるにそれらの基地施設は日本国内にあるのであり、領域警備と全くの無関係というものでもありません。

 今までは、どちらかというと各論相当の話でした。ここでは、領域警備の総論みたいな話を、ごくごく簡単に……

 

5.おまけの海外出動

 おまけ、と言いましたが、でも実際に自衛隊がどんぱちやる可能性が一番高いのはこれ、でしょうねぇ。

 湾岸戦争終結後のペルシャ湾への掃海部隊派遣に始まり、PKO協力法によるカンボジアやモザンビークへの部隊派遣、邦人輸送(救出)に備えたタイ・シンガポールへの輸送機派遣と、自衛隊の海外出動はもはや夢物語ではなくなりました。最近では「周辺事態法」に基づく自衛隊出動も、可能性の話ながらあり得る事になりました。

 こういった海外出動の現場は、自衛隊が出るだけあって決して安穏とした場所ではありません。武器の使用も予想され得る、騒然とした場所です。こういった場合の武器の使用に関しては、当然原則があるんですが、これらの細かい点についてはどなたかがやって下さるでしょう。自衛隊については、今はやりの分野ですから。

 ただ1つだけ言えるのは、自衛隊の海外出動といっても、昔日本が行ったような侵略行為とは違うでしょうね……という事です。自衛隊反対派の方の中には海外派遣を評して「侵略の嚆矢だ」とおっしゃる方もいらっしゃるんですが……。でも、現在の自衛隊の能力では、まとまった数の戦闘部隊を海外に送るのは不可能ではないですかね。その部隊に継続して補給を行うとなると、なおさらでしょう。

 戦艦の猛烈な援護射撃の下、血に飢えた兵士が銃剣かざして上陸作戦を決行し、戦闘の過程で民間人を虐殺し、現地を占領した後は泣く子も黙る圧制を敷く……というような活動は、現時点の自衛隊ではちょっと考えられないと思うんですけどねぇ。どんなもんでしょう。

 以上、自衛隊もし闘わば、でした。ちょっとだけマニアックに攻めてみましたけど、いかがでしたか? 興味を満たされたのでしたら、執筆者としては大変嬉しく思います。

 
 
主要参照文献;
『平和・安全保障と法《補綴版》─防衛・安保・国連協力関係法概説─』 編;防衛法学会 刊;内外出版株式会社 1997
『日本の安全保障法制』 著;西修・富井幸雄・松浦一夫・高井晉・浜谷英博 刊;内外出版株式会社 2001

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